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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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135/160

第135話 悪役令嬢、王太子と“帰る場所”へ向かいます

新婚旅行、最後の朝。


離宮の空気は、どこか静かだった。


窓の外。


湖は朝日に照らされ、きらきらと揺れている。


私は荷物を見ながら、小さく息を吐いた。


みんなへ買ったお土産。


王妃様への紅茶。


ルシアンへの焼き菓子。


セシリアへのリボン。


荷物はかなり増えていた。


「……増えましたね」


エマが静かに言った。


「気のせいです」


「既に荷台がかなり埋まっています」


「気のせいではありませんでした」


後ろでカイルが肩を震わせている。


絶対笑っている。


---


その時だった。


「お待ちください!」


後ろから、街の店主が駆け寄ってきた。


以前、フルーツタルトのお店で会った男性だった。


「この先の市場に、チーズ工房があるんです!」


私はぱっと顔を上げた。


「チーズ!」


完全に反応してしまった。


アルフレッドが小さく息を吐く。


「……分かりやすいな」


「だって気になります!」


---


数十分後。


私たちは市場の奥にある、小さなチーズ工房へ来ていた。


扉を開けた瞬間。


香ばしい匂いが広がる。


「……すごい」


思わず声が漏れた。


棚には、様々なチーズ。


燻製されたもの。


香草を練り込んだもの。


白いもの。


熟成の進んだもの。


全部違う。


全部面白い。


「この香り……!」


私は思わず近づく。


「熟成庫ですね」


職人の男性が目を丸くした。


「お嬢さん、分かるのかい?」


「少しだけ!」


完全に料理人の顔だった。


---


「これ、絶対ピザに合います」


私は燻製チーズを見つめながら呟く。


「焼いたパンにも合いそうですし」


「少し蜂蜜をかけても……」


「あと、この香草入りも!」


気づけばかなり真剣に選んでいた。


すると。


「王宮へ戻ったら作るのか?」


アルフレッドが静かに聞く。


「はい!」


私は即答した。


「みんなにも食べてほしいです」


王妃様。


ルシアン。


エマ。


カイル。


セシリア。


みんなの顔が自然と浮かぶ。


「きっと喜びます」


その瞬間。


アルフレッドが少しだけ目を細めた。


「そういうところだな」


低い声。


でも。


どこか穏やかだった。


---


結局。


かなり大量に買ってしまった。


「殿下」


エマが静かに荷物を見る。


「チーズだけで箱が三つあります」


「問題ない」


アルフレッドは即答した。


「好きなだけ買え」


「ありがとうございます!」


私が素直に答えると、


カイルが小さく吹き出す。


「殿下、完全に甘いですね」


「うるさい」


だが否定はしなかった。


---


帰りの馬車。


お土産がたくさん積まれている。


紅茶。


焼き菓子。


リボン。


そして大量のチーズ。


私は窓の外を見ながら、小さく笑った。


「みんな、どんな顔をするでしょうね」


「ルシアンは騒ぐな」


アルフレッドが即答する。


思わず吹き出した。


「絶対騒ぎます」


「間違いない」


珍しく意見が一致した。


---


「でも」


私は小さく息を吐く。


「楽しみです」


「帰ったら、チーズでピザを作りたいですし」


「王妃様は紅茶、喜んでくださると思います」


「セシリアも絶対リボン好きです」


自然と笑顔になる。


すると。


「お前は、本当に周りのことばかり考えているな」


アルフレッドが静かに言った。


「そうでしょうか?」


「そうだ」


短い返事。


でも。


どこか優しかった。


---


馬車が揺れる。


旅の疲れもあったのだろう。


少しずつ、瞼が重くなってくる。


「……眠そうだな」


「少しだけ……」


絶対少しじゃない。


その時。


当然のように、肩を引き寄せられた。


「寝ろ」


低い声。


温かい。


安心する。


私は少し迷って――


でも。


そのまま身体を預けた。


「……楽しかったです」


半分眠りながら呟く。


そのまま、意識がゆっくり沈んでいく。


遠ざかる意識の中で――


アルフレッドが、私の髪をそっと撫でた気がした。


優しく。


大事にするみたいに。


そして。


引き寄せる腕の力が、ほんの少しだけ強くなる。


温かい。


安心する。


私はそのまま、静かな眠りへ落ちていった。


---


どれくらい眠っていたのだろう。


ふと目を開ける。


夕暮れだった。


馬車の窓から、遠くに王都が見える。


私はぼんやりその景色を見つめる。


(帰ってきた)


夢みたいな時間は終わる。


でも。


帰る場所がある。


待っている人たちがいる。


そして――


隣には、アルフレッドがいる。


私は小さく笑った。


「……ただいま、ですね」


アルフレッドは静かにこちらを見る。


そして。


「そうだな」


その声は、どこまでも穏やかだった。


こうして悪役令嬢は――


王太子と共に、“帰る場所”へと歩いていくのだった。

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