第130話 悪役令嬢、祝福の中で王太子の花嫁になります
大聖堂の中は、静寂に包まれていた。
高い天井。
差し込む光。
色鮮やかなステンドグラス。
その中央で。
私はアルフレッドの隣に立っている。
胸が、うるさいほど鳴っていた。
(……本当に、結婚するんですね)
少し前まで、“悪役令嬢”と呼ばれていた私が。
今は。
この国の王太子の隣にいる。
「アメリア」
低い声。
隣を見る。
アルフレッドが静かにこちらを見ていた。
「顔が強張っている」
「だ、誰のせいですか……」
「私だな」
即答だった。
少しだけ、緊張がほぐれる。
すると。
神官の声が、大聖堂へ響いた。
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「アルフレッド・ルミエール殿下」
「あなたは、アメリア・フォン・ローゼリアを妻とし、生涯愛し、支え続けることを誓いますか」
静寂。
アルフレッドは真っ直ぐ前を向いたまま、静かに答える。
「誓う」
低く。
揺るぎない声だった。
胸が熱くなる。
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「アメリア・フォン・ローゼリア」
「あなたは、アルフレッド・ルミエール殿下を夫とし、生涯愛し、共に歩むことを誓いますか」
私は小さく息を吸う。
そして。
「誓います」
はっきりと答えた。
不思議だった。
もう、怖くない。
この人の隣を、自分で選んだから。
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「では――誓いの口づけを」
空気が、少しだけ揺れる。
私はそっと顔を上げた。
アルフレッドが静かに近づく。
その手が、そっと私の頬へ触れた。
優しく。
壊れ物みたいに。
そして。
静かな口づけが落ちる。
「……っ」
一瞬。
世界が止まった気がした。
次の瞬間。
大聖堂中へ、盛大な拍手が響き渡る。
「おめでとうございます!」
「王太子殿下!」
「アメリア様!」
歓声が広がる。
私は顔が熱くなるのを感じながら、思わずアルフレッドを見る。
すると。
彼はほんの少しだけ目を細めた。
「赤いな」
「……誰のせいですか」
「私だな」
また即答だった。
ずるい。
本当にずるい。
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そして。
大聖堂の扉が開く。
次の瞬間。
ふわり、と花びらが舞った。
「わぁ……!」
白。
淡い桃色。
クリーム色。
無数の花びらが、祝福するように私たちへ降り注ぐ。
子どもたちまで、夢中で花を投げていた。
小さな手から放たれた花びらが、風に乗ってきらきら舞う。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
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その時だった。
大聖堂の階段の両側へ、孤児院の子どもたちが並ぶ。
男の子たちは少し大きめの正装姿。
慣れない襟元を何度も直しながら、それでも一生懸命胸を張っている。
女の子たちは、淡い色のワンピースに白いリボン。
小さな花飾りまでつけてもらっていた。
その手には、まだ花びらが残っている。
少し緊張した顔。
でも。
私と目が合った瞬間――
ぱあっと笑顔になった。
そして。
♪〜〜〜
優しい歌声が、大聖堂前へ響き始めた。
「アメリアお姉ちゃん!」
「おめでとう!」
小さな手が、一斉に振られる。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
「歌、いっぱい練習したの!」
「今日は失敗しないもん!」
子どもたちは顔を見合わせると、もう一度歌い始めた。
優しくて。
温かくて。
祝福でいっぱいの歌。
風に乗って、大聖堂前へ広がっていく。
花びらが舞う。
子どもたちが笑う。
王都の人々まで、優しい顔で見守っている。
私は思わず口元を押さえた。
「……ずるいです」
涙が出そうになる。
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その時だった。
ざわり、と空気が揺れた。
人混みの奥。
誰かが腕を大きく振り上げる。
白い何かが、こちらへ飛ぼうとして――
次の瞬間。
「確保しろ」
低い声。
一瞬だった。
黒い影が滑り込む。
カイルだった。
男の腕を捻り上げ、そのまま地面へ押さえ込む。
「ぐっ!?」
周囲の護衛騎士たちも即座に動いた。
ざわめき。
私は一瞬、どきりとした。
だが。
「……問題ありません」
カイルが静かに立ち上がる。
その足元には、割れた卵が石畳へ広がっていた。
私は胸を撫で下ろした。
そして、護衛騎士たちへ小さく頭を下げる。
今日という日を守ってくれたことへ、心から感謝した。
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その時。
隣から低い声。
「泣いているな」
「泣いてません……!」
完全に泣いていた。
アルフレッドは小さく息を吐き――
そして。
そっと、私の涙を拭った。
「今日は祝ってもらえ」
低く、優しい声。
その言葉に。
胸の奥が、また熱くなる。
「……はい」
私は涙を堪えながら、小さく笑った。
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遠くでは、鐘が鳴っている。
王都中の祝福。
子どもたちの歌声。
温かな花びら。
そして。
隣には、アルフレッドがいる。
私はそっと、彼の腕へ寄り添った。
すると。
彼は何も言わず、静かに私の手を握る。
その手は、どこまでも温かかった。
こうして悪役令嬢は――
たくさんの祝福に包まれながら、
王太子の花嫁となったのだった。




