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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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第144話 悪役令嬢、北部の街で温かな歓迎を受けます

リュンベルクの中央広場。


石畳の上へ、長い木の机が並べられていた。


「これは……」


私は思わず目を見開く。


机の上には、北部料理がずらりと並んでいた。


焼き立ての黒パン。


香草を添えた川魚の串焼き。


湯気を立てるスープ。


干し肉。


木の実の煮込み料理。


そして、保存用の燻製料理まである。


「歓迎の席をご用意しました」


街長グレインが穏やかに笑った。


「この土地の味です」


私は自然と顔が綻ぶ。


「……すごい」


香草の匂い。


炭火の香り。


王都とは全然違う。


でも。


どこか温かい。


---


その時だった。


ドン、ドン!


広場へ太鼓の音が響く。


私は思わず顔を上げた。


「始まるぞー!」


元気な声。


次の瞬間。


広場の奥から、子どもたちが駆け出してきた。


「わぁ……!」


女の子たちは、青と白の刺繍入りスカート。


男の子たちは、小さな革ベスト姿。


民族衣装なのだろう。


どの子も、本当に嬉しそうだった。


「歓迎の踊りです」


街長が静かに説明する。


「昔から、この街へ客人が来た時に踊る伝統でして」


音楽が始まる。


笛。


太鼓。


手拍子。


子どもたちが輪になって踊り始めた。


くるくる回る。


笑う。


跳ねる。


その姿に、広場の空気まで明るくなっていく。


「可愛い……!」


思わず声が漏れた。


その横で。


アルフレッドが少しだけ目を細める。


「楽しそうだな」


「はい!」


即答だった。


---


その時。


小さな女の子が、こちらへ駆け寄ってきた。


そして。


「アメリアさまも!」


ぱっと手を伸ばす。


「えっ、私ですか!?」


完全に予想外だった。


周囲から笑い声が上がる。


「王太子妃様ー!」


「一緒にー!」


子どもたちがきらきらした目で見上げてくる。


無理です。


……とは言えなかった。


私は困ったようにアルフレッドを見る。


すると。


「行ってこい」


即答だった。


しかも少し楽しそうである。


「他人事だと思ってませんか!?」


「思っている」


ひどい。


---


私は恐る恐る輪の中へ入った。


「こ、こうですか?」


見よう見まねで踊る。


すると。


「違う違う!」


「こう!」


子どもたちが大笑いしながら教えてくれる。


その無邪気さに、私も思わず笑ってしまった。


「難しいです……!」


「アメリアさま頑張ってー!」


完全に応援されている。


広場には拍手と笑い声が広がっていた。


---


その時だった。


「王太子殿下もー!」


誰かが叫ぶ。


空気が止まる。


私は思わず振り返った。


アルフレッドは数秒黙り――


そして。


小さく息を吐く。


「……なぜそうなる」


だが。


子どもたちは止まらない。


「一緒にー!」


「やってー!」


周囲まで笑い始める。


逃げ場がない。


私は思わず吹き出しそうになった。


すると。


アルフレッドがこちらを見る。


「……笑っているな」


「少しだけです」


「後で覚えていろ」


絶対覚えていない。


---


だが。


その数秒後。


アルフレッドは本当に輪の中へ入ってきた。


「えっ」


子どもたちが歓声を上げる。


「殿下だー!」


「すごーい!」


アルフレッドは完全に不本意そうだった。


でも。


私の隣へ立つ。


そして。


「……こうか」


意外と普通に踊れた。


「何でできるんですか!?」


「昔やらされた」


低い声。


私は思わず笑ってしまう。


子どもたちも大喜びだった。


---


踊りが終わる頃には、広場は拍手でいっぱいになっていた。


私は少し息を切らしながら笑う。


「楽しかったです……!」


すると。


街長が静かに目を細めた。


「王太子妃様が、こんなに自然に笑ってくださるとは」


「え?」


「皆、安心しております」


私は少し驚く。


すると。


近くにいた女性が、小さく言った。


「最初は、王都の方って怖いのかと思ってました」


「でも……」


その女性は、子どもたちを見る。


「子どもたちと一緒に笑ってくださる方なら、大丈夫ですね」


胸の奥が、じんわり熱くなる。


---


その時。


「冷める前に食え」


アルフレッドが串焼きを差し出した。


「……川魚ですか?」


「ああ」


炭火で焼かれた串焼き。


香草の香りがふわっと広がる。


私は一口食べ――


思わず目を見開いた。


「……美味しい!」


外は香ばしい。


中はふわふわ。


香草の香りが、川魚の旨味を引き立てていた。


私はもう一口食べる。


爽やかな香りが、ふわっと広がった。


「……この香草」


思わず顔を上げる。


「昨日資料で見た、“ルーヴァ草”ですね?」


街長が少し驚いた顔をした。


「おお、ご存知でしたか」


「はい」


私は小さく頷く。


「脂のある川魚と合わせると、香りが立って臭みが消えるって書かれていました」


炭火の香ばしさ。


香草の爽やかさ。


魚の旨味。


全部が綺麗に合わさっている。


「……すごいです」


思わず本音が零れる。


その横で。


アルフレッドが少しだけ目を細めた。


「ちゃんと覚えていたな」


「食べ物のことなので」


「知っている」


少しだけ楽しそうだった。


---


広場では、まだ子どもたちの笑い声が響いていた。


川風が、静かに広場を吹き抜けていく。


こうして悪役令嬢は――


北部の街で、人々の温かさと文化へ触れていくのだった。

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