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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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148/160

第148話 弟王子、初めてのお菓子作りに挑戦します

孤児院でのラスク作りから数日後。


私は厨房で新しい試作をしていた。


「……もう少し香草を減らした方がいいかしら」


小さく呟きながら鍋をかき混ぜる。


その時だった。


「義姉上」


ひょこっと顔を出した人物がいた。


ルシアンだった。


私は顔を上げる。


「何ですか?」


ルシアンが少しだけ嬉しそうに笑った。


「慣れたね」


「今さらでしょう」


もう結婚も終わった。


否定する理由もない。


ルシアンは満足そうに頷いた。


---


「相談」


「何ですか」


すると。


ルシアンは少しだけ真面目な顔になる。


「お菓子を作りたい」


私は目を瞬かせた。


「お菓子?」


「うん」


少しだけ視線を逸らす。


分かりやすすぎる。


本当に分かりやすすぎる。


---


「セシリアに?」


私が聞く。


ルシアンは数秒固まり――


そして観念したように頷いた。


「……そう」


やっぱりだった。


私は思わず吹き出す。


---


「では作りましょう」


「え?」


「お菓子です」


「義姉上、作れるの?」


「誰に聞いているんですか」


即答だった。


---


数十分後。


厨房は戦場になっていた。


---


「粉が飛んだ!」


「落ち着いてください」


「卵が逃げた!」


「逃げていません」


---


料理長は腹を抱えて笑っている。


「才能ねぇな!」


「うるさい!」


ルシアンの悲鳴が厨房へ響いた。


---


「まずは材料を量ります」


私は静かに説明する。


「お菓子作りは料理より正確さが大切です」


「なるほど」


ルシアンが真面目に頷く。


だが。


次の瞬間。


---


「砂糖二倍入った」


「何をしてるんですか!」


---


全員が頭を抱えた。


---


その時。


「騒がしいな」


低い声。


振り向く。


アルフレッドだった。


---


「兄上!」


「何だこれは」


机の上は粉だらけだった。


---


「クッキー作ってる!」


「見れば分かる」


即答だった。


---


アルフレッドは腕を組みながら様子を見る。


数秒後。


ぽつり。


「先が思いやられるな」


---


「兄上ひどい!」


---


厨房中に笑いが広がった。


---


それでも。


少しずつ形になっていく。


丸いもの。


星形。


花形。


そして。


なぜか魚の形。


---


「魚?」


私が首を傾げる。


すると。


ルシアンは少しだけ照れながら言った。


「前にセシリアが可愛いって言ってたから」


---


私は思わず笑った。


本当に分かりやすい。


---


やがて。


クッキーが焼き上がる。


香ばしい匂いが厨房へ広がった。


---


「おお……!」


ルシアンが目を輝かせる。


ちゃんとクッキーになっている。


少しいびつだが。


それも味があった。


---


「試食です」


私は一枚差し出す。


ルシアンが緊張した顔で見つめる。


---


その時。


アルフレッドが一枚手に取った。


ぱくり。


---


数秒。


沈黙。


---


「食べられる」


「評価低くない!?」


---


厨房中が爆笑した。


---


だが。


アルフレッドは静かに続ける。


「初めてなら十分だ」


ルシアンは少し照れながら視線を逸らした。


---


夕方。


ようやく完成したクッキーを箱へ詰める。


少しいびつな形。


でも。


一生懸命作ったことは伝わる。


---


「これで良いでしょうか」


ルシアンが聞く。


私は小さく頷いた。


「きっと喜びます」


---


その瞬間。


ルシアンが本当に嬉しそうに笑った。


---


箱へ蓋をする。


丁寧にリボンを掛ける。


そして。


ローゼリア家へ向けて発送された。


---


「届くといいですね」


私が言う。


すると。


「届くだろう」


アルフレッドが静かに答えた。


---


ルシアンは少しだけ照れながら呟く。


「……喜んでくれるかな」


---


分かりやすすぎる。


私は思わず吹き出してしまった。


すると。


アルフレッドが弟を見る。


そして静かに言った。


「そこまで作ったなら、あとは信じろ」


---


ルシアンは少し驚いた顔をした。


だが。


やがて小さく頷く。


「……うん」


---


夕陽が厨房へ差し込む。


焼き菓子の甘い香りが、まだ少しだけ残っていた。


こうして悪役令嬢は――


今日もまた、新しい恋の行方を温かく見守るのだった。

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