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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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157/160

第157話 悪役令嬢、新しい命を知ります

数日後。


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私はいつものように厨房へ向かった。


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焼きたてのパンの香り。


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温かなスープ。


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香ばしいベーコン。


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いつもなら大好きな匂いだった。


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けれど。


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その日だけは違った。


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「……っ」


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思わず足を止める。


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急に胃がむかついた。


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香りが強すぎる。


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「アメリア様?」


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見習いが心配そうに声を掛けた。


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「大丈夫ですか?」


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「ええ……」


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そう答える。


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だが。


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今度は焼き魚の匂いが流れてきた。


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途端に気分が悪くなる。


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「すみません……少し外へ」


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私は慌てて厨房を出た。


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「無理をするな」


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低い声。


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アルフレッドだった。


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結局。


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私は医官の診察を受けることになった。


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そして。


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「おめでとうございます」


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医官が微笑む。


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「ご懐妊です」


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時間が止まった。


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私が?


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本当に?


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胸の奥が熱くなる。


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嬉しい。


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信じられない。


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私はそっとお腹へ手を添えた。


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そこには。


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新しい命がいた。


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部屋へ戻る。


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「どうだった」


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アルフレッドが立ち上がる。


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私は少し笑った。


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「殿下」


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「赤ちゃんがいます」


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静寂。


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アルフレッドが固まった。


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珍しい。


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本当に珍しい。


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そして。


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ゆっくりと近付いてくる。


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「本当か」


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声が少し震えていた。


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「はい」


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私が頷く。


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すると。


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アルフレッドは私をそっと抱きしめた。


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壊れ物を扱うように。


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優しく。


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とても優しく。


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「ありがとう」


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小さな声だった。


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私は思わず目を見開く。


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アルフレッドがこんな風に感情を見せるのは珍しい。


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彼はゆっくり身体を離した。


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そして。


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震える手で私のお腹へ触れる。


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まるで宝物に触れるように。


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優しく。


---


とても優しく。


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「俺の子が」


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アルフレッドが呟く。


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「ここにいるのか」


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その瞳は信じられないものを見るようだった。


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嬉しそうで。


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幸せそうで。


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少しだけ泣きそうだった。


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私はそっと彼の手に自分の手を重ねる。


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「はい」


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アルフレッドは何度もお腹を撫でる。


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そして。


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小さく笑った。


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「楽しみだ」


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私は目を瞬く。


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アルフレッドがこんな風に笑うのは珍しい。


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「早く会いたい」


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その言葉に胸が温かくなる。


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「男の子でも」


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「女の子でもいい」


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アルフレッドは優しくお腹を撫でた。


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「元気な子ならそれでいい」


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私は思わず微笑む。


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「はい」


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そして。


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知らせはあっという間に広がった。


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「本当なの!?」


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王妃様だった。


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目が潤んでいる。


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「本当に?」


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「はい」


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私が答える。


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すると。


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王妃様は両手で口元を押さえた。


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「おばあちゃんになるのね……!」


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ぽろぽろと涙がこぼれる。


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「母上」


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「だって嬉しいんだもの!」


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王妃様は泣きながら笑った。


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「義姉上!」


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今度はルシアンだった。


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後ろにはセシリアもいる。


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「おめでとうございます!」


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セシリアが嬉しそうに言う。


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「ありがとうございます」


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私も笑った。


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「義姉上が母親かぁ」


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ルシアンが感慨深そうに言う。


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「何ですかその顔は」


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「いや」


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ルシアンは笑った。


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「絶対いいお母さんになるなって」


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セシリアも大きく頷く。


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「私もそう思います」


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思わず照れてしまった。


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国王も静かにやって来た。


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そして。


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私のお腹へ目を向ける。


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「そうか」


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短い言葉。


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だが。


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その表情は優しかった。


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「おめでとう」


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「ありがとうございます」


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国王はゆっくり頷いた。


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その横で。


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王妃様はまだ泣いている。


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「可愛いわぁ……」


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「まだ生まれてません」


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ルシアンが言った。


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「分かってるわよ!」


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王妃様は元気だった。


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皆が笑う。


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温かな笑い声が部屋に響いた。


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私はそっとお腹へ手を添える。


---


たくさんの人に愛されている。


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この子はきっと幸せだ。


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そう思うと。


---


胸がいっぱいになった。


---


窓の外では柔らかな春風が吹いていた。


---


新しい幸せが。


---


静かに始まろうとしていた。


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