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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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128/160

第128話 悪役令嬢、王子と結婚前夜を迎えます

結婚式前夜。


王宮は、昼間までの慌ただしさが嘘のように静まり返っていた。


私は自室の窓辺へ立ちながら、小さく息を吐く。


眠れない。


理由は、分かっている。


(……明日なんですよね)


明日になれば。


私は、本当にアルフレッドの妃になる。


そう思うだけで、胸が落ち着かなかった。


その時だった。


――コンコン。


控えめなノック。


「はい」


扉が静かに開く。


そこに立っていたのは――


アルフレッドだった。


「……殿下?」


思わず目を瞬かせる。


彼はいつものように静かな顔で部屋へ入ってきた。


だが。


その視線は、どこか柔らかかった。


「眠れないのか」


低い声。


私は少し迷って――小さく頷く。


「少しだけ」


すると。


「私もだ」


意外な言葉だった。


私は思わず彼を見る。


「殿下でも、そういうことあるんですね」


「失礼だな」


だが。


少しだけ口元が緩んでいる。


珍しい。


私は思わず小さく笑ってしまった。


---


「来い」


アルフレッドが静かに手を差し出す。


私は迷いながら、その手を取った。


向かった先は――


王宮のバルコニーだった。


夜風が頬を撫でる。


遠くで噴水の音が聞こえた。


静かな夜。


二人きり。


私は手すりへ触れながら、小さく息を吐く。


「……ここへ来るの、久しぶりですね」


「そうだな」


鐘楼。


庭園。


厨房。


少しずつ距離が縮まっていった日々を思い出す。


あの頃は、こんな未来になるなんて想像もしていなかった。


「不安か」


低い声。


私は少しだけ考えて――正直に答える。


「……少しだけ」


未来。


王太子妃。


結婚。


全部、まだ夢みたいだった。


すると。


アルフレッドが一歩近づく。


距離が縮まる。


逃げ場がない。


でも――嫌じゃない。


彼はそっと、私を抱き寄せた。


「っ……」


昼間の重厚なドレスとは違う。


薄い部屋着越しに伝わってくる、彼の広くて温かい胸。


そこから、規則正しく――でも少しだけ速い鼓動が伝わってくる。


「大丈夫だ」


低い声。


まるで、自分にも言い聞かせるみたいに。


「明日、お前を迎えに行く」


胸が、大きく跳ねた。


私は思わず顔を上げる。


すぐ近くに、アルフレッドの顔。


月明かりの中で見るその表情は、いつもよりずっと優しかった。


「……はい」


小さく返す。


すると。


彼の手が、そっと頭へ触れた。


優しく撫でられる。


まるで壊れ物みたいに。


「逃げるな」


「逃げません」


「そうか」


その声が、少しだけ柔らかくなる。


見つめ合う。


静かな夜。


遠くで鐘の音だけが響いていた。


そして。


アルフレッドが、ほんの少しだけ目を細める。


「……綺麗だ」


不意打ちだった。


「っ……!」


また心臓がうるさくなる。


私は思わず彼の胸へ顔を押しつけた。


すると。


アルフレッドが小さく笑う。


本当に、少しだけ。


「明日には、もう隠れられないな」


その声があまりにも穏やかで。


私は小さく笑ってしまった。


「……今でも十分隠れられていません」


「それもそうだ」


即答だった。


ずるい。


本当にずるい人だ。


でも――


そんな未来が、今は少しだけ嬉しい。


私はそっと、彼の服を握る。


すると。


アルフレッドは私のその小さな手を上から大きな手でそっと包み込み、抱きしめる腕をほんの少しだけ強くした。


「アメリア」


「はい」


「明日からも、隣にいろ」


胸が、じんわり熱くなる。


私は小さく頷いた。


「……はい」


夜風が、静かに二人の間を通り抜けていく。


こうして悪役令嬢は――


王子と共に、“新しい未来”の前夜を迎えるのだった。

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