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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第30話 悪役令嬢、自分の気持ちをごまかせません

翌朝。


王城厨房は、いつも通り忙しかった。


焼きたてのパンの香り。

スープの湯気。

侍女たちの元気な声。


平和である。


……私の心以外は。


「アメリア様、塩はこちらです!」


「えっ」


私は手に持っていた砂糖壺を見下ろした。


危ない。


あと数秒で、王族用オムレツが甘味仕立てになるところだった。


「お疲れですか?」


侍女が心配そうに覗き込む。


「だ、大丈夫です」


大丈夫ではない。


昨夜からずっと、頭の中である言葉が反復している。


――行くぞ、アメリア。


低く落ち着いた声。


自然に呼ばれた名前。


思い出すたび、胸の奥が変に熱くなる。


「アメリア様、パン焦げてます!」


「きゃっ!」


慌てて取り出したパンは、ほんのり茶色を通り越していた。


侍女たちがざわつく。


「珍しい……」


「熱でも?」


「恋煩いでは?」


「違います!!」


思わず大声が出た。


厨房が静まり返る。


しまった。


私は咳払いをした。


「ちょっと寝不足なだけです」


「誰のせいで?」


「誰でもありません!」


なぜ尋問されているのか。


その時、背後から優雅な声が響いた。


「まあ、朝から賑やかね」


振り向けば、王妃セレナ。


今日も美しい。


そして目が完全に面白がっている。


「お、おはようございます」


「ええ、おはよう。……アメリア、少し歩かない?」


嫌な予感しかしない。


中庭へ連れ出された私は、観念してため息をついた。


王妃は花壇を眺めながら言う。


「昨日、アルフレッドと実家へ行ったそうね」


「はい」


「頼もしかったでしょう?」


「……それなりに」


「名前でも呼ばれたとか」


なぜ知っている。


「情報網が怖いです」


「母ですもの」


意味が分からない。


王妃は楽しそうに笑い、ふと真面目な顔になる。


「アメリア。あなた、あの子のことをどう思っているの?」


心臓が跳ねた。


「どう、とは」


「嫌いではないでしょう?」


「それは……まあ」


「好き?」


直球すぎる。


私は思わず視線を泳がせた。


好き。


その言葉を頭の中で転がした瞬間、顔が熱くなる。


違う、そういうのではない。


きっと違う。


「尊敬はしています」


「ふふ」


「少し感謝も」


「ふふふ」


「たまに格好いいとも」


「まあ!」


「でも意地悪で命令口調で無愛想で――」


「つまり大好きね」


「違います!」


王妃の笑顔が眩しい。


私は額を押さえた。


「……分からないんです」


それが本音だった。


婚約破棄され、追放されかけ、王城に流れ着いた私が。


王子の隣を望んでいいのか。


好きになっていいのか。


王妃はそっと私の肩に手を置く。


「気持ちは、理屈で決めるものではないわ」


優しい声だった。


「怖いなら、少しずつでいいの」


その時。


中庭の入口から低い声がした。


「母上、ここにいましたか」


振り向けば、アルフレッド。


いつもの無表情。


……のはずなのに、今日は目が合っただけで心臓がうるさい。


王妃は意味ありげに微笑む。


「ええ。ちょうど恋の相談をしていたところよ」


「母上」


「では私はこれで」


逃げた。


絶対わざとだ。


私とアルフレッドだけが残される。


沈黙が落ちる。


気まずい。


いや、私が勝手に気まずい。


アルフレッドは数歩近づき、じっと私を見る。


「顔が赤い」


「気のせいです」


「熱か」


「違います」


「ならいい」


低い声が少しだけ柔らかい。


ずるい。


本当にずるい。


私は顔を逸らし、小さくつぶやいた。


「……殿下のせいです」


「何?」


「何でもありません!」


聞こえていたくせに。


アルフレッドは珍しく口元を緩めた。


その笑みに、また胸が跳ねる。


ああ、もう駄目だ。


こうして悪役令嬢は、ついに自分の気持ちをごまかせなくなっていくのだった。

いつも読んでいただきありがとうございます。

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