第15話 悪役令嬢、夜会の罠を見抜きます
大広間にざわめきが広がった。
倒れたグラス。
散らばる料理。
悲鳴を上げる侍女たち。
けれど、私は違和感を覚えていた。
(……変だわ)
ただテーブルが揺れただけにしては、不自然すぎる。
揺れたのは中央の料理台だけ。
周囲の机や燭台は微動だにしていない。
つまり地震ではない。
誰かが意図的に細工したのだ。
「皆、落ち着いてください!」
王妃セレナの一声で、会場は少しずつ静けさを取り戻す。
さすがである。
アルフレッドはすでに倒れた台を調べていた。
「……脚の留め具が外されている」
「やっぱり」
私はしゃがみ込み、台の裏をのぞいた。
金具が一本だけ緩められ、重みがかかった瞬間に崩れるよう細工されている。
かなり悪質だ。
「事故ではないな」
アルフレッドの声は冷えていた。
「ええ。でも目的は料理そのものではありません」
「何?」
私は周囲を見渡す。
皆の視線は、倒れた料理台――つまり“アメリア考案の料理”に集まっていた。
「この場で失敗させたかったんです」
王妃が目を細める。
「あなたに恥をかかせるために?」
「おそらく」
すると、背後から甲高い声が響いた。
「まあ、なんてこと! こんな大事な夜会で失態だなんて!」
振り向けば、伯爵夫人ミレーヌ。
噂好きで有名な女性だ。
「推薦した王妃様のお立場にも関わりますわねえ」
(……早い)
まるで待っていたかのような反応だ。
私はにっこり微笑んだ。
「ご心配ありがとうございます」
「ええ、本当に心配で――」
「では、ぜひ手伝ってください」
「……は?」
私は彼女の手を取り、倒れた台の前へ引っ張っていく。
「夜会の再開には、新しい料理台と皿の再配置が必要です。気づいてくださるほどお詳しいのですから、お得意でしょう?」
会場がしんと静まり、次の瞬間――
ルシアンが吹き出した。
「ぶっ、ははは!」
貴族たちも肩を震わせ始める。
ミレーヌ夫人の顔が赤く染まった。
「わ、わたくしにそんな仕事を――!」
「できませんの?」
私は首をかしげる。
「まぁ……口だけ……」
誰かの小声が刺さる。
夫人は悔しそうに扇子を鳴らし、去っていった。
王妃は完全に笑っている。
「見事ね」
「厨房育ちですから。現場対応には慣れております」
アルフレッドが口元を押さえていた。
「……何ですか」
「いや。お前は強いな」
「褒め言葉として受け取っておきます」
その時、私は床に小さな光るものを見つけた。
拾い上げると、細い銀色のねじ。
料理台の留め具に使われていたものと同じだ。
「これ……」
アルフレッドの表情が変わる。
「証拠になる」
「犯人、まだ近くにいるかもしれません」
彼は私の手首を取り、低く言った。
「なら、お前は私のそばを離れるな」
「え?」
「二度も狙わせる気はない」
近い。
声も距離も近い。
心臓に悪い。
「兄上、それ護衛のふりした独占だよね?」
ルシアンが即座に茶々を入れる。
「黙れ」
「図星だー!」
私は顔を押さえた。
こんな状況なのに、なぜ赤くならなければならないのか。
やがて王妃の指示で会場は整え直され、夜会は再開された。
だが私は確信していた。
これはただの嫌がらせでは終わらない。
誰かが、私を王城から追い出したがっている。
そしてその“誰か”は、今この会場のどこかで私たちを見ているのだ。




