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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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20/50

第20話 悪役令嬢、逃げた令嬢を追い詰めます

黒いドレスの裾が、回廊の角を曲がって消えた。


「速い……!」


私は息を切らしながら、アルフレッドに手を引かれて走っていた。


慣れないドレスに、慣れない全力疾走。


令嬢として何もかも間違っている気がする。


「転ぶな」


「言う前に止まってください!」


「止まれば逃げる」


「それはそうですが!」


背後では護衛騎士たちも追ってきている。


けれど、先頭を走るのは第一王子と元悪役令嬢だった。


王城史上かなり珍しい光景だろう。


やがて黒い影は、使用人通路へ飛び込んだ。


表の華やかな廊下とは違い、狭く薄暗い石造りの通路だ。


私ははっとする。


「こちら、厨房裏へ続きます!」


「知っているのか」


「何度も迷いました!」


「威張るな」


威張っていない。


その時、前方で扉の閉まる音がした。


「行き止まりです!」


私は反射的に別の近道を指さす。


「こっちです! 食材搬入口へ回れます!」


アルフレッドは迷わず進路を変えた。


私の手を握ったまま。


(近い。速い。心臓に悪い)


だが今はそれどころではない。


搬入口へ飛び出した瞬間、黒いドレスの人物が立ちすくんでいた。


行く手を騎士たちに塞がれている。


「……終わりだ」


アルフレッドの低い声が響く。


人物はゆっくり振り返り、フードを外した。


現れたのは――若い侍女だった。


見覚えがある。


「夜会の時の……!」


果実水を運んできた侍女だ。


彼女は青ざめた顔で震えていた。


「わ、私は命じられただけです!」


「誰に」


アルフレッドの声に温度はない。


侍女は唇を噛みしめ、首を振った。


「言えません……!」


「言わねば、お前一人の罪になる」


「っ……!」


私は一歩前へ出た。


「あなた、脅されているのね」


侍女の肩がびくりと跳ねる。


図星だ。


「家族ですか?」


「……弟が、借金を」


声が震える。


「返せなければ、職を失わせると……」


やはり。


私は小さく息を吐いた。


「命じた人は、あなたよりずっと卑怯です」


侍女の目に涙がにじむ。


「言ってしまえば、弟さんまで守れるかもしれません」


アルフレッドが静かに続けた。


「私が保証する」


その一言は重かった。


侍女はついに膝をつく。


「……エレノア様付き筆頭侍女、マルタです」


空気が凍った。


「マルタが?」


私は思わず声を漏らす。


エレノア本人ではなく、その側近。


だが、エレノアが知らないとは言い切れない。


アルフレッドの瞳が細くなる。


「他に指示は」


「“国外追放の女が王城に居場所を得るなど許されない”と……」


胸の奥が冷えた。


まだ私は、そう見られているのだ。


その時だった。


「まあ、大捕物ですこと」


涼やかな声が響く。


振り向けば、回廊の入口にエレノア本人が立っていた。


今日も完璧に美しい。


けれど、その笑みだけが妙に冷たかった。


「わたくしの侍女が、ご迷惑をおかけしたようですわね」


私は息をのむ。


アルフレッドは一歩前へ出た。


「説明してもらおう」


エレノアは扇子を開き、優雅に微笑んだ。


「ええ、もちろん。ですが――」


青い瞳が私へ向く。


「まずは、アメリア様と二人でお話ししたいですわ」


春の風が吹き抜ける。


甘い茶会は終わり、物語は新たな局面へ入ろうとしていた。

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