第151話 悪役令嬢、久しぶりに実家へ帰ります
保存食プロジェクトが動き始めて数日後。
私は王宮の馬車へ揺られていた。
---
「緊張していますね」
向かいに座るエマが静かに言う。
---
「……分かりますか」
---
「顔に出ています」
---
最悪である。
---
今日は久しぶりの帰省だった。
王太子妃になってから初めて。
結婚してから初めて。
そして――
アルフレッドと一緒の帰省だった。
---
「そんなに緊張することか」
隣から低い声。
---
「します」
---
即答だった。
---
「実家ですよ?」
---
「だからだ」
---
意味が分からない。
---
だが。
アルフレッドはどこか落ち着いていた。
---
「父上たちは喜ぶだろう」
---
「そうだと良いのですが」
---
本当は分かっている。
きっと喜んでくれる。
でも。
少しだけ照れくさかった。
---
馬車が屋敷へ到着する。
懐かしい門。
庭。
屋敷。
何も変わっていない。
---
その時だった。
---
「お姉様ー!!」
---
勢いよく飛び出してきたのはセシリアだった。
---
「わっ」
---
そのまま抱きつかれる。
相変わらず元気である。
---
「お帰りなさいませ!」
---
「ただいま」
---
思わず笑ってしまう。
---
その後ろから。
母ヴィクトリアが現れた。
---
「ああ……アメリア……!」
---
涙ぐんでいる。
早い。
---
「お母様」
---
「元気そうで良かったわぁ……!」
---
まだ何も話していない。
---
父レオナルドも姿を見せた。
---
「帰ったか」
---
短い言葉。
でも。
どこか安心したような声だった。
---
「はい」
---
「そうか」
---
それだけだった。
だが。
胸の奥が少し温かくなる。
---
応接室。
紅茶が並ぶ。
---
セシリアはどこか落ち着かない様子だった。
---
「そういえば」
---
私は少しだけ笑う。
---
「ルシアン様からのお手紙は?」
---
セシリアが固まった。
---
分かりやすすぎる。
---
「……来ましたわ」
---
小さな声。
---
「魚の形のクッキー、美味しかったです」
---
今度は私が笑う番だった。
---
「そう」
---
「とても嬉しかったです」
---
顔が少し赤い。
---
その様子を見ているだけで、なんだか嬉しくなる。
---
夕食後。
女性陣が別室へ移動した後。
応接室には、レオナルドとアルフレッドだけが残っていた。
---
暖炉の火が静かに揺れている。
---
レオナルドはしばらく火を見つめていた。
---
やがて。
静かに口を開く。
---
「……今日のアメリアは幸せそうでした」
---
アルフレッドは黙って聞いている。
---
「正直、安心しました」
---
小さく息を吐く。
---
「昔のあの子は――」
---
一拍。
---
「強がりな子でした」
---
「困っていても大丈夫だと言う」
---
「苦しくても平気だと言う」
---
「本当は誰かを頼れば良いのに、それができなかった」
---
暖炉の火が揺れる。
---
アルフレッドは静かに頷いた。
---
「分かります」
---
短い返事。
---
レオナルドは少しだけ目を細める。
---
「ですが」
---
「最近は違いますな」
---
「笑うことが増えた」
---
「肩の力も抜けた」
---
「誰かを頼ることも覚えた」
---
そして。
---
「何より」
---
静かな声。
---
「幸せそうです」
---
しばらく沈黙が続く。
---
やがて。
アルフレッドが静かに口を開いた。
---
「それなら良かった」
---
迷いのない声だった。
---
レオナルドは小さく頷く。
---
「……ありがとうございます」
---
父としての言葉だった。
---
そして。
---
「娘を頼みます」
---
以前も言った言葉。
---
だが今度は違う。
---
本当に送り出した後の言葉だった。
---
アルフレッドは真っ直ぐ答える。
---
「お任せください」
---
「必ず幸せにします」
---
レオナルドは小さく笑った。
---
「それなら十分です」
---
窓の外では。
夕暮れが静かに庭を染めていた。
---
こうして悪役令嬢は――
変わらない家族の愛に包まれながら、
新しい未来を歩いていくのだった。




