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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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145/160

第145話 悪役令嬢、北部の街へ別れを告げます

数日後。


北部視察の最終日。


リュンベルクの朝は、少しだけ名残惜しい空気に包まれていた。


「本当に帰ってしまわれるんですねぇ」


街長グレインが寂しそうに笑う。


その後ろでは、街の人々が大勢集まっていた。


子どもたちまでいる。


「アメリアさまー!」


小さな女の子が、また一生懸命手を振っていた。


私は思わず笑顔になる。


「ありがとうございました」


深く頭を下げる。


すると。


「こちらこそです!」


「王太子妃様が来てくださって嬉しかった!」


「また来てください!」


次々声が飛ぶ。


胸が、じんわり温かくなる。


---


視察は、想像以上に充実していた。


保存食工房。


干し野菜の備蓄庫。


燻製肉。


雪国ならではの知恵。


アメリアは完全に食いついていた。


「この干し方、王都でも応用できそうです!」


「この保存法なら、災害時にも――」


職人たちと真剣に語り合う姿に、


最初は警戒していた人々も、気づけば笑顔になっていた。


「本当に変わった王太子妃様だ」


「でも、嫌いじゃないな」


そんな声まで聞こえてきた。


---


その時。


「アメリアさま!」


また子どもたちが駆け寄ってくる。


「これ!」


小さな花束だった。


野花を束ねた、素朴な花束。


「皆で作ったの!」


「……私に?」


「うん!」


私は思わず目を細めた。


「ありがとうございます」


そっと受け取る。


すると。


「また来てね!」


「今度はもっと踊ろう!」


完全に踊る前提だった。


私は思わず吹き出す。


「……練習しておきます」


「やったー!」


子どもたちが歓声を上げる。


---


その横で。


アルフレッドが静かに街長へ向き直った。


「保存食計画は、王都でも進める」


低い声。


「今回見せてもらった知識は、必ず活かす」


街長が静かに目を見開く。


そして。


「……ありがとうございます」


深く頭を下げた。


その表情は、最初に会った時よりずっと柔らかかった。


---


「では、そろそろ」


カイルが静かに告げる。


馬車が用意される。


私は最後にもう一度、街の人々を見る。


子どもたち。


職人たち。


笑顔。


全部が、温かかった。


私は窓から大きく手を振る。


「ありがとうございました!」


すると。


「アメリアさまー!!」


「また来てー!!」


大きな歓声が返ってきた。


花びらまで舞っている。


私は思わず笑ってしまう。


その横で。


アルフレッドも静かに手を上げた。


次の瞬間。


「殿下ー!!」


歓声が倍になった。


「やっぱり人気ですね」


私が小さく笑うと、


「普通だ」


即答だった。


普通ではない。


---


馬車がゆっくり動き出す。


石畳の音。


揺れる景色。


遠ざかっていくリュンベルク。


私は窓の外を見ながら、小さく息を吐いた。


「……良い街でした」


「ああ」


アルフレッドも静かに頷く。


「お前、随分人気だったな」


「皆さん優しかったです」


「違う」


低い声。


「お前が、ちゃんと向き合ったからだ」


胸が少し熱くなる。


私は花束を見つめながら、小さく笑った。


「……楽しかったです」


「知っている」


短い返事。


でも。


どこか優しかった。


---


しばらく静かな時間が流れる。


その時。


「それで」


アルフレッドが低く言った。


「何ですか?」


「踊りは練習するのか」


私は思わず吹き出した。


「まだ言いますか!?」


「子どもたちと約束しただろう」


「殿下も巻き込まれていましたよね?」


「お前ほどではない」


絶対同じくらいだった。


私は笑いながら肩を預ける。


すると。


アルフレッドが自然に私を引き寄せた。


「……疲れたか」


「少しだけ」


正直に答える。


「でも、楽しかったです」


「そうだな」


低い声。


そのまま。


彼の手が、そっと私の髪へ触れる。


優しく撫でられる。


心臓が、静かに跳ねた。


「……殿下」


「何だ」


「最近、自然にそういうことしますよね」


すると。


アルフレッドが少しだけ目を細める。


「夫婦だからな」


また不意打ちだった。


私は一気に顔が熱くなる。


「そ、それを平然と言うのやめてください……!」


「無理だ」


即答だった。


本当にずるい。


でも――


嫌ではなかった。


窓の外では、北部の景色がゆっくり流れていく。


その温かな余韻を抱えながら。


こうして悪役令嬢は――


王太子と共に、新しい公務の一歩を歩み始めるのだった。

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