第140話 悪役令嬢、花火の夜に恋の進展を見守ります
噴水祭り当日。
セシリアは朝から落ち着かなかった。
「お姉様……!」
「はいはい」
私は半分笑いながら振り返る。
セシリアは鏡の前で、もう何度目か分からない確認をしていた。
淡い水色のワンピース。
白い小花の髪飾り。
揺れる小さなイヤリング。
そして――
新婚旅行のお土産で渡した、湖色のリボン。
髪へ結ばれたその色が、夜空みたいに綺麗だった。
少しだけ大人っぽい。
でも。
ちゃんとセシリアらしい。
「変ではありませんか!?」
「可愛いわよ」
即答だった。
するとセシリアが一気に真っ赤になる。
「そ、そういう意味ではなく!」
「ルシアン様が変に思われませんか!?」
十分驚くと思う。
良い意味で。
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その時だった。
「迎えに来ましたー!」
元気な声が響く。
セシリアがびくっと肩を跳ねさせた。
「き、来ましたわ!?」
「落ち着いて」
「無理です!」
知っていた。
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玄関へ向かう。
そこにはルシアンが立っていた。
今日は少しだけきちんとした服装。
髪も整っている。
……かなり気合いが入っている。
「こんばんは!」
明るく顔を上げ――
そして。
止まった。
完全に止まった。
「……え」
視線の先。
セシリアだった。
数秒、固まる。
分かりやすすぎる。
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「ル、ルシアン様?」
不安そうに首を傾げるセシリア。
すると。
「……いや」
ルシアンが少しだけ視線を逸らした。
耳が赤い。
「今日、すごい可愛い」
空気が止まる。
セシリアが一瞬で真っ赤になった。
私は思わず口元を押さえる。
破壊力が高い。
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その時。
「騒がしいな」
低い声。
振り向く。
アルフレッドだった。
完全に見ていた。
「兄上!?」
「静かにしろ」
だが。
少しだけ口元が緩んでいる。
完全に面白がっていた。
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「で、では行ってきます!」
ルシアンが慌てたように言う。
セシリアも真っ赤なまま頭を下げた。
「い、行ってまいります……!」
そして。
二人は並んで歩き出す。
……少し距離を空けながら。
ぎこちない。
でも。
それが初々しくて可愛かった。
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王都の夜は賑やかだった。
噴水広場には無数の灯り。
色とりどりのランタン。
屋台の香ばしい匂い。
音楽。
笑い声。
中央の噴水は、夜の光を受けてきらきら輝いている。
「わぁ……!」
セシリアが思わず足を止めた。
その顔が、本当に嬉しそうだった。
ルシアンは少しだけ目を細める。
「来てよかった?」
「はい!」
即答だった。
その笑顔を見て。
ルシアンも自然に笑っていた。
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「セシリア嬢、あれやる?」
ルシアンが指差した先。
「しゃてき?」
「景品落とすゲーム!」
セシリアの目がきらっと輝く。
「やってみたいですわ!」
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数分後。
パンッ!
「きゃっ!」
全然当たらない。
ルシアンが吹き出した。
「セシリア嬢、下手すぎ!」
「む、難しいですわー!」
真剣なのに全然当たらない。
可愛い。
店主まで笑っている。
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「貸して」
ルシアンが後ろから手を添えた。
「こ、こうですか?」
「もっと真っ直ぐ」
近い。
セシリアが一瞬固まる。
でも。
ルシアンは真剣だった。
「そこ狙って」
パンッ!!
景品が倒れる。
「わぁぁ!!」
セシリアがぱっと笑顔になる。
店主が感心したように頷いた。
「兄ちゃんうまいな!」
「でしょ?」
ちょっと得意げだった。
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「はい」
ルシアンが景品を差し出す。
小さなガラス細工だった。
ランタンの光を受けて、きらきら光っている。
セシリアが目を輝かせた。
「綺麗……!」
「セシリア嬢っぽいかなって」
その言葉に。
セシリアの顔がまた赤くなる。
でも。
今度は、少しだけ自然に笑った。
「ありがとうございます」
ルシアンはその笑顔を見て、一瞬言葉を失う。
(……やば)
可愛い。
思った以上に。
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その後も。
二人は屋台を回った。
焼き菓子。
温かなスープ。
甘い果実飴。
輪投げではセシリアが奇跡的に成功し、ルシアンが本気で驚いた。
「えっ!? 今の入る!?」
「わたくし、才能があるのかもしれません!」
「さっき射的めちゃくちゃだったのに!?」
気づけば。
二人ともずっと笑っていた。
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その時だった。
ドォン――!!
夜空へ、大きな花火が打ち上がる。
「わぁぁ……!」
セシリアが思わず足を止めた。
赤。
青。
金色。
無数の光が、王都の夜空いっぱいに広がっていく。
周囲から歓声が上がった。
「すごい……!」
セシリアは目を輝かせながら花火を見上げる。
その横顔を見て。
ルシアンは、一瞬だけ言葉を失った。
(……可愛い)
花火より目を奪われる。
そんな自分に、少しだけ驚く。
その時。
気づけば、二人の手が触れていた。
一瞬だけ止まる。
でも――
どちらも、離さなかった。
セシリアが少しだけ顔を赤くする。
ルシアンも、少し照れたように笑った。
そして。
二人はそのまま、並んで夜空を見上げる。
ドォン!!
次の花火が、夜空いっぱいに咲いた。
その光が、
繋いだ手を優しく照らしていた。
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帰り道。
噴水の灯りが少しずつ遠ざかっていく。
セシリアは小さく息を吐いた。
「今日は、とても楽しかったです」
その声は、本当に嬉しそうだった。
ルシアンは少しだけ目を細める。
「……俺も」
短い返事。
でも。
その声はとても優しかった。
そして。
「セシリア嬢といると、全然飽きない」
自然に零れた言葉。
セシリアが目を見開く。
「え……」
ルシアンは少しだけ照れたように笑った。
「なんか、一緒にいると楽しい」
「変に気を使わなくていいし」
「自然でいられるっていうか」
セシリアの胸が、どくんと鳴る。
その瞬間。
自分の中で何かが変わった気がした。
ルシアン様といると――
楽しい。
自然に笑ってしまう。
もっと、一緒にいたい。
そんな気持ちが、胸いっぱいに広がっていく。
セシリアは、ルシアンから貰った小さなガラス細工を、そっと両手で包み込んだ。
まだ少しだけ、温かい気がした。
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「また行こう」
ルシアンが自然に言った。
セシリアは少しだけ目を潤ませながら――
ふわっと笑った。
「はい」
夜風が、静かに二人の間を通り抜けていく。
こうして悪役令嬢の妹と弟王子は――
少しずつ、“特別な距離”を縮めていくのだった。




