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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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131/160

第131話 悪役令嬢、祝福に見送られ旅立ちます

結婚式を終えたその日の午後。


王都は、祝福の熱気に包まれていた。


「本当に行くんですねぇ……」


私は王宮の玄関前で、小さく息を吐く。


目の前には、大きな白い馬車。


王家の紋章が静かに刻まれ、窓辺には小さな白い花飾りまで添えられている。


派手すぎない。


でも、特別だと分かる。


「王太子夫妻専用馬車です」


エマが静かに説明した。


「……落ち着きません」


「今さらです」


即答だった。


最近、本当に容赦がない。


---


「義姉上」


後ろから声がした。


振り向く。


ルシアンだった。


その隣にはセシリアもいる。


「お見送りに来ました」


セシリアが柔らかく微笑む。


昨日より少し落ち着いた雰囲気だった。


けれど。


その目はまだ少しだけ潤んでいる。


「……昨日は、少しはしゃぎすぎましたわ」


小さく頬を染めながら呟く。


「少し?」


ルシアンが思わず笑った。


「かなり嬉しそうだったけど」


「だって、お姉様の結婚式でしたもの……!」


少し恥ずかしそうに視線を逸らす。


以前ほど子どもっぽくはない。


でも。


大切な姉の晴れの日が嬉しかった気持ちは、隠しきれていなかった。


私は思わず笑ってしまう。


「ありがとう、セシリア」


「……はい」


セシリアは嬉しそうに微笑んだ。


---


その時。


風が少し強く吹く。


セシリアの髪がふわりと揺れた。


すると。


ルシアンが自然に一歩前へ出る。


「寒くない?」


「え?」


「夕方、少し冷えるし」


そう言いながら、自分の上着をそっと肩へ掛けた。


セシリアが目を瞬かせる。


「ルシアン様……」


「風邪ひいたら大変でしょ」


少し照れたように視線を逸らす。


でも。


以前みたいに騒がしくはない。


どこか少し、大人びて見えた。


私はその様子を見ながら、小さく目を細める。


(……仲良しですね)


すると。


「義姉上」


ルシアンが少しだけ真面目な顔をした。


「兄上をよろしくお願いします」


その言葉に、私は少し驚く。


以前なら絶対茶化していた。


でも今は、ちゃんと“弟王子”の顔をしている。


私は小さく頷いた。


「はい」


その瞬間。


「……いや、やっぱり兄上が義姉上を幸せにしないと」


「当然だ」


低い声。


アルフレッドだった。


ルシアンは肩を竦める。


「だって兄上、義姉上大好きすぎるし」


「事実だ」


即答だった。


「朝から何を言ってるんですか……!」


私は一気に顔が熱くなる。


セシリアが小さく笑った。


「本当に仲が良いですわね」


---


「そろそろ出発のお時間です」


エマが静かに告げる。


その後ろでは、カイルが周囲を警戒していた。


視線は鋭い。


だが。


「東側、問題ありません」


「西側も異常ありません」


エマとカイルの声が、ぴたりと重なる。


私は思わず吹き出しそうになった。


「……仲が良いですね」


「職務です」


「仕事です」


完全に同時だった。


息ぴったりである。


---


「では、行くぞ」


アルフレッドが手を差し出す。


私はそっと重ねた。


そして。


馬車へ乗り込む。


窓の外では、王都の人々がすでに集まっていた。


「アメリア様ー!」


「お幸せに!」


花が舞う。


笑顔が広がる。


私は思わず目を見開いた。


(……こんなに)


胸が、じんわり熱くなる。


その時。


「手を振らないのか」


隣から低い声。


「え?」


「皆、お前を見送っている」


私は小さく頷き――


窓へ身を寄せた。


そして。


一人一人の顔を見るように、丁寧に手を振り返す。


小さな女の子。


パン屋の夫婦。


市場の店主。


孤児院の子どもたち。


皆、本当に嬉しそうに笑っている。


「アメリア様ー!」


「また来てください!」


「お幸せにー!」


胸が、じんわり熱くなる。


(……不思議です)


昔の私なら。


こんなふうに、人前で笑うことも。


まして、馬車から身を乗り出して手を振るなんて、考えもしなかった。


でも今は――


「ありがとうございます!」


自然と声が出る。


すると、さらに大きな歓声が返ってきた。


胸の奥が、じんわり熱くなる。


その横で。


アルフレッドも静かに視線を上げた。


「……殿下?」


彼は小さく息を吐き――


そして。


ゆっくりと、王都の人々へ手を振る。


次の瞬間。


「うわぁぁ!!」


歓声が、一気に大きくなった。


「殿下が手を振った!」


「王太子殿下ー!!」


アルフレッドはそんな騒ぎなど気にした様子もなく、静かに言う。


「……お前だけでは不公平だろう」


胸が、じんわり熱くなる。


ずるい。


本当にずるい人だ。


---


馬車はゆっくりと王都を抜けていく。


石畳の道。


揺れる木々。


窓から差し込む柔らかな陽射し。


私はようやく小さく息を吐いた。


「……本当に、新婚旅行なんですね」


「嫌か?」


「そうではありません」


少し迷って。


それから、小さく笑う。


「まだ、実感がなくて」


アルフレッドは静かにこちらを見る。


そして。


そっと、私の手を握った。


「なら」


低い声。


「これから嫌でも実感する」


「……またそういうことを平然と言いますね」


「事実だ」


即答だった。


私は思わず笑ってしまう。


---


数時間後。


馬車がゆっくり止まった。


「到着しました」


カイルの声。


窓の外を見る。


そこには――


大きな湖が広がっていた。


夕陽を受けて、水面がきらきら輝いている。


湖畔には、小さな離宮。


白い壁。


花に囲まれたテラス。


静かな風。


まるで絵本みたいな景色だった。


「……綺麗」


思わず呟く。


すると。


「気に入ったか」


アルフレッドが静かに聞く。


私は小さく頷いた。


「はい」


胸の奥が、じんわり温かくなる。


ここには、王宮の喧騒もない。


重臣たちもいない。


ただ――


私たちだけの時間。


アルフレッドが静かに馬車を降りる。


そして当然のように、こちらへ手を差し出した。


「アメリア」


その声は、いつもより少しだけ柔らかい。


私はそっと、その手を取った。


湖から吹く風が、優しく二人を包み込む。


こうして悪役令嬢は――


王太子と共に、新しい幸せな時間を歩き始めるのだった。

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