第139話 悪役令嬢、弟王子の初デートを応援します
数日後。
私は厨房で、焼き上がったパンを並べていた。
「今日は少し静かですね」
見習いが小さく呟く。
確かに。
いつもなら朝から騒がしい人物がいない。
「……ルシアン様ですね」
私が苦笑すると、
「分かります?」
「分かります」
最近は、いるだけで空気が賑やかになる。
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その時だった。
「義姉上」
ひょこっと顔を出した。
いた。
「誰が義姉上ですか」
反射的に返す。
だが。
今日は少し様子が違った。
妙に落ち着かない。
そわそわしている。
視線が泳いでいる。
分かりやすすぎる。
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「……何かありました?」
「えっ」
図星だったらしい。
ルシアンが一瞬固まる。
「いや、別に?」
「顔に書いてあります」
「兄上と同じこと言う!」
つまり兄にもばれている。
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私は小さく笑った。
「それで?」
「……相談」
やっぱりだった。
ルシアンは周囲をちらりと確認し、小声になる。
「今度、王都で夜の噴水祭りあるんだよね」
「ええ」
毎年人気の祭りだ。
夜になると広場いっぱいに灯りがともり、噴水が幻想的に彩られる。
若い恋人たちにも人気だった。
「……セシリア嬢が、行ってみたいって前に言ってて」
私は思わず目を細める。
ちゃんと覚えていたらしい。
「それで?」
「……誘っても変じゃないかな」
珍しく弱気だった。
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私は少しだけ笑う。
「変ではありませんよ」
「ほんと?」
「ええ」
ルシアンの顔が、ぱっと明るくなる。
分かりやすすぎる。
「ただ」
私は少し考えてから言った。
「軽い感じで誘った方がいいと思います」
「軽い感じ?」
「はい」
私は小さく笑った。
「“一緒に行く?”くらいで」
ルシアンは真剣な顔で頷く。
完全に勉強している。
可愛い。
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その時だった。
「何をしている」
低い声。
振り向く。
アルフレッドだった。
ルシアンがびくっと肩を跳ねさせる。
「兄上!?」
「騒がしい」
アルフレッドは静かにこちらを見る。
そして。
「……今度は何だ」
完全に察していた。
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ルシアンが少しだけ視線を逸らす。
「……噴水祭り」
「ほう」
「セシリア嬢を誘おうかなって」
数秒の沈黙。
そして。
「そうか」
アルフレッドは小さく頷いた。
妙に落ち着いている。
私は少し意外だった。
すると。
「……兄上、反対しないの?」
「なぜ反対する」
「いや、その……」
ルシアンがもごもごする。
アルフレッドは静かに弟を見た。
「ちゃんと大事にしろ」
低い声。
でも。
どこか兄らしかった。
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ルシアンは少しだけ目を丸くして――
そして。
「……うん」
珍しく、素直に頷いた。
私は思わず微笑んでしまう。
その時。
「アメリア」
「はい」
「お前、楽しんでいるな」
アルフレッドが少しだけ目を細める。
私は正直に頷いた。
「少しだけ」
だって。
大切な妹と。
大切な弟王子が。
少しずつ距離を縮めている。
それが嬉しかった。
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その日の午後。
「お姉様!」
今度はセシリアが勢いよく厨房へ飛び込んできた。
「どうしましょう!」
「何が?」
「ルシアン様に、噴水祭りへ誘われましたわ!」
顔が真っ赤だった。
私は思わず吹き出しそうになる。
早い。
反応が早い。
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「お姉様!」
「ど、どういう服が良いでしょう!?」
「落ち着いて」
「無理ですわ!」
完全に大混乱である。
私は小さく笑った。
「楽しみなんですね」
すると。
セシリアが少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らす。
「……はい」
その顔が、少しだけ大人びて見えた。
こうして悪役令嬢は――
新しく始まる“初デート”を、温かく見守っていくのだった。




