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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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124/160

第124話 悪役令嬢、王子の“仕事の顔”を知ります

結婚式の日取りが決まってから数日後。


王宮は、目に見えて慌ただしくなっていた。


「招待状はこちらへ!」


「装花担当との打ち合わせは午後です!」


「警備計画書を至急!」


廊下を歩くだけで、次々と声が飛び交う。


私はその様子を見ながら、小さく息を吐いた。


(……本当に大変なんですね)


結婚式。


ただ綺麗なだけのイベントではない。


国を挙げて動く、一大行事なのだ。


---


その時。


「アメリア様」


エマが静かに声をかけた。


「殿下がお呼びです」


「……今ですか?」


「はい」


嫌な予感しかしない。


---


案内されたのは、王太子執務室だった。


扉を開く。


そこには――


大量の書類。


山積みになった資料。


地図。


進行表。


そして。


その中心で、アルフレッドが静かにペンを走らせていた。


「来たか」


顔を上げる。


その目には、いつもの穏やかさよりも鋭さがあった。


完全に“仕事の顔”だった。


---


「邪魔でしたか?」


小さく聞く。


すると。


「問題ない」


即答だった。


だが。


明らかに忙しい。


机には大量の書類。


読みかけの資料。


整理されてはいるが、明らかに仕事量がおかしい。


「……寝ていますか?」


思わず聞いてしまった。


すると。


アルフレッドが一瞬だけ視線を逸らす。


怪しい。


「寝ていますね?」


「少しは」


絶対少ない。


---


その時だった。


「相変わらずだな」


低く穏やかな声。


振り向く。


国王陛下だった。


「陛下!」


私は慌てて頭を下げる。


国王陛下は苦笑しながら机を見る。


そして、ふっと目を細めた。


「責任感が強すぎる男でな」


国王陛下は静かに息を吐き、アルフレッドを見つめた。


……少し分かる気がした。


「だが」


国王陛下が小さく笑う。


「少しは周囲を頼るようになった」


「え?」


「以前より、危なっかしくない」


胸が、少しだけ温かくなる。


私は思わずアルフレッドを見た。


だが本人は、何事もないように書類を閉じた。


「父上」


「何だ」


「もういいだろう」


国王陛下が楽しそうに笑う。


「図星か?」


「違う」


即答だった。


だが、ほんの少しだけ耳が赤い。


私は見逃さなかった。


---


その時。


「殿下」


文官が慌てた様子で入ってくる。


「式典警備の予算ですが――」


空気が変わった。


アルフレッドの視線が鋭くなる。


「何だ」


低い声。


さっきまでと違う。


完全に王太子の声だった。


「予算を超える可能性があります」


年配の文官が険しい顔で口を開く。


だが。


アルフレッドは一切表情を変えなかった。


「責任は私が持つ。進めろ」


低い声。


それだけで、空気が変わる。


文官たちは一瞬だけ顔を見合わせ――


そして。


「……承知しました!」


一斉に動き出した。


私は思わず息を呑む。


(すごい……)


ただ命令しているわけではない。


皆が、自然に従っている。


信頼されている。


それが伝わってきた。


---


「驚いたか」


気づけば、アルフレッドがこちらを見ていた。


「……少しだけ」


正直に答える。


「殿下って、本当に王太子なんですね」


「今さらだな」


少しだけ口元が緩む。


「厨房ではあまり見ない顔でした」


「見せる必要がなかった」


低い声。


でも。


その言葉は、どこか優しかった。


---


私は机の資料へ視線を向ける。


式典計画。


警備配置。


招待客一覧。


全部、細かい。


「……大変ですね」


ぽつりと零れる。


すると。


「だから、お前も手伝え」


当然のように言われた。


「え?」


「お前も既に、人を動かしている」


私は目を瞬かせる。


「炊き出し」


「孤児院」


「厨房」


「全部、お前が中心だ」


静かな声。


「それは、立派な力だ」


胸の奥が、じんわり熱くなる。


「……まだ全然です」


小さく返す。


すると。


「問題ない」


即答だった。


「だから、隣に立たせる」


その言葉に。


心臓が大きく跳ねた。


---


その時。


「失礼します!」


勢いよく扉が開いた。


「兄上ー!」


ルシアンだった。


「また仕事詰め込んでるって聞いた!」


「騒がしい」


「うわ、本当に山積み!」


ルシアンが机を見て顔を引きつらせる。


「これ終わるの?」


「終わらせる」


即答だった。


怖い。


---


ルシアンは私を見る。


「義姉上、止めてよ」


「誰が義姉上ですか」


反射的に返してしまう。


すると。


「いや、もうすぐ本当に義姉上だよね?」


「っ……!」


思い出してしまった。


私は一気に顔が熱くなる。


ルシアンが爆笑した。


「分かりやすっ!」


「うるさいです!」


その横で。


アルフレッドが少しだけ目を細めていた。


珍しく、どこか楽しそうだった。


---


執務室を出る頃には、すっかり夕方になっていた。


廊下へ出る。


窓の外は、茜色。


私は小さく息を吐いた。


(……すごいな)


アルフレッドは。


私が思っていた以上に。


ずっと大きなものを背負っている。


すると。


「何を考えている」


隣から低い声。


私は少しだけ笑った。


「……殿下って、すごい人なんだなって」


「今さらだな」


また同じ返事。


でも。


どこか少しだけ嬉しそうだった。


こうして悪役令嬢は――


王子の“仕事の顔”を知り、改めてその隣へ立つ覚悟を深めていくのだった。

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