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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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125/160

第125話 悪役令嬢、王都中の祝福を知ります

数日後。


私は久しぶりに王都へ出ていた。


「本日は、結婚式準備の確認も兼ねています」


隣を歩くエマが静かに言う。


「王都全体の飾り付けや、各店の進行状況ですね」


「……本当に大ごとですね」


思わず小さく呟く。


すると。


「王太子殿下のご結婚ですので」


即答だった。


否定できない。


---


王都は、以前よりさらに賑わっていた。


花屋。


菓子店。


仕立て屋。


露店。


通り全体が、どこか浮き立っている。


「……あ」


私は思わず足を止めた。


花屋の店先。


そこには、小さな白い花冠が並んでいた。


「可愛い……」


自然と声が漏れる。


すると店主の女性が嬉しそうに笑った。


「結婚式用ですよ」


「え?」


「王太子殿下と未来の王太子妃様の」


胸がどきりと跳ねる。


「最近は、子どもたちにも人気なんですよ」


そう言いながら、花冠を持ち上げる。


「みんな、お祝いしたいんですって」


私は少しだけ言葉を失った。


---


その時だった。


「あっ!」


小さな声。


振り向く。


そこには、小さな女の子が立っていた。


「アメリア様だ!」


次の瞬間。


「ほんとだ!」


「アメリア様!」


「お姫さまー!」


「っ!?」


私は一気に真っ赤になった。


「お、お姫さまではありません!」


だが。


子どもたちはきらきらした目でこちらを見ている。


「結婚式楽しみ!」


「花いっぱい投げる!」


「歌も練習してる!」


「歌?」


私は目を瞬かせる。


だがその瞬間。


エマが静かに咳払いをした。


そして珍しく、ほんの少しだけいたずらっぽく目を細める。


「……当日のお楽しみに、ということで」


「え?」


だがエマはそれ以上答えなかった。


絶対に何か隠している。


---


さらに歩く。


すると今度は、パン屋の前で声が上がった。


「おっ、アメリア様!」


以前、炊き出しで会った店主だった。


「見てくださいよ!」


店先に並んでいたのは、丸い小さなパン。


中央に白いクリーム。


そして花の形。


「祝福パンです!」


「……私のですか?」


「そりゃもちろん!」


周囲の客たちも笑っている。


「結婚式楽しみにしてますよ!」


「幸せになってくださいね!」


「殿下にもよろしく!」


次々と飛んでくる声。


私は思わず立ち止まった。


(……こんなに)


こんなにも。


たくさんの人が。


私たちを祝ってくれている。


少し前まで、“悪役令嬢”と呼ばれていた私を。


胸の奥が、じんわり熱くなった。


---


その時だった。


「やはりここにいたか」


低い声。


振り向く。


アルフレッドだった。


今日は視察帰りなのだろう。


王子らしい正装姿。


周囲がざわめく。


だが彼は気にした様子もなく、当然のように私の隣へ来た。


「……お疲れさまです」


「そっちこそ」


短いやり取り。


でも。


その一言だけで少し安心する。


---


アルフレッドは周囲を見る。


花屋。


パン屋。


飾り付け。


人々の笑顔。


そして。


「……盛り上がっているな」


「はい」


私は小さく頷いた。


「でも」


少し迷う。


「私なんかが、こんなに祝ってもらっていいのでしょうか」


ぽつり、と零れる。


すると。


アルフレッドが静かにこちらを見た。


「当然だ」


即答だった。


「お前がここまで来た」


低い声。


真っ直ぐな視線。


「誇れ」


胸が熱くなる。


私は少しだけ視線を逸らした。


「……ずるいです」


「何がだ」


「そういうことを平然と言うところです」


彼は少しだけ目を細める。


「事実だ」


またそれだ。


本当にずるい。


---


夕暮れ。


王都広場の噴水が、橙色の光に染まっていた。


風が吹く。


花飾りが揺れる。


遠くでは、子どもたちの笑い声。


私はその景色を見つめながら、小さく息を吐いた。


(……楽しみ)


少し前まで。


結婚式なんて、想像もできなかった。


でも今は。


こんなにもたくさんの人が、笑ってくれている。


その隣で。


アルフレッドが静かに立っていた。


「アメリア」


「はい」


「泣くなよ」


「まだ泣いていません」


「そのうち泣く」


否定できないのが悔しい。


私は思わず笑ってしまった。


こうして悪役令嬢は――


王都中の祝福に包まれながら、少しずつ“その日”へ近づいていくのだった。

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