第126話 悪役令嬢、家族に送り出されます
数日後。
私は久しぶりにローゼリア家へ戻っていた。
王宮の馬車が屋敷の前で止まる。
懐かしい景色。
慣れ親しんだ庭。
胸の奥が、少しだけ温かくなった。
「……落ち着きます」
思わず小さく呟く。
すると隣から、
「そうか」
低い声。
アルフレッドだった。
相変わらず落ち着いている。
悔しい。
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屋敷へ入る。
使用人たちが一斉に頭を下げた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
その呼び方に、少しだけ胸が熱くなる。
王宮ではもう“未来の王太子妃”として扱われることが増えた。
でもここでは、今でも“ローゼリア家のお嬢様”なのだ。
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応接室へ通される。
「少々お待ちくださいませ」
使用人が静かに頭を下げる。
アルフレッドは当然のように椅子へ腰掛けた。
……なぜこの人は実家でもこんなに自然なのだろう。
そう思った瞬間。
「お姉様ぁ!!」
勢いよく扉が開いた。
「っ!?」
セシリアだった。
「本当に来てくださったんですね!?」
「来ると言っていたでしょう!?」
「でも! 結婚が決まってから初めての帰省ですもの!」
完全に興奮している。
「お姉様、本当に王太子妃様になるんですねぇ……!」
「まだ慣れないからやめてちょうだい」
「でも幸せそうです!」
声が大きい。
その横で。
アルフレッドが静かにこちらを見ていた。
「騒がしいな」
「兄上は落ち着きすぎなんです!」
いつの間に兄扱いなのだろう。
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その後。
父、レオナルド・フォン・ローゼリア。
母、ヴィクトリアも応接室へ入ってきた。
「お帰り、アメリア」
父の低い声。
私は小さく頭を下げる。
「ただいま戻りました」
母は私を見るなり、じわっと目を潤ませた。
「お母様?」
「だって……」
ハンカチを握りしめる。
「アメリアが、こんなに幸せそうで……」
「まだ泣くには早いです!」
「無理よぉ……!」
早かった。
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父は静かに席へ着く。
しばらく私を見て――
小さく息を吐いた。
「……アメリアは、不器用です」
空気が少し止まる。
「お父様?」
父は構わず続けた。
「昔から、言葉が足りん」
「思っていることを、上手く伝えられない」
胸が、少しだけ痛む。
思い出す。
社交界。
“悪役令嬢”。
冷たい。
怖い。
近寄りがたい。
そんなふうに呼ばれていた頃を。
「そのせいで、随分誤解もされた」
父の声は静かだった。
「だが」
一拍。
「人のために動ける子でした」
「昔からな」
私は言葉を失った。
母がまた涙ぐむ。
セシリアまで目を潤ませていた。
「お姉様は昔から優しかったですわ……!」
「セシリア」
「不器用で誤解されても、誰かのために動く方でしたもの!」
胸の奥が、じんわり熱くなる。
その時。
「……私も、最初は誤解していた」
低い声。
アルフレッドだった。
私は思わず彼を見る。
「だが」
真っ直ぐな視線。
「今は違う」
短い言葉。
でも。
それだけで十分だった。
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「きゃー!!」
セシリアが限界突破した。
「お姉様ぁ! 今の聞きました!?」
「聞こえてます!」
「愛ですわ!」
「声が大きい!」
母まで涙ぐみながら頷いている。
「素敵……」
父は額を押さえていた。
「騒がしいな……」
だが。
その顔は、どこか穏やかだった。
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その後。
話題は自然と結婚式へ移っていった。
「半年後ですって!?」
セシリアが再び興奮する。
「もうすぐではありませんの!」
「私には十分早いです……」
「ドレス! 装花! お料理!」
「セシリア、落ち着きなさい」
「無理ですわ!」
無理らしい。
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その時。
父が静かにアルフレッドを見た。
空気が少し変わる。
「……殿下」
低い声。
アルフレッドも静かに視線を返す。
父は数秒黙り――
そして。
「娘を、頼みます」
真っ直ぐな声だった。
不器用で。
でも、誰より重い言葉。
アルフレッドは静かに頷く。
「任せてください」
短い。
だが、一切迷いのない声だった。
私は思わず視線を落とす。
胸が熱い。
恥ずかしい。
でも――
嬉しかった。
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帰る頃には、外は夕暮れになっていた。
馬車へ乗り込む。
窓の外では、セシリアが最後まで大きく手を振っていた。
「お姉様ー!」
「また来ます!」
私も思わず笑ってしまう。
その時。
「嬉しそうだな」
隣から低い声。
アルフレッドだった。
「……少しだけ」
正直に答える。
家族に認められて。
送り出されて。
ようやく、本当に前へ進めた気がした。
すると。
アルフレッドが静かにこちらを見る。
「当然だ」
低い声。
そして。
「お前は、誇っていい」
胸が、また熱くなる。
私は少しだけ視線を逸らした。
「……本当にずるいです」
「何がだ」
「そういうことを、平然と言うところです」
彼は少しだけ目を細める。
その横顔は、どこか穏やかだった。
こうして悪役令嬢は――
家族に送り出されながら、“未来の王太子妃”として新しい一歩を踏み出していくのだった。




