第160話(最終話)悪役令嬢、世界で一番幸せになります
数年後。
春。
柔らかな陽射しが降り注ぐ。
美しい庭園には、
楽しそうな笑い声が響いていた。
「レオン!」
アメリアの声が響く。
「はーい!」
元気な返事。
芝生の上を、
小さな男の子が駆けてくる。
その隣には。
一匹の犬。
レオンは小さなボールを手に持った。
そして。
「えいっ!」
一生懸命遠くへ投げる。
だが。
あまり飛ばなかった。
それでも。
犬は嬉しそうに駆け出す。
「わんっ!」
転がるボールを追い掛ける。
しばらくすると。
犬はボールをくわえて戻ってきた。
「すごい!」
レオンが目を輝かせる。
「もう一回!」
犬も尻尾をぶんぶん振っていた。
どうやら楽しいらしい。
その様子を見て。
アメリアは思わず微笑んだ。
「仲良しですね」
「ああ」
アルフレッドも目を細める。
◇
「お父様!」
レオンが駆け寄る。
「肩車!」
アルフレッドは少しだけ困った顔をした。
だが。
すぐに抱き上げる。
「高い!」
レオンが嬉しそうに笑った。
犬もその周りを駆け回る。
アルフレッドの表情は穏やかだった。
昔では考えられないほどに。
優しい父親の顔だった。
◇
「そろそろお昼ですよー」
アメリアが声を掛ける。
「はーい!」
一番大きな返事が返ってきた。
もちろん。
レオンである。
◇
大きなシートの上には、
アメリア特製のお弁当。
つやつやのおにぎり。
ふわふわの卵焼き。
からあげ。
サンドイッチ。
うさぎりんご。
どれも皆の大好物だった。
レオンの前だけ。
特別なお弁当。
タコさんウインナーや、
可愛い動物たちのキャラ弁が並んでいた。
「わあぁ!」
レオンの目が輝く。
「くまさん!」
「うさぎさんもいる!」
嬉しそうな声に、
アメリアも笑顔になる。
「特別です」
「やったー!」
レオンは大喜びだった。
◇
「いただきます!」
皆で手を合わせる。
春風が優しく吹き抜けた。
「美味しい!」
レオンはおにぎりを大きくほおばった。
頬がぷくっと膨らむ。
「ゆっくり食べろ」
アルフレッドが言う。
だが。
その姿を見ながら、
少し嬉しそうに笑っていた。
「殿下にそっくりですね」
アメリアが言う。
「そうか?」
「そうですよ」
「食べるのが大好きなところも」
ルシアンが吹き出した。
「確かに兄上そっくりだ」
セシリアも笑う。
「私もそう思います」
皆が笑った。
王妃様も嬉しそうに頷く。
「小さい頃のアルフレッドそっくりだわ」
「母上」
アルフレッドが少しだけ眉をひそめる。
だが。
誰も否定しなかった。
◇
食後。
レオンは犬と一緒に遊び始めた。
楽しそうな笑い声。
幸せそうな笑顔。
それを見つめながら、
アメリアはそっと呟く。
「幸せですね」
アルフレッドが隣を見る。
「ああ」
短い返事。
けれど。
とても優しかった。
そっと重なった手は、
昔よりも温かい。
◇
昔。
悪役令嬢と呼ばれていた頃。
こんな未来が待っているなんて、想像もしていなかった。
愛する夫がいる。
大切な家族がいる。
信頼できる友人がいる。
ルシアンも。
セシリアも。
エマも。
ずっと支えてくれた。
そして。
守りたい子どもがいる。
今。
私は幸せだ。
心からそう思える。
◇
「お父様!」
レオンが駆けてくる。
「お母様!」
小さな手が差し出された。
右手はアルフレッドへ。
左手はアメリアへ。
「みんなで手を繋ごう!」
その言葉に。
二人は顔を見合わせる。
そして。
笑った。
アルフレッドがしゃがむ。
アメリアもしゃがむ。
レオンは嬉しそうに、
二人の手を握った。
その後ろでは。
ルシアンとセシリア。
国王と王妃。
エマたちも微笑んでいる。
犬も嬉しそうに尻尾を振っていた。
春風が優しく吹く。
温かな未来は。
これからも続いていく。
ずっと。
幸せに。
【完】




