第129話 悪役令嬢、王太子の花嫁になります
結婚式当日。
私は、人生で一番静かな朝を迎えていた。
窓の外では、柔らかな朝日が王宮を照らしている。
鳥の声。
遠くで聞こえる鐘の音。
けれど。
胸の中だけが、落ち着かなかった。
「……本当に今日なんですね」
小さく呟く。
すると。
「本日です」
エマが即答した。
容赦がない。
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部屋には、既にたくさんの侍女たちが集まっていた。
純白ではなく、淡いクリーム色のドレス。
柔らかな刺繍。
胸元には小さな花。
長いベール。
そして――
髪へ飾られた、小さな白い花。
「……綺麗」
思わず、自分で呟いてしまった。
鏡の中の私は、
もう“厨房のアメリア”だけではなかった。
未来の王太子妃。
その姿だった。
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「お姉様ぁぁぁ……!」
勢いよく扉が開いた。
「セシリア」
予想通り、妹は既に泣いていた。
早い。
「綺麗ですわぁ……!」
「まだ泣く場面ではないわよ」
「無理ですぅ!」
完全に限界突破している。
その後ろから、
父と母も姿を見せた。
父――レオナルド・フォン・ローゼリア。
母――ヴィクトリア・フォン・ローゼリア。
二人とも、少しだけ緊張しているようだった。
母は私を見るなり、静かに目元を押さえた。
「ああ……アメリア……」
「お母様」
「……本当に、素敵なレディになったわね」
その声に、
胸の奥がじんわり熱くなる。
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父はしばらく何も言わなかった。
ただ、真っ直ぐ私を見る。
そして。
「……綺麗だ」
短く。
不器用に。
でも。
誰より真っ直ぐな言葉だった。
私は思わず笑ってしまう。
「ありがとうございます」
父は少しだけ咳払いをした。
照れている。
珍しい。
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その時。
「お迎えに参りました」
低い声が響いた。
空気が変わる。
振り向く。
そこには――
アルフレッドが立っていた。
白を基調とした正装。
金色の髪。
静かな威圧感。
そして。
私を見る目だけが、少しだけ柔らかい。
「っ……」
息を呑む。
格好良すぎる。
ずるい。
本当にずるい。
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アルフレッドは数秒、何も言わなかった。
ただ静かに私を見る。
その視線に耐えきれず、
私は少しだけ視線を逸らす。
「……変じゃないですか」
小さく聞く。
すると。
「綺麗だ」
即答だった。
空気が止まる。
セシリアが「きゃー!」と叫ぶ。
母はまた泣いた。
父は静かに天井を見た。
耐えている。
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アルフレッドはゆっくり近づく。
そして。
そっと、私の手を取った。
「迎えに来た」
低い声。
昨日と同じ言葉。
でも今日は、
その意味が全然違う。
胸が、熱くなる。
「……はい」
小さく頷く。
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その時だった。
父が静かに前へ出た。
空気が変わる。
父はアルフレッドを真っ直ぐ見る。
そして。
「殿下」
「何だ」
「……娘を、頼みます」
静かな声だった。
でも。
そこには、父としての全てが込められていた。
アルフレッドは一瞬だけ目を細める。
そして。
「任せてください」
迷いなく、言い切った。
「必ず幸せにします」
その瞬間。
母が完全に泣いた。
セシリアも泣いた。
私も、少しだけ危なかった。
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「そろそろお時間です」
エマが静かに告げる。
扉の向こう。
鐘の音が響く。
結婚式が始まる。
私は小さく息を吸った。
すると。
アルフレッドの手に、少しだけ力が込められる。
「アメリア」
「はい」
「逃げるな」
思わず笑ってしまう。
「逃げません」
小さく返す。
「私が選びましたから」
アルフレッドは静かに頷いた。
その横顔は、
誰より穏やかだった。
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扉が開く。
光が差し込む。
祝福の音が聞こえる。
私はアルフレッドと並び、前を向いた。
もう、悪役令嬢ではない。
私は――
この人の花嫁になる。
こうして悪役令嬢は――
たくさんの愛と祝福に包まれながら、
王太子の隣で、新しい人生を歩き始めるのだった。




