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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第22話 冷徹王子、改めて過去を謝罪します

応接室を出た後も、私の心臓は落ち着かなかった。


『恋する男の顔ですわ』


エレノアの言葉が頭から離れない。


そんな顔を、あの冷徹王子が?


(……信じられない)


けれど、最後に聞こえた低い声。


『……逃がすものか』


あれを思い出すたび、胸の奥が熱くなる。


「歩きながら赤くなるな」


隣を歩くアルフレッドが、呆れたように言った。


「なっていません」


「なっている」


「気のせいです」


「そういうことにしてやる」


悔しい。


回廊をしばらく歩いたところで、彼がふいに足を止めた。


人気のない中庭へ続く小道だった。


春の花が咲き、風がやわらかい。


「……少し話す」


「はい?」


珍しく、声が硬い。


私は黙って向き直った。


アルフレッドはしばらく言葉を探すように沈黙し、やがて低く口を開いた。


「前から、言うべきだと思っていた」


胸がざわつく。


彼の瞳は、まっすぐ私を見ていた。


「婚約破棄の件だ」


空気が止まる。


ついに来た。


私は思わず息をのむ。


「あの日、お前を大勢の前で否定した」


静かな声だった。


「お前が何もしていないと、分かっていたのに」


「……え?」


思わず聞き返した。


アルフレッドは苦く目を伏せる。


「証拠は曖昧だった。だが私は……面倒だった」


「面倒?」


「周囲の思惑も、貴族同士の駆け引きも、お前と向き合うことも」


私は言葉を失った。


あまりにも正直で、あまりにも不器用な告白だった。


「だから切り捨てた」


彼は拳を握りしめる。


「最低だ」


春風が吹く。


その横顔は、今まで見たことがないほど苦しそうだった。


「お前が傷ついた顔をしていたのに、私は見ないふりをした」


胸の奥に、忘れたはずの痛みが少しだけ蘇る。


けれど同時に、今目の前にいる彼の後悔も伝わってきた。


「……すまなかった」


深く、頭が下がる。


第一王子が、私に。


誇り高い彼が。


私は目を見開いたまま固まった。


「顔を上げてください」


「許せとは言わん」


「そういう意味ではなく」


私は慌てて周囲を見る。


誰かに見られたら大事件である。


アルフレッドはゆっくり顔を上げた。


その表情は、どこか覚悟を決めた人の顔だった。


「私は、お前に返しきれない借りがある」


「借り?」


「だから守る。今度こそ」


その言葉に、胸が大きく鳴る。


「……ずるいです」


「何がだ」


「そんな風に言われたら、怒れなくなるでしょう」


アルフレッドがわずかに目を見開く。


私は視線をそらした。


「簡単には許しません」


「当然だ」


「でも」


喉が熱い。


「今のあなたは、少し好きです」


言ってしまった。


自分で言って、意味を理解して、顔が爆発しそうになる。


「ち、違います! 少しって何ですか私!」


逃げようとした瞬間、手首をつかまれた。


「待て」


「待ちません!」


「今のは聞き捨てならん」


「忘れてください!」


「無理だ」


その声は、珍しく笑っていた。


私は真っ赤なままうずくまりたくなった。


その時、植え込みの向こうから拍手が聞こえる。


「おめでとー!」


ルシアンである。


「母上、賭け私の勝ち!」


「やるじゃない」


王妃までいた。


「……いつからですか」


「謝罪のあたりから」


最悪である。


こうして婚約破棄という過去に、ようやく一つの区切りがついた。


そして私たちの恋は、ここから本当に始まろうとしていた。

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