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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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150/160

第150話 悪役令嬢、地方の知恵を王都へ届けます

北部視察から戻って数日後。


私は王太子執務室の前で、小さく深呼吸をしていた。


「……緊張します」


思わず本音が漏れる。


隣のエマが静かに頷いた。


「本日は重臣会議ですから」


怖い。


とても怖い。


厨房で新作を出す時とは違う緊張だった。


---


「入れ」


低い声。


アルフレッドだった。


扉が開く。


私はそっと中へ入った。


---


室内には重臣たちが並んでいた。


財務担当。


農政担当。


王都行政担当。


そうそうたる顔ぶれである。


私は少しだけ背筋を伸ばした。


---


「本日の議題は北部視察の報告だ」


アルフレッドが静かに告げる。


その声だけで空気が引き締まる。


さすが王太子だった。


---


資料が配られる。


その中には。


干し野菜。


乾燥保存肉。


保存用スープ。


北部で見た備蓄方法がまとめられていた。


---


「面白い知恵ではありますが」


年配の重臣が口を開く。


「地方特有のものでしょう」


「王都で活用できるとは」


少し懐疑的な声だった。


---


私は静かに資料を握る。


その時。


「では質問だ」


アルフレッドが言った。


全員の視線が集まる。


---


「王都で大雪が続いた場合」


「物流が止まればどうなる」


室内が静まった。


---


誰も答えない。


当然だ。


答えは分かっている。


---


「食料不足です」


私が静かに答えた。


発言する直前。


隣のアルフレッドが、そっと私を見て小さく頷いてくれた。


その視線に背中を押される。


全員の視線がこちらへ向く。


少し怖い。


でも。


目は逸らさなかった。


---


「北部は毎年それと向き合っています」


「だから知恵があります」


私はゆっくり続けた。


---


「干し野菜は長期保存できます」


「スープは栄養を補えます」


「備蓄があれば冬を越えられます」


---


静かな空気。


誰も笑わない。


真剣に聞いている。


---


「地方だから価値があるのではありません」


私は一度息を吸う。


---


「暮らしの中で必要だったから残った知恵です」


---


沈黙。


その後。


農政担当の重臣が資料を見つめた。


---


「……なるほど」


小さく呟く。


---


「試してみる価値はあるかもしれませんな」


---


空気が少し変わった。


私はほっと息を吐きそうになる。


---


その時。


アルフレッドが静かに言った。


---


「では試験導入を進める」


---


即断だった。


---


重臣たちが一斉に頷く。


反対する者はいない。


---


会議が終わる頃には。


私は完全に疲れ切っていた。


---


「終わりました……」


思わず椅子へ沈み込む。


---


「よくやった」


低い声。


アルフレッドだった。


---


「……緊張しました」


正直に答える。


「知っている」


「やっぱり緊張しているの、ばれていましたか?」


私が聞く。


「少しな」


少しではなかった気がする。


私は思わず苦笑した。


---


その時。


ぐい、と手を引かれる。


---


「え?」


---


次の瞬間。


私はアルフレッドの隣へ引き寄せられていた。


---


「殿下?」


---


「お前が見つけた知恵だ」


低い声。


でも。


どこか優しかった。


---


「私は後押ししただけだ」


---


胸の奥が、じんわり熱くなる。


---


「……違います」


私は小さく首を振った。


---


「一人では無理でした」


---


すると。


アルフレッドは少しだけ目を細める。


---


「だから夫婦なんだろう」


---


また不意打ちだった。


---


私は顔が熱くなる。


---


「そういうことを平然と言わないでください……」


---


「事実だ」


---


即答だった。


---


窓の外では夕陽が王都を染めていた。


地方で学んだ知恵が。


少しずつ、この国を変えていく。


そんな未来が見えた気がした。


---


こうして悪役令嬢は――


王太子と共に、人々の暮らしを支える新たな一歩を踏み出すのだった。

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