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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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123/160

第123話 悪役令嬢、結婚式のドレスに震えます

結婚式の日取りが決まった翌日。


私は朝から落ち着かなかった。


「……まだ早いのでは?」


思わず呟く。


「何がですか?」


エマが即座に返した。


「全部です」


「却下です」


最近、本当に容赦がない。


---


そして現在。


私は王宮の一室へ連行されていた。


「本日は、ドレスの仮合わせです」


侍女がにこやかに告げる。


逃げたい。


今すぐ厨房へ戻りたい。


だが。


「却下です」


エマが先回りした。


なぜ分かったのだろう。


---


「では、仮合わせをしましょう」


気づけば私は別室へ連れて行かれ、プロの侍女たちの手によって数十分後、鏡の前で固まっていた。


「……私?」


そこにいたのは、純白というよりは、どこか焼き立てのお菓子を連想させるような、温かみのある淡いクリーム色のドレス姿の自分だった。


柔らかな刺繍。


胸元の小さな花。


まだ仮段階なのに、十分美しい。


「とてもお似合いです!」


侍女たちが嬉しそうに声を上げる。


私は思わず言葉を失った。


(……こんな綺麗なもの、着ていいのでしょうか)


胸が落ち着かない。


その時だった。


「まあ……!」


勢いよく扉が開いた。


「王妃様」


セレナ王妃が入ってくる。


そして。


私を見るなり、口元を押さえた。


「だめ」


「え?」


「可愛すぎるわ」


「王妃様!?」


王妃様は完全に興奮していた。


「これはアルフレッドが倒れるわね」


「倒れません」


低い声。


振り向く。


いつの間にか、アルフレッドが入口に立っていた。


「兄上来てる!」


後ろからルシアンまで顔を出す。


なぜ全員いるのだろう。


---


アルフレッドは数秒、何も言わなかった。


ただ静かにこちらを見る。


その視線に耐えきれず、私は思わず視線を逸らした。


「……変じゃないですか」


小さく聞く。


すると。


「綺麗だ」


即答だった。


空気が止まる。


ルシアンが吹き出した。


「兄上、早っ!」


「うるさい」


だが視線は私から外れない。


私は顔が一気に熱くなるのを感じた。


「そ、そういうのを平然と言わないでください……!」


「事実だ」


またそれだ。


本当にずるい。


---


王妃様は満足そうに頷いていた。


「やっぱりこの色で正解ねぇ」


「色?」


「ええ」


王妃様がドレスへ触れる。


柔らかなクリーム色。


どこか温かく、優しい色。


「アメリアさんらしいわねぇ」


王妃様が楽しそうに微笑む。


「見ているだけで、ほっとするもの」


ルシアンが笑った。


「あー、分かる!」


「兄上が好きそうな感じ!」


「ルシアン!」


「褒めてるって!」


だが。


少しだけ嬉しかった。


---


その時。


「……触れてもいいか」


低い声。


アルフレッドだった。


「え?」


彼は私の返事を待ち、そっとドレスの袖へ触れる。


本当に優しく。


壊れ物みたいに。


「柔らかいな」


「素材が良いそうです」


「そうか」


短いやり取り。


なのに。


心臓がうるさい。


近い。


近すぎる。


「赤いわねぇ」


王妃様が楽しそうに笑う。


「誰のせいでしょうねぇ?」


「母上」


アルフレッドが低く返す。


だが。


少しだけ耳が赤かった。


私は見逃さなかった。


---


「では次は、装飾ですね!」


侍女たちが次々動き始める。


髪飾り。


ベール。


手袋。


私は完全にされるがままだった。


「……結婚するんですね、私」


ぽつりと零れる。


すると。


隣から低い声。


「今さらだな」


アルフレッドだった。


私は少しだけ笑う。


「実感がなくて」


「なら」


彼は静かにこちらを見る。


「これから嫌でも実感する」


「怖いこと言わないでください」


だが。


その声はどこか穏やかだった。


---


仮合わせが終わった頃には、私は完全に疲れ切っていた。


「もう無理です……」


「まだ始まったばかりよ?」


王妃様が楽しそうに言う。


絶望しかない。


すると。


「……無理ではない」


アルフレッドが静かに言った。


「お前は似合っている」


また不意打ちだった。


私は顔を覆いたくなる。


「だからそういうことを平然と言わないでください!」


ルシアンが机を叩いて笑っていた。


「兄上、今日ずっとそればっか!」


王妃様まで肩を震わせている。


私はその場で消えたくなった。


こうして悪役令嬢は――


人生で一番綺麗な衣装に包まれながら、“花嫁になる日”を少しずつ実感していくのだった。

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