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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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139/160

第139話 悪役令嬢、弟王子の初デートを応援します

数日後。


私は厨房で、焼き上がったパンを並べていた。


「今日は少し静かですね」


見習いが小さく呟く。


確かに。


いつもなら朝から騒がしい人物がいない。


「……ルシアン様ですね」


私が苦笑すると、


「分かります?」


「分かります」


最近は、いるだけで空気が賑やかになる。


---


その時だった。


「義姉上」


ひょこっと顔を出した。


いた。


「誰が義姉上ですか」


反射的に返す。


だが。


今日は少し様子が違った。


妙に落ち着かない。


そわそわしている。


視線が泳いでいる。


分かりやすすぎる。


---


「……何かありました?」


「えっ」


図星だったらしい。


ルシアンが一瞬固まる。


「いや、別に?」


「顔に書いてあります」


「兄上と同じこと言う!」


つまり兄にもばれている。


---


私は小さく笑った。


「それで?」


「……相談」


やっぱりだった。


ルシアンは周囲をちらりと確認し、小声になる。


「今度、王都で夜の噴水祭りあるんだよね」


「ええ」


毎年人気の祭りだ。


夜になると広場いっぱいに灯りがともり、噴水が幻想的に彩られる。


若い恋人たちにも人気だった。


「……セシリア嬢が、行ってみたいって前に言ってて」


私は思わず目を細める。


ちゃんと覚えていたらしい。


「それで?」


「……誘っても変じゃないかな」


珍しく弱気だった。


---


私は少しだけ笑う。


「変ではありませんよ」


「ほんと?」


「ええ」


ルシアンの顔が、ぱっと明るくなる。


分かりやすすぎる。


「ただ」


私は少し考えてから言った。


「軽い感じで誘った方がいいと思います」


「軽い感じ?」


「はい」


私は小さく笑った。


「“一緒に行く?”くらいで」


ルシアンは真剣な顔で頷く。


完全に勉強している。


可愛い。


---


その時だった。


「何をしている」


低い声。


振り向く。


アルフレッドだった。


ルシアンがびくっと肩を跳ねさせる。


「兄上!?」


「騒がしい」


アルフレッドは静かにこちらを見る。


そして。


「……今度は何だ」


完全に察していた。


---


ルシアンが少しだけ視線を逸らす。


「……噴水祭り」


「ほう」


「セシリア嬢を誘おうかなって」


数秒の沈黙。


そして。


「そうか」


アルフレッドは小さく頷いた。


妙に落ち着いている。


私は少し意外だった。


すると。


「……兄上、反対しないの?」


「なぜ反対する」


「いや、その……」


ルシアンがもごもごする。


アルフレッドは静かに弟を見た。


「ちゃんと大事にしろ」


低い声。


でも。


どこか兄らしかった。


---


ルシアンは少しだけ目を丸くして――


そして。


「……うん」


珍しく、素直に頷いた。


私は思わず微笑んでしまう。


その時。


「アメリア」


「はい」


「お前、楽しんでいるな」


アルフレッドが少しだけ目を細める。


私は正直に頷いた。


「少しだけ」


だって。


大切な妹と。


大切な弟王子が。


少しずつ距離を縮めている。


それが嬉しかった。


---


その日の午後。


「お姉様!」


今度はセシリアが勢いよく厨房へ飛び込んできた。


「どうしましょう!」


「何が?」


「ルシアン様に、噴水祭りへ誘われましたわ!」


顔が真っ赤だった。


私は思わず吹き出しそうになる。


早い。


反応が早い。


---


「お姉様!」


「ど、どういう服が良いでしょう!?」


「落ち着いて」


「無理ですわ!」


完全に大混乱である。


私は小さく笑った。


「楽しみなんですね」


すると。


セシリアが少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らす。


「……はい」


その顔が、少しだけ大人びて見えた。


こうして悪役令嬢は――


新しく始まる“初デート”を、温かく見守っていくのだった。

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