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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第26話 冷徹王子、初めて未来を意識します

晩餐会の翌夜。


王城の廊下は静まり返り、窓の外には淡い月明かりが広がっていた。


アルフレッドは一人、執務室で書類に目を通していた。


税制改革案。

南部街道整備計画。

騎士団再編成案。


どれも重要だ。


だが――今日は妙に集中できない。


「……嫁に来い」


父の声が脳裏によみがえる。


ペン先が止まった。


「余計なことを」


低くつぶやく。


だがさらに厄介なのは、その言葉を否定しきれない自分だった。


もし、アメリアがこの城に正式に残るなら。


朝、厨房で騒がしく指示を出し。

昼、使用人たちに慕われ。

夜、疲れた誰かに温かな食事を届ける。


そんな光景が、自然に思い浮かぶ。


(……何を考えている)


アルフレッドは額を押さえた。


そこへ扉が軽く叩かれる。


「兄上、入るよー」


返事を待たずルシアンが入ってきた。


「勝手に入るな」


「顔が怖い。仕事? 恋?」


「帰れ」


「恋だね!」


即答だった。


ルシアンは机に身を乗り出し、にやにやと笑う。


「昨日の兄上、かっこよかったよー。“その件は私が決めます”って!」


「黙れ」


「僕なら言ったあと照れて転げ回る」


「お前と一緒にするな」


ルシアンは楽しそうに椅子へ座った。


「で? いつ言うの?」


「何をだ」


「求婚!」


アルフレッドのこめかみに青筋が浮かぶ。


「誰がそんな話をした」


「してる顔だよ」


鋭い。無駄に鋭い。


ルシアンは真面目な顔になった。


「兄上さ、昔から大事なものほど言葉にしないよね」


その一言に、アルフレッドは黙った。


幼い頃からそうだった。


責任も、痛みも、想いも。


言葉にするより背負う方が早いと思っていた。


だがアメリアは違う。


言わなければ伝わらない相手だ。


むしろ、言わなければ料理で流される。


「胃もたれです」

「気のせいです」

「勘違いでは?」


容易に想像できる。


……かなりあり得る。


ルシアンが吹き出した。


「今、変な想像したでしょ」


「していない」


「嘘つき」


その時、再び扉が開いた。


今度は王妃セレナだった。


「まあ、兄弟会議?」


「母上、兄上が恋で悩んでる」


「ルシアン」


「痛い痛い痛い!」


耳を引っ張られている。


王妃は優雅に笑い、アルフレッドを見る。


「あなた、やっと未来を考えた顔をしているわね」


「……意味が分かりません」


「分かるわよ。母ですもの」


逃げ場がない。


王妃は机の書類を見て、ふっと笑った。


「国の未来も大事。でも、自分の幸せも同じくらい大事よ」


珍しく真面目な声だった。


アルフレッドは視線を落とす。


幸せ。


自分には縁遠い言葉だと思っていた。


だが今は――


朝の厨房で笑う顔。

口うるさく栄養を気にする声。

誰かのために迷わず動く背中。


その姿が浮かぶ。


「……面倒な女です」


ぽつりとこぼす。


王妃は即答した。


「好きなのね」


「違います」


「遅いくらいよ」


ルシアンがうなずく。


「うんうん」


アルフレッドは深く息を吐いた。


否定する気力もない。


王妃は扉へ向かいながら振り返る。


「焦らなくていいわ。でも、伝える時はちゃんと自分の言葉でね」


そう言って去っていく。


静けさが戻った部屋で、アルフレッドは窓の外の月を見上げた。


自分の言葉で。


その難しさに眉を寄せながらも、不思議と嫌ではなかった。


その頃、厨房では。


「くしゅん!」


アメリアが突然くしゃみをした。


「誰か噂してますね……」


まったく見当違いである。


こうして冷徹王子は、初めて“彼女との未来”を真剣に考え始めたのだった。

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