第136話 悪役令嬢、幸せを王宮へ持ち帰ります
夕暮れ。
馬車がゆっくりと王宮の門をくぐる。
見慣れた景色。
懐かしい城壁。
私は窓の外を見ながら、小さく息を吐いた。
「帰ってきましたね」
「ああ」
隣から短い返事。
でも。
その声はどこか穏やかだった。
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馬車が止まる。
次の瞬間。
「おかえりなさーい!!」
元気な声が響いた。
「わっ」
真っ先に飛び出してきたのはルシアンだった。
その後ろでは王妃様が楽しそうに笑っている。
「まあまあ、お帰りなさい!」
「お姉様ー!」
セシリアまでぱたぱた駆け寄ってくる。
私は思わず笑ってしまった。
「ただいま戻りました」
その瞬間。
「で!? 新婚旅行どうだった!?」
ルシアンが目を輝かせる。
早い。
「楽しかったです」
素直に答える。
すると。
「兄上、甘かった!?」
「ルシアン」
低い声。
アルフレッドだった。
「うわ、否定しない!」
「騒がしい」
だが。
少しだけ耳が赤い。
私は見逃さなかった。
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王妃様は、にこにことこちらを見る。
「どうだった? 離宮は」
「とても綺麗でした」
「湖も素敵で」
「お料理も美味しくて」
気づけば自然と笑顔になる。
セシリアが嬉しそうに頷いた。
「お姉様、すごく楽しそうですわ!」
その時。
アルフレッドが静かにこちらを見る。
その目が、少しだけ優しかった。
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「それと」
私はぱっと顔を上げた。
「みなさんにも、お土産があります!」
空気が一気に明るくなる。
「やったー!」
「まあ!」
「お姉様のお土産……!」
完全に嬉しそうだった。
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「王妃様にはこちらです」
私は小さな箱を差し出す。
中には、湖地方で人気だった紅茶。
王妃様はぱっと目を輝かせた。
「まあ……! 素敵!」
「香りがすごく良かったので」
「ありがとう、アメリアさん」
本当に嬉しそうだった。
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「ルシアン様には」
次は焼き菓子の包み。
「わ、これ絶対美味しいやつ!」
「かなり人気でした」
ルシアンは嬉しそうに抱える。
だがその時。
「セシリア嬢、これ」
自然な動きで、包みを半分差し出した。
私は少しだけ目を瞬かせる。
(……あら)
セシリアは嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!」
その笑顔を見た瞬間。
「……っ」
ルシアンが急に視線を逸らした。
耳が少し赤い。
分かりやすすぎる。
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「セシリアにはこちら」
私はリボンの箱を差し出した。
「きゃあ……!」
淡い花色のリボン。
セシリアは本当に嬉しそうに目を輝かせる。
「可愛いですわ……!」
「似合うと思って」
「大切にします!」
ぎゅっと箱を抱きしめる姿が可愛かった。
その横で。
ルシアンがちらちら見ている。
本当に分かりやすい。
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その時だった。
「……それで」
王妃様が楽しそうに目を細める。
「荷台の大半を占めている“箱”は何かしら?」
空気が止まる。
私はそっと視線を逸らした。
「気のせいです」
「三箱あります」
エマが静かに告げた。
「やっぱり気のせいではありませんでした」
ルシアンが吹き出す。
「兄上、また甘やかしたでしょ!」
「問題ない」
アルフレッドは即答した。
「好きなだけ買えと言っただけだ」
「それを甘やかしてるって言うんだよ!」
完全にその通りだった。
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私は少しだけ咳払いをする。
「これは明日のお楽しみです」
「お楽しみ?」
「はい」
私は小さく笑った。
「明日、みなさんに食べてもらいたい料理があります」
その瞬間。
ルシアンがぱっと顔を上げた。
「え、もしかして新作!?」
「チーズ料理です」
「やったー!!」
王妃様まで楽しそうに笑っている。
「まあ、楽しみねぇ」
私はその反応を見ながら、小さく息を吐いた。
(帰ってきた)
旅は終わった。
でも。
ここには、待っていてくれる人たちがいる。
そして――
自然と笑い合える場所がある。
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少し落ち着いた頃。
「エマ」
私は小さな包みを差し出した。
エマが一瞬だけ目を瞬かせる。
「……私に、ですか?」
「もちろんです」
中には、小さな銀細工のしおり。
旅先で見つけたものだった。
「いつも本を読まれているので」
エマは静かに包みを見つめ――
そして、ほんの少しだけ目を細めた。
「……ありがとうございます」
その声は、いつもより少し柔らかかった。
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「カイル様も」
次の包みを差し出す。
カイルが珍しく止まる。
「俺にもあるんですか?」
「あります」
中には、丈夫な革の手袋留め。
護衛任務でも使いやすそうな作りだった。
「旅先で見つけました」
カイルは数秒黙り――
やがて静かに頭を下げる。
「……大切にします」
その横で。
ルシアンがにやにやしていた。
「カイル、ちょっと嬉しそう」
「気のせいです」
「耳赤いよ?」
「気のせいです」
全然気のせいではなかった。
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夜。
ようやく落ち着いた頃。
私は私室のソファへ座り、小さく息を吐いた。
「……賑やかでしたね」
「そうだな」
アルフレッドが静かに答える。
机の上には、
昼間渡せなかった荷物が少しだけ残っていた。
そして。
その横には――
旅先で作った、名前入りのカップ。
「……置く場所、どうしますか?」
私が聞くと、
アルフレッドは当然のように言った。
「ここでいい」
手に取る。
『Alfred』
『Amelia』
刻まれた文字。
それを見た瞬間。
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
「……本当に作ったんですね」
「私が言った」
「そうでしたね」
思わず笑ってしまう。
その時。
アルフレッドが静かにこちらを見る。
「アメリア」
「はい」
「また行こう」
低い声。
でも。
どこか穏やかだった。
私は小さく笑う。
「はい」
「今度は、もっとゆっくり」
その言葉に。
アルフレッドがほんの少しだけ目を細めた。
そして。
「まずは、明日のピザだな」
低い声。
次の瞬間。
ぽん、と頭を軽く撫でられる。
「っ……」
「楽しみにしている」
ずるい。
本当にずるい。
私は少しだけ顔を赤くしながら、小さく笑った。
窓の外では、王宮の夜景が静かに光っている。
旅は終わった。
でも――
夫婦としての日常は、これから始まっていくのだった。




