表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
146/160

第146話 悪役令嬢、王都へ北部の味を持ち帰ります

北部視察から戻った翌朝。


王宮の厨房には、いつもより少し大きな木箱が並んでいた。


「これは……全部リュンベルクからですか?」


見習いが目を丸くする。


「はい」


私は小さく頷いた。


箱の中には――


干し野菜。


燻製肉。


乾燥香草。


保存用の黒パン。


そして、香草塩。


北部で学んだ“暮らしの知恵”だった。


---


「今日は、これを使います」


私は袖を軽くまくる。


料理長が腕を組んだ。


「もう始めるのか」


「忘れないうちに試したくて」


すると。


料理長が少しだけ笑う。


「戻ったばっかりなのにな」


「だからです」


私は干し野菜を手に取る。


「向こうで食べた味を、ちゃんと覚えているうちに」


---


まずは、干し野菜をぬるま湯へ浸す。


少しずつ戻っていく野菜。


人参。


玉ねぎ。


かぶ。


「……戻るんですね」


見習いが感心したように呟く。


「はい」


私は小さく頷いた。


「水分を抜いているだけなので」


「冬場はこうして長く保存するそうです」


その間に、燻製肉を小さめに切り分ける。


香草は細かく刻んだ。


厨房へ、爽やかな香りが広がる。


「これが北部の香草ですか」


「ルーヴァ草です」


私は少し笑った。


「川魚に使われていたものですね」


見習いたちが「ああ!」と顔を上げる。


完全に覚えられていた。


---


鍋へ油を少し。


燻製肉を軽く炒める。


香ばしい香り。


そこへ戻した野菜を加え、さらに炒める。


「この時点でもう美味しそうです!」


「まだ途中ですよ」


私は苦笑した。


そこへスープを注ぎ、弱火で煮込んでいく。


最後に、刻んだ香草を加える。


ふわっと広がる北部の香り。


私は静かに息を吸った。


(……うん)


ちゃんと、あの街の香りだった。


---


その時。


「また楽しそうだな」


低い声。


振り向く。


アルフレッドだった。


「殿下」


私は小さく頭を下げる。


アルフレッドはそのまま静かに厨房へ入り、鍋へ視線を向けた。


「何を作っている」


短い声。


だが、完全に香りにつられて来ていた。


「北部風の保存食スープです」


私は小さく笑った。


「向こうで教わったものを、少し王都向けに調整してみています」


アルフレッドは鍋の香りを静かに吸い込み――


そして小さく頷く。


「……落ち着く香りだな」


その時。


「兄上ー!」


元気な声が飛び込んできた。


ルシアンだった。


相変わらず騒がしい。


「何かいい匂いする!」


「鼻が早いですね」


「義姉上の料理はすぐ分かる!」


「誰が義姉上ですか」


もう恒例である。


---


ルシアンは鍋を覗き込み、ぱっと顔を明るくした。


「うわっ、北部の香草だ!」


「覚えていたんですか?」


「そりゃ覚えてるよ!」


少し嬉しそうだった。


「向こうの祭りで飲んだスープ、美味しかったし」


そこで。


ルシアンがふと視線を逸らす。


分かりやすすぎる。


私は静かに目を細めた。


「……セシリアのこと考えましたね?」


「えっ!?」


完全に図星だった。


アルフレッドが小さく息を吐く。


「分かりやすいな」


「兄上まで!?」


ルシアンが真っ赤になる。


すると。


「……手紙は来たのか」


アルフレッドが当然のように聞いた。


「っ……!」


ルシアンが固まった。


分かりやすすぎる。


「来たんだ」


「うるさい!」


完全に来ていた。


私は思わず吹き出す。


「良かったですね」


「だからまだ何も――」


「次の約束は?」


アルフレッドが追撃する。


「兄上!?」


珍しく兄弟戦が始まっていた。


---


その横で。


私は静かにスープをよそう。


湯気が立ち上る。


北部の香り。


温かな色。


「……出来ました」


私は小さく笑った。


アルフレッドが一口飲む。


そして。


「……美味い」


低い声。


でも。


どこか穏やかだった。


「向こうの味がする」


胸が、じんわり熱くなる。


「良かったです」


すると。


ルシアンも勢いよく飲み――


「うわっ!」


目を輝かせた。


「これ、セシリア嬢絶対好き!」


完全にそればっかりだった。


私は思わず笑ってしまう。


その時。


アルフレッドが静かにこちらを見る。


「お前、ちゃんと持ち帰ったな」


「え?」


「向こうの空気も」


低い声。


私は少しだけ目を見開いた。


そして。


ゆっくりと笑う。


「……はい」


北部の街。


人々の笑顔。


子どもたちの踊り。


温かな保存食。


全部が、ちゃんとここへ繋がっている気がした。


こうして悪役令嬢は――


地方で学んだ温かな知恵を、少しずつ王都へ広げていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ