第125話 悪役令嬢、王都中の祝福を知ります
数日後。
私は久しぶりに王都へ出ていた。
「本日は、結婚式準備の確認も兼ねています」
隣を歩くエマが静かに言う。
「王都全体の飾り付けや、各店の進行状況ですね」
「……本当に大ごとですね」
思わず小さく呟く。
すると。
「王太子殿下のご結婚ですので」
即答だった。
否定できない。
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王都は、以前よりさらに賑わっていた。
花屋。
菓子店。
仕立て屋。
露店。
通り全体が、どこか浮き立っている。
「……あ」
私は思わず足を止めた。
花屋の店先。
そこには、小さな白い花冠が並んでいた。
「可愛い……」
自然と声が漏れる。
すると店主の女性が嬉しそうに笑った。
「結婚式用ですよ」
「え?」
「王太子殿下と未来の王太子妃様の」
胸がどきりと跳ねる。
「最近は、子どもたちにも人気なんですよ」
そう言いながら、花冠を持ち上げる。
「みんな、お祝いしたいんですって」
私は少しだけ言葉を失った。
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その時だった。
「あっ!」
小さな声。
振り向く。
そこには、小さな女の子が立っていた。
「アメリア様だ!」
次の瞬間。
「ほんとだ!」
「アメリア様!」
「お姫さまー!」
「っ!?」
私は一気に真っ赤になった。
「お、お姫さまではありません!」
だが。
子どもたちはきらきらした目でこちらを見ている。
「結婚式楽しみ!」
「花いっぱい投げる!」
「歌も練習してる!」
「歌?」
私は目を瞬かせる。
だがその瞬間。
エマが静かに咳払いをした。
そして珍しく、ほんの少しだけいたずらっぽく目を細める。
「……当日のお楽しみに、ということで」
「え?」
だがエマはそれ以上答えなかった。
絶対に何か隠している。
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さらに歩く。
すると今度は、パン屋の前で声が上がった。
「おっ、アメリア様!」
以前、炊き出しで会った店主だった。
「見てくださいよ!」
店先に並んでいたのは、丸い小さなパン。
中央に白いクリーム。
そして花の形。
「祝福パンです!」
「……私のですか?」
「そりゃもちろん!」
周囲の客たちも笑っている。
「結婚式楽しみにしてますよ!」
「幸せになってくださいね!」
「殿下にもよろしく!」
次々と飛んでくる声。
私は思わず立ち止まった。
(……こんなに)
こんなにも。
たくさんの人が。
私たちを祝ってくれている。
少し前まで、“悪役令嬢”と呼ばれていた私を。
胸の奥が、じんわり熱くなった。
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その時だった。
「やはりここにいたか」
低い声。
振り向く。
アルフレッドだった。
今日は視察帰りなのだろう。
王子らしい正装姿。
周囲がざわめく。
だが彼は気にした様子もなく、当然のように私の隣へ来た。
「……お疲れさまです」
「そっちこそ」
短いやり取り。
でも。
その一言だけで少し安心する。
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アルフレッドは周囲を見る。
花屋。
パン屋。
飾り付け。
人々の笑顔。
そして。
「……盛り上がっているな」
「はい」
私は小さく頷いた。
「でも」
少し迷う。
「私なんかが、こんなに祝ってもらっていいのでしょうか」
ぽつり、と零れる。
すると。
アルフレッドが静かにこちらを見た。
「当然だ」
即答だった。
「お前がここまで来た」
低い声。
真っ直ぐな視線。
「誇れ」
胸が熱くなる。
私は少しだけ視線を逸らした。
「……ずるいです」
「何がだ」
「そういうことを平然と言うところです」
彼は少しだけ目を細める。
「事実だ」
またそれだ。
本当にずるい。
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夕暮れ。
王都広場の噴水が、橙色の光に染まっていた。
風が吹く。
花飾りが揺れる。
遠くでは、子どもたちの笑い声。
私はその景色を見つめながら、小さく息を吐いた。
(……楽しみ)
少し前まで。
結婚式なんて、想像もできなかった。
でも今は。
こんなにもたくさんの人が、笑ってくれている。
その隣で。
アルフレッドが静かに立っていた。
「アメリア」
「はい」
「泣くなよ」
「まだ泣いていません」
「そのうち泣く」
否定できないのが悔しい。
私は思わず笑ってしまった。
こうして悪役令嬢は――
王都中の祝福に包まれながら、少しずつ“その日”へ近づいていくのだった。




