第141話 悪役令嬢、恋する妹を見守ります
噴水祭りの翌朝。
私は朝から、なんとなく予感していた。
「……静かですね」
厨房でパンを並べながら呟く。
すると。
「誰がですか?」
見習いが首を傾げた。
「セシリアです」
昨日の夜から、妙に静かだった。
嫌な予感しかしない。
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その時だった。
「お、お姉様……」
小さな声。
振り向く。
そこにはセシリアが立っていた。
……分かりやすすぎる。
「寝不足?」
即答だった。
セシリアがびくっと肩を跳ねさせる。
「な、なぜ分かりますの!?」
「顔に出ています」
真っ赤だった。
しかも。
手には、昨日ルシアンから貰ったガラス細工。
大事そうに握っている。
分かりやすすぎる。
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「……楽しかった?」
私が小さく聞く。
すると。
セシリアが少し俯いて――
それから、ふわっと笑った。
「……すごく」
その笑顔が、昨日までより少しだけ大人びて見えた。
私は思わず目を細める。
「良かったわね」
「はい……!」
嬉しそうだった。
本当に。
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「ルシアン様って、不思議なんです」
ぽつり、とセシリアが呟く。
「不思議?」
「はい」
少し考えるように視線を揺らす。
「一緒にいると、ずっと笑ってしまって」
「緊張するのに、楽しくて」
「気づいたら、あっという間に時間が過ぎていました」
恋する女の子の顔だった。
私は小さく笑う。
「それは大変ね」
「お姉様!」
セシリアが真っ赤になる。
可愛い。
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その時だった。
「義姉上ー!」
勢いよく扉が開いた。
来た。
「誰が義姉上ですか」
反射的に返す。
だが。
今日のルシアンも分かりやすすぎた。
機嫌が良い。
ものすごく良い。
しかも。
「……鼻歌?」
私が思わず呟く。
ルシアンが固まった。
「えっ」
「歌っていましたよ」
「うそ!?」
完全に無意識だったらしい。
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セシリアが思わず吹き出す。
ルシアンがそちらを見る。
そして。
止まった。
「……あ」
昨日の続きみたいに、空気が止まる。
セシリアも少しだけ頬を染めた。
見つめ合う。
分かりやすすぎる。
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「……昨日、楽しかったね」
先に口を開いたのはルシアンだった。
少し照れたように笑う。
すると。
セシリアも、そっと笑った。
「はい」
柔らかい声だった。
その瞬間。
ルシアンの耳がまた赤くなる。
本当に分かりやすい。
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その時。
「何をしている」
低い声。
振り向く。
アルフレッドだった。
完全に見ていた。
「兄上!?」
「騒がしい」
だが。
少しだけ口元が緩んでいる。
絶対面白がっている。
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アルフレッドは弟を見る。
そして。
「浮かれているな」
「うっ」
図星だった。
ルシアンが言葉に詰まる。
すると。
「兄上だって、新婚旅行から帰ってきた時ずっと機嫌良かったじゃん!」
反撃した。
私は思わず吹き出しそうになる。
アルフレッドの動きが一瞬止まった。
「……ルシアン」
「何!?」
「余計なことを言うな」
完全に図星だった。
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セシリアが小さく笑う。
その笑顔を見て。
ルシアンまでつられて笑っていた。
気づけば。
二人とも自然に並んでいる。
昨日より、少し近い距離で。
私はその様子を見ながら、小さく息を吐いた。
(……良かった)
その時。
「楽しそうだな」
低い声。
隣を見る。
アルフレッドがこちらを見ていた。
私は少しだけ笑う。
「はい」
「少し前の私たちみたいです」
その瞬間。
アルフレッドが少しだけ目を細めた。
「……お前は最初から分かりやすかった」
「っ……!」
不意打ちだった。
私は一気に顔が熱くなる。
「急にそういうことを言わないでください!」
「事実だ」
即答。
本当にずるい。
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その横では。
「次、いつ会う?」
「えっ」
「また出かけたいなって」
ルシアンが少し照れながら笑っていた。
セシリアも、少しだけ頬を赤くしながら――
でも。
ちゃんと笑って頷いた。
「……はい」
その空気が、あまりにも初々しくて。
私は思わず笑ってしまう。
こうして悪役令嬢は――
少しずつ育っていく、新しい恋を温かく見守っていくのだった。




