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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第34話 完璧令嬢、華麗に再登場します

翌日、午後。


私は舞踏練習室で、ひとり黙々と足運びの復習をしていた。


一歩、二歩、回って――


「きゃっ!」


見事に自分の裾を踏んだ。


危ない。


本番前に戦線離脱するところだった。


「相変わらず危なっかしいですわね」


聞き覚えのある高い声に、私は振り向いた。


入口に立っていたのは――


エレノア・ヴァレンティーヌ。


今日も完璧だった。


艶やかな金髪。

隙のない姿勢。

品のあるドレス。

勝てる気がしない。


「……なぜここに」


「ご挨拶ですわ」


優雅に扇子を広げる。


「春の舞踏会に出ると聞きましたの」


情報が早い。


怖い。


「笑いに来ました?」


「まさか」


エレノアはふっと微笑んだ。


「見に来ましたの。ライバルの実力を」


面倒な人が来た。


私は額を押さえた。


「私はあなたのライバルになった覚えはありません」


「わたくしが認定しましたの」


迷惑である。


その時、入口からさらに低い声が響いた。


「何をしている」


アルフレッドだった。


今日は黒の練習着姿。


相変わらず無駄に格好いい。


エレノアは一瞬で笑顔を切り替えた。


「ごきげんよう、殿下」


「……帰れ」


即答だった。


「冷たいですわ」


「通常運転だ」


私が少し笑うと、アルフレッドがこちらを見る。


「何がおかしい」


「いえ、通常運転だなと」


エレノアが扇子で口元を隠した。


「仲がよろしいこと」


何だか腹が立つ。


エレノアは私の前へ歩み寄ると、足元を見下ろした。


「その踏み込み、甘いですわ」


「は?」


「軸がぶれていてよ」


言うなり、自ら優雅に一歩踏み出す。


滑るような足運び。

美しい姿勢。

完璧だった。


悔しいが、すごい。


「……上手いですね」


「当然ですわ」


胸を張るな。


エレノアは私へ手を差し出した。


「来なさい」


「え?」


「教えて差し上げます」


予想外だった。


「なぜ」


「舞踏会であなたが転べば、殿下の評判にも関わりますもの」


理屈はそれっぽい。


でも少しだけ、別の優しさが見えた気がした。


私はおそるおそる手を取る。


エレノアの指導は厳しかった。


「背筋!」


「はい!」


「視線!」


「はい!」


「もっと堂々となさい!」


「はい!」


鬼教官である。


だが確実に分かりやすい。


数回で動きが安定してきた。


アルフレッドが腕を組んで見ている。


「……使えるな」


「褒め言葉として受け取りますわ」


エレノアは得意げに笑った。


練習が終わる頃、私は息を整えながら言った。


「ありがとうございました」


「当然ですわ」


素直じゃない。


エレノアは私へ顔を寄せ、小声で囁く。


「勘違いしないで。恋の勝負は別ですわよ」


「まだ諦めてなかったんですか」


「当たり前ですわ」


強い。


そこへアルフレッドが間に入った。


「勝手に進めるな」


「殿下は黙っていてくださいまし」


「嫌だ」


珍しく即答だった。


私は思わず吹き出す。


二人とも子どもか。


エレノアは扇子を閉じ、私をまっすぐ見た。


「舞踏会では負けませんわ、アメリア」


「何で勝負するんですか」


「女の魅力です」


勝てる気がしない。


だが不思議と、もう以前のような敵意は感じなかった。


面倒で高慢で完璧で――少しだけ格好いい人だ。


こうして悪役令嬢は、かつての恋敵と奇妙な同盟関係を結ぶことになったのだった。

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