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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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126/160

第126話 悪役令嬢、家族に送り出されます

数日後。


私は久しぶりにローゼリア家へ戻っていた。


王宮の馬車が屋敷の前で止まる。


懐かしい景色。


慣れ親しんだ庭。


胸の奥が、少しだけ温かくなった。


「……落ち着きます」


思わず小さく呟く。


すると隣から、


「そうか」


低い声。


アルフレッドだった。


相変わらず落ち着いている。


悔しい。


---


屋敷へ入る。


使用人たちが一斉に頭を下げた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


その呼び方に、少しだけ胸が熱くなる。


王宮ではもう“未来の王太子妃”として扱われることが増えた。


でもここでは、今でも“ローゼリア家のお嬢様”なのだ。


---


応接室へ通される。


「少々お待ちくださいませ」


使用人が静かに頭を下げる。


アルフレッドは当然のように椅子へ腰掛けた。


……なぜこの人は実家でもこんなに自然なのだろう。


そう思った瞬間。


「お姉様ぁ!!」


勢いよく扉が開いた。


「っ!?」


セシリアだった。


「本当に来てくださったんですね!?」


「来ると言っていたでしょう!?」


「でも! 結婚が決まってから初めての帰省ですもの!」


完全に興奮している。


「お姉様、本当に王太子妃様になるんですねぇ……!」


「まだ慣れないからやめてちょうだい」


「でも幸せそうです!」


声が大きい。


その横で。


アルフレッドが静かにこちらを見ていた。


「騒がしいな」


「兄上は落ち着きすぎなんです!」


いつの間に兄扱いなのだろう。


---


その後。


父、レオナルド・フォン・ローゼリア。


母、ヴィクトリアも応接室へ入ってきた。


「お帰り、アメリア」


父の低い声。


私は小さく頭を下げる。


「ただいま戻りました」


母は私を見るなり、じわっと目を潤ませた。


「お母様?」


「だって……」


ハンカチを握りしめる。


「アメリアが、こんなに幸せそうで……」


「まだ泣くには早いです!」


「無理よぉ……!」


早かった。


---


父は静かに席へ着く。


しばらく私を見て――


小さく息を吐いた。


「……アメリアは、不器用です」


空気が少し止まる。


「お父様?」


父は構わず続けた。


「昔から、言葉が足りん」


「思っていることを、上手く伝えられない」


胸が、少しだけ痛む。


思い出す。


社交界。


“悪役令嬢”。


冷たい。


怖い。


近寄りがたい。


そんなふうに呼ばれていた頃を。


「そのせいで、随分誤解もされた」


父の声は静かだった。


「だが」


一拍。


「人のために動ける子でした」


「昔からな」


私は言葉を失った。


母がまた涙ぐむ。


セシリアまで目を潤ませていた。


「お姉様は昔から優しかったですわ……!」


「セシリア」


「不器用で誤解されても、誰かのために動く方でしたもの!」


胸の奥が、じんわり熱くなる。


その時。


「……私も、最初は誤解していた」


低い声。


アルフレッドだった。


私は思わず彼を見る。


「だが」


真っ直ぐな視線。


「今は違う」


短い言葉。


でも。


それだけで十分だった。


---


「きゃー!!」


セシリアが限界突破した。


「お姉様ぁ! 今の聞きました!?」


「聞こえてます!」


「愛ですわ!」


「声が大きい!」


母まで涙ぐみながら頷いている。


「素敵……」


父は額を押さえていた。


「騒がしいな……」


だが。


その顔は、どこか穏やかだった。


---


その後。


話題は自然と結婚式へ移っていった。


「半年後ですって!?」


セシリアが再び興奮する。


「もうすぐではありませんの!」


「私には十分早いです……」


「ドレス! 装花! お料理!」


「セシリア、落ち着きなさい」


「無理ですわ!」


無理らしい。


---


その時。


父が静かにアルフレッドを見た。


空気が少し変わる。


「……殿下」


低い声。


アルフレッドも静かに視線を返す。


父は数秒黙り――


そして。


「娘を、頼みます」


真っ直ぐな声だった。


不器用で。


でも、誰より重い言葉。


アルフレッドは静かに頷く。


「任せてください」


短い。


だが、一切迷いのない声だった。


私は思わず視線を落とす。


胸が熱い。


恥ずかしい。


でも――


嬉しかった。


---


帰る頃には、外は夕暮れになっていた。


馬車へ乗り込む。


窓の外では、セシリアが最後まで大きく手を振っていた。


「お姉様ー!」


「また来ます!」


私も思わず笑ってしまう。


その時。


「嬉しそうだな」


隣から低い声。


アルフレッドだった。


「……少しだけ」


正直に答える。


家族に認められて。


送り出されて。


ようやく、本当に前へ進めた気がした。


すると。


アルフレッドが静かにこちらを見る。


「当然だ」


低い声。


そして。


「お前は、誇っていい」


胸が、また熱くなる。


私は少しだけ視線を逸らした。


「……本当にずるいです」


「何がだ」


「そういうことを、平然と言うところです」


彼は少しだけ目を細める。


その横顔は、どこか穏やかだった。


こうして悪役令嬢は――


家族に送り出されながら、“未来の王太子妃”として新しい一歩を踏み出していくのだった。

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