第159話 悪役令嬢、新しい家族を迎えます
季節は巡り。
出産予定日を迎えていた。
その日。
王宮は朝から慌ただしかった。
「アメリア様!」
エマが駆ける。
助産師たちも忙しそうだ。
いよいよだった。
◇
部屋の外。
アルフレッドは落ち着かない様子で立っていた。
座る。
立つ。
また歩く。
落ち着かない。
本当に落ち着かない。
「兄上」
ルシアンが苦笑する。
「大丈夫だから」
「分かっている」
即答だった。
だが。
全く分かっていない顔だった。
◇
「殿下」
王妃様が声を掛ける。
「アメリアなら大丈夫よ」
「……ああ」
短く答える。
だが。
握り締めた拳には力が入っていた。
心配なのだ。
誰よりも。
◇
その時だった。
部屋の中から。
元気な泣き声が響く。
「――――っ!」
アルフレッドが顔を上げた。
皆も息を呑む。
そして。
扉が開いた。
助産師だった。
満面の笑みを浮かべている。
「おめでとうございます」
皆が固唾を呑む。
助産師は嬉しそうに言った。
「元気な男の子です」
静寂。
そして。
「本当!?」
王妃様だった。
早い。
◇
「アメリアは」
アルフレッドが尋ねる。
「お母様もお元気です」
その言葉に。
アルフレッドは大きく息を吐いた。
ようやく安心したらしい。
◇
部屋へ入る。
ベッドの上にはアメリア。
少し疲れている。
だが。
幸せそうに笑っていた。
その腕の中には。
小さな命。
「殿下」
アメリアの声が震える。
「生まれました」
「ああ」
アルフレッドも笑った。
普段は滅多に見せない。
優しい笑顔だった。
「頑張ったな」
その一言に。
アメリアの瞳から涙がこぼれる。
嬉しくて。
幸せで。
涙が止まらなかった。
◇
「抱いてみますか?」
助産師が尋ねる。
アルフレッドが固まった。
珍しい。
本当に珍しい。
「……大丈夫か」
「大丈夫ですよ」
皆が少し笑う。
アルフレッドは恐る恐る腕を伸ばした。
そして。
そっと。
本当にそっと。
男の子を抱き上げる。
まるで世界で一番大切な宝物のように。
「小さいな」
静かな声だった。
男の子は小さな手を動かす。
アルフレッドの指に触れた。
その瞬間。
アルフレッドの表情が柔らかくなる。
「やっと会えたな」
ぽつりと呟く。
「待っていた」
そして。
愛おしそうに男の子を見つめる。
「よく来てくれた」
「ありがとう」
その言葉に。
アメリアはまた涙をこぼした。
◇
「きゃああああ!」
王妃様だった。
「可愛いわぁぁぁ!」
涙が止まらない。
「母上」
「だって可愛いんだもの!」
国王も小さく笑った。
「元気そうだな」
「はい」
アルフレッドが頷く。
その顔はどこか誇らしげだった。
◇
「義姉上!」
ルシアンだった。
「おめでとうございます!」
セシリアも嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます」
「絶対可愛がります!」
「まだ抱っこもしてませんよ」
アメリアが笑う。
皆も笑った。
◇
知らせは王宮中へ広がった。
厨房では。
「アメリア様、おめでとうございます!」
見習いたちが大喜び。
料理長も目を細める。
エマは嬉しそうに涙を拭っていた。
◇
そして。
王都の人々も歓声を上げる。
王太子夫妻に男の子が生まれた。
その知らせは。
春風のように国中へ広がっていった。
「おめでとう!」
「健やかに育ちますように!」
祝福の声が溢れる。
王宮の外では。
子どもたちが笑いながら走り回っていた。
市場の人々も。
商人たちも。
誰もが嬉しそうだった。
愛される王太子夫妻に生まれた、
新しい命。
皆がその誕生を祝福していた。
窓の外から聞こえる歓声に。
アメリアは我が子を抱きしめた。
たくさんの人に愛されている。
この子はきっと幸せだ。
そう思いながら。
アメリアは幸せな涙を流したのだった。




