第124話 悪役令嬢、王子の“仕事の顔”を知ります
結婚式の日取りが決まってから数日後。
王宮は、目に見えて慌ただしくなっていた。
「招待状はこちらへ!」
「装花担当との打ち合わせは午後です!」
「警備計画書を至急!」
廊下を歩くだけで、次々と声が飛び交う。
私はその様子を見ながら、小さく息を吐いた。
(……本当に大変なんですね)
結婚式。
ただ綺麗なだけのイベントではない。
国を挙げて動く、一大行事なのだ。
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その時。
「アメリア様」
エマが静かに声をかけた。
「殿下がお呼びです」
「……今ですか?」
「はい」
嫌な予感しかしない。
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案内されたのは、王太子執務室だった。
扉を開く。
そこには――
大量の書類。
山積みになった資料。
地図。
進行表。
そして。
その中心で、アルフレッドが静かにペンを走らせていた。
「来たか」
顔を上げる。
その目には、いつもの穏やかさよりも鋭さがあった。
完全に“仕事の顔”だった。
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「邪魔でしたか?」
小さく聞く。
すると。
「問題ない」
即答だった。
だが。
明らかに忙しい。
机には大量の書類。
読みかけの資料。
整理されてはいるが、明らかに仕事量がおかしい。
「……寝ていますか?」
思わず聞いてしまった。
すると。
アルフレッドが一瞬だけ視線を逸らす。
怪しい。
「寝ていますね?」
「少しは」
絶対少ない。
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その時だった。
「相変わらずだな」
低く穏やかな声。
振り向く。
国王陛下だった。
「陛下!」
私は慌てて頭を下げる。
国王陛下は苦笑しながら机を見る。
そして、ふっと目を細めた。
「責任感が強すぎる男でな」
国王陛下は静かに息を吐き、アルフレッドを見つめた。
……少し分かる気がした。
「だが」
国王陛下が小さく笑う。
「少しは周囲を頼るようになった」
「え?」
「以前より、危なっかしくない」
胸が、少しだけ温かくなる。
私は思わずアルフレッドを見た。
だが本人は、何事もないように書類を閉じた。
「父上」
「何だ」
「もういいだろう」
国王陛下が楽しそうに笑う。
「図星か?」
「違う」
即答だった。
だが、ほんの少しだけ耳が赤い。
私は見逃さなかった。
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その時。
「殿下」
文官が慌てた様子で入ってくる。
「式典警備の予算ですが――」
空気が変わった。
アルフレッドの視線が鋭くなる。
「何だ」
低い声。
さっきまでと違う。
完全に王太子の声だった。
「予算を超える可能性があります」
年配の文官が険しい顔で口を開く。
だが。
アルフレッドは一切表情を変えなかった。
「責任は私が持つ。進めろ」
低い声。
それだけで、空気が変わる。
文官たちは一瞬だけ顔を見合わせ――
そして。
「……承知しました!」
一斉に動き出した。
私は思わず息を呑む。
(すごい……)
ただ命令しているわけではない。
皆が、自然に従っている。
信頼されている。
それが伝わってきた。
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「驚いたか」
気づけば、アルフレッドがこちらを見ていた。
「……少しだけ」
正直に答える。
「殿下って、本当に王太子なんですね」
「今さらだな」
少しだけ口元が緩む。
「厨房ではあまり見ない顔でした」
「見せる必要がなかった」
低い声。
でも。
その言葉は、どこか優しかった。
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私は机の資料へ視線を向ける。
式典計画。
警備配置。
招待客一覧。
全部、細かい。
「……大変ですね」
ぽつりと零れる。
すると。
「だから、お前も手伝え」
当然のように言われた。
「え?」
「お前も既に、人を動かしている」
私は目を瞬かせる。
「炊き出し」
「孤児院」
「厨房」
「全部、お前が中心だ」
静かな声。
「それは、立派な力だ」
胸の奥が、じんわり熱くなる。
「……まだ全然です」
小さく返す。
すると。
「問題ない」
即答だった。
「だから、隣に立たせる」
その言葉に。
心臓が大きく跳ねた。
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その時。
「失礼します!」
勢いよく扉が開いた。
「兄上ー!」
ルシアンだった。
「また仕事詰め込んでるって聞いた!」
「騒がしい」
「うわ、本当に山積み!」
ルシアンが机を見て顔を引きつらせる。
「これ終わるの?」
「終わらせる」
即答だった。
怖い。
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ルシアンは私を見る。
「義姉上、止めてよ」
「誰が義姉上ですか」
反射的に返してしまう。
すると。
「いや、もうすぐ本当に義姉上だよね?」
「っ……!」
思い出してしまった。
私は一気に顔が熱くなる。
ルシアンが爆笑した。
「分かりやすっ!」
「うるさいです!」
その横で。
アルフレッドが少しだけ目を細めていた。
珍しく、どこか楽しそうだった。
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執務室を出る頃には、すっかり夕方になっていた。
廊下へ出る。
窓の外は、茜色。
私は小さく息を吐いた。
(……すごいな)
アルフレッドは。
私が思っていた以上に。
ずっと大きなものを背負っている。
すると。
「何を考えている」
隣から低い声。
私は少しだけ笑った。
「……殿下って、すごい人なんだなって」
「今さらだな」
また同じ返事。
でも。
どこか少しだけ嬉しそうだった。
こうして悪役令嬢は――
王子の“仕事の顔”を知り、改めてその隣へ立つ覚悟を深めていくのだった。




