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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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133/160

第133話 悪役令嬢、王太子と湖畔の街で夫婦になります

翌朝。


湖畔の離宮は、柔らかな朝日に包まれていた。


窓の外では、水面がきらきらと輝いている。


私はぼんやりと、その光を眺めていた。


「……綺麗」


小さく呟く。


その時。


「おはようございます」


静かな声。


振り向く。


エマだった。


「朝食の準備が整っております」


その瞬間。


昨夜のことを思い出す。


同じベッド。


寄り添って眠ったこと。


「……っ」


一気に顔が熱くなる。


エマは一瞬だけ私を見て――


ほんの少しだけ目を細めた。


「……よく眠れましたか?」


「そ、その質問必要ですか!?」


「必要かと」


必要ない。


絶対に。


その後ろでは、カイルが静かに目を逸らしていた。


---


朝食後。


私たちは湖畔の街へ来ていた。


石畳の道。


花で飾られた店先。


焼き立てパンの香り。


穏やかな湖風。


「わぁ……」


思わず目を輝かせる。


「気に入ったか」


アルフレッドが静かに問う。


「はい!」


自然と笑顔になる。


王都とは違う。


穏やかで、温かい街だった。


---


小さな雑貨店。


窓辺に並ぶ陶器。


淡いクリーム色のカップ。


青い花模様。


「ご夫婦用ですよ」


店主の言葉に、一気に顔が熱くなる。


アルフレッドは当然のように二つ手に取った。


「これにするか」


「え?」


「嫌か?」


「嫌ではありませんが……!」


即決で購入が決まる。


さらに。


「名前も入れられますよ」


「入れてもらおう」


「早すぎませんか!?」


「記念だ」


こうしてカップには二人の名前が刻まれた。


『Alfred』

『Amelia』


私はそっと指先で触れる。


(……夫婦なんですね)


胸がじんわりと熱くなる。


---


その後も街を歩く。


焼き菓子屋。


紅茶店。


花屋。


気づけば、手にはたくさんの包みがあった。


王妃様へ紅茶。


国王陛下へ燻製。


ルシアンへ焼き菓子。


セシリアへリボン。


エマへハーブティー。


カイルへ保存食。


「増えましたね」


「お前が選ぶとそうなる」


アルフレッドの言葉に、私は小さく笑う。


「だって、似合いそうで」


「知っている」


短い返事。


その横顔が、少しだけ柔らかかった。


---


夕暮れ。


湖畔のレストラン。


香草で焼いた湖魚。


焼き立てのパン。


温かなスープ。


そして――


木の実のタルト。


「美味しそうです……!」


思わず声が弾む。


アルフレッドが小さく笑う。


「今日は特に楽しそうだな」


「だって楽しいです」


自然と笑顔になる。


「いっぱい買い物もしましたし」


机の横にはお土産が並んでいた。


「少し買いすぎたかもしれません」


「問題ない」


ワインを一口飲みながら、アルフレッドは言う。


「お前が楽しそうだったからな」


胸がじんわりと熱くなる。


---


食事を終え、店を出る。


湖から吹く風が、髪を揺らした。


私は小さく息を吐く。


「今日は、本当に楽しかったです」


「そうだな」


短い返事。


でも、それで十分だった。


アルフレッドが当然のように手を取る。


私は少しだけ迷って――


もう振り払わなかった。


---


離宮へ戻ると、夜の静けさが広がっていた。


「……落ち着きますね」


私は窓辺に立つ。


湖は月明かりに揺れていた。


アルフレッドが隣に来る。


「そうだな」


私はそっと、昼に買ったカップを取り出す。


「もう使ってしまいました」


「記念だ」


紅茶を注ぐ。


湯気がふわりと広がる。


「今日は楽しかったです」


「そうだな」


短い会話。


でも、それで十分だった。


---


アルフレッドが静かに言う。


「アメリア、今日は楽しそうで良かった」


アメリアは少しだけ笑って。


「はい、夢のようです」


少しだけ間を置いて。


アルフレッドは静かに目を細める。


「そうか」


それだけ言って、視線を外す。


でも、その表情はほんの少し柔らかかった。


そのまま。


彼は当然のように私を抱き寄せた。


夜の湖が静かに揺れている。


温かい。


落ち着く。


不思議なくらい。


「おやすみ、アメリア」


「……おやすみなさい」


窓の外では、夜風が静かに湖を揺らしていた。


こうして悪役令嬢は――


王太子と共に、“夫婦としての日常”を少しずつ重ねていくのだった。

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