第153話 悪役令嬢、王妃様にからかわれます
ローゼリア家から戻った翌朝。
私は朝食会場へ向かっていた。
---
「おはようございます」
---
席へ着く。
すると。
---
「アメリアさん♪」
---
王妃様だった。
---
嫌な予感がする。
---
「はい?」
---
王妃様は楽しそうに微笑んでいる。
---
「実家はいかがでした?」
---
「とても楽しかったです」
---
「そう」
---
王妃様は満足そうに頷いた。
---
「ご両親もお元気だった?」
---
「はい」
---
思い出すだけで自然と笑みが浮かぶ。
---
その時だった。
---
「それにしても」
---
王妃様がにこりと笑う。
---
「あなたたち、本当に仲が良いわねぇ」
---
私は固まった。
---
「え?」
---
「この前も庭園で見たわ」
---
嫌な予感しかしない。
---
「アメリアさんが躓いたでしょう?」
---
私は思い出した。
---
庭園の小道。
---
少しだけ足を取られた。
---
その瞬間。
---
気付けばアルフレッドに抱きとめられていた。
---
「危ない」
---
低い声。
---
ほんの数秒だった。
---
だが。
---
「素敵だったわぁ」
---
王妃様がうっとりしている。
---
「母上」
---
アルフレッドがため息をつく。
---
「だって本当だもの」
---
「抱きとめて、そのまま離したくなさそうだったわ」
---
「違います!」
---
思わず声が出た。
---
ルシアンが吹き出す。
---
「兄上そんなことしてたの!?」
---
「黙れ」
---
「図星だ!」
---
全然黙らない。
---
国王は静かに紅茶を飲んでいた。
---
「アルフレッドは昔からああだ」
---
全員が国王を見る。
---
「子供の頃から、気に入ったものはいつも大事そうにしていたな」
---
ルシアンが吹き出す。
---
「兄上らしい」
---
「剣もそうだった」
---
国王が静かに続ける。
---
「毎日手入れをしていたな」
---
「それも兄上らしい」
---
王妃様がくすくす笑う。
---
「大切なものを大事にするのは昔からなのね」
---
「そうだな」
---
国王は静かに頷いた。
---
その時。
---
「兄上さ」
---
ルシアンがにやりと笑う。
---
嫌な予感しかしない。
---
「義姉上に目がないんだから」
---
静寂。
---
私は固まった。
---
王妃様が吹き出す。
---
「まあ!」
---
「ルシアン」
---
低い声。
---
「はい」
---
だが全く反省していない。
---
むしろ楽しそうだった。
---
「だって本当じゃん」
---
ルシアンは肩を竦める。
---
「義姉上が転びそうになったら飛んでいくし」
---
「体調崩したら真っ先に気付くし」
---
「褒められたら自分のことみたいに嬉しそうだし」
---
そして。
---
にやりと笑う。
---
「見てられないね」
---
王妃様が肩を震わせる。
---
「確かに」
---
「母上まで!?」
---
私は思わず声を上げた。
---
アルフレッドは小さくため息をつく。
---
そして。
---
「妻だからな」
---
一瞬。
---
空気が止まった。
---
王妃様。
---
歓喜。
---
「きゃああああ!」
---
ルシアン。
---
机に突っ伏す。
---
「ほら出た!」
---
私はもう限界だった。
---
恥ずかしすぎる。
---
本当に。
---
朝から何をしているのだろう。
---
その横で。
---
アルフレッドだけが平然としていた。
---
「事実だろう」
---
それが一番困るのです。
---
どうにか朝食を終えた私は、逃げるように厨房へ向かった。
---
「おはようございます」
---
いつものように挨拶する。
---
すると。
---
見習いの女の子が、こっそり近付いてきた。
---
「アメリア様」
---
「はい?」
---
「朝食会で何かありました?」
---
私は固まった。
---
「なぜですか?」
---
「顔が真っ赤です」
---
早い。
---
料理長まで振り返る。
---
「本当だな」
---
「熱でもあるのか?」
---
「違います!」
---
即答した。
---
すると。
---
「殿下ですか?」
---
見習いの女の子が首を傾げる。
---
「違います!」
---
「その言い方は絶対そうです」
---
周囲が笑い始めた。
---
私は思わず顔を覆う。
---
その時だった。
---
「何の話だ」
---
低い声。
---
アルフレッドだった。
---
私は思わず振り返る。
---
「殿下!」
---
見習いの女の子が嬉しそうに言う。
---
「アメリア様が朝から真っ赤なんです」
---
「そうか」
---
アルフレッドが私を見る。
---
「大丈夫か」
---
「誰のせいですか!」
---
即答だった。
---
厨房に笑いが広がる。
---
料理長まで吹き出した。
---
「殿下」
---
「何だ」
---
「心当たりは?」
---
数秒。
---
「あるな」
---
認めた。
---
認めた!?
---
「やっぱり!」
---
「仲良しですね」
---
見習いたちが笑う。
---
その時だった。
---
見習いの女の子が、ぽつりと呟く。
---
「いいなぁ……」
---
「え?」
---
思わず聞き返す。
---
すると。
---
「とても大切にされていて羨ましいです」
---
少し照れながら笑った。
---
「私にも、いつかそういう人が現れないかなぁって」
---
私は思わず微笑んだ。
---
「きっと現れますよ」
---
見習いの女の子の顔がぱっと明るくなる。
---
「本当ですか?」
---
「ええ」
---
「アメリア様が言うなら頑張れそうです!」
---
料理長が笑う。
---
「まずは仕事を頑張れ」
---
「はーい!」
---
厨房に笑い声が広がった。
---
その横で。
---
アルフレッドだけが不思議そうだった。
---
「何がおかしい」
---
料理長が肩を竦める。
---
「殿下」
---
「何だ」
---
「奥様が羨ましがられてますよ」
---
数秒。
---
アルフレッドはアメリアを見た。
---
そして。
---
「そうか」
---
それだけだった。
---
だが。
---
どこか少し嬉しそうだった。
---
私はますます顔が熱くなる。
---
見習いの女の子が小さく笑った。
---
「やっぱり仲良しですね」
---
私は何も言えなかった。
---
こうして悪役令嬢は――
今日もまた、優しい夫と穏やかな仲間たちに囲まれて過ごすのだった。




