第123話 悪役令嬢、結婚式のドレスに震えます
結婚式の日取りが決まった翌日。
私は朝から落ち着かなかった。
「……まだ早いのでは?」
思わず呟く。
「何がですか?」
エマが即座に返した。
「全部です」
「却下です」
最近、本当に容赦がない。
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そして現在。
私は王宮の一室へ連行されていた。
「本日は、ドレスの仮合わせです」
侍女がにこやかに告げる。
逃げたい。
今すぐ厨房へ戻りたい。
だが。
「却下です」
エマが先回りした。
なぜ分かったのだろう。
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「では、仮合わせをしましょう」
気づけば私は別室へ連れて行かれ、プロの侍女たちの手によって数十分後、鏡の前で固まっていた。
「……私?」
そこにいたのは、純白というよりは、どこか焼き立てのお菓子を連想させるような、温かみのある淡いクリーム色のドレス姿の自分だった。
柔らかな刺繍。
胸元の小さな花。
まだ仮段階なのに、十分美しい。
「とてもお似合いです!」
侍女たちが嬉しそうに声を上げる。
私は思わず言葉を失った。
(……こんな綺麗なもの、着ていいのでしょうか)
胸が落ち着かない。
その時だった。
「まあ……!」
勢いよく扉が開いた。
「王妃様」
セレナ王妃が入ってくる。
そして。
私を見るなり、口元を押さえた。
「だめ」
「え?」
「可愛すぎるわ」
「王妃様!?」
王妃様は完全に興奮していた。
「これはアルフレッドが倒れるわね」
「倒れません」
低い声。
振り向く。
いつの間にか、アルフレッドが入口に立っていた。
「兄上来てる!」
後ろからルシアンまで顔を出す。
なぜ全員いるのだろう。
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アルフレッドは数秒、何も言わなかった。
ただ静かにこちらを見る。
その視線に耐えきれず、私は思わず視線を逸らした。
「……変じゃないですか」
小さく聞く。
すると。
「綺麗だ」
即答だった。
空気が止まる。
ルシアンが吹き出した。
「兄上、早っ!」
「うるさい」
だが視線は私から外れない。
私は顔が一気に熱くなるのを感じた。
「そ、そういうのを平然と言わないでください……!」
「事実だ」
またそれだ。
本当にずるい。
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王妃様は満足そうに頷いていた。
「やっぱりこの色で正解ねぇ」
「色?」
「ええ」
王妃様がドレスへ触れる。
柔らかなクリーム色。
どこか温かく、優しい色。
「アメリアさんらしいわねぇ」
王妃様が楽しそうに微笑む。
「見ているだけで、ほっとするもの」
ルシアンが笑った。
「あー、分かる!」
「兄上が好きそうな感じ!」
「ルシアン!」
「褒めてるって!」
だが。
少しだけ嬉しかった。
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その時。
「……触れてもいいか」
低い声。
アルフレッドだった。
「え?」
彼は私の返事を待ち、そっとドレスの袖へ触れる。
本当に優しく。
壊れ物みたいに。
「柔らかいな」
「素材が良いそうです」
「そうか」
短いやり取り。
なのに。
心臓がうるさい。
近い。
近すぎる。
「赤いわねぇ」
王妃様が楽しそうに笑う。
「誰のせいでしょうねぇ?」
「母上」
アルフレッドが低く返す。
だが。
少しだけ耳が赤かった。
私は見逃さなかった。
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「では次は、装飾ですね!」
侍女たちが次々動き始める。
髪飾り。
ベール。
手袋。
私は完全にされるがままだった。
「……結婚するんですね、私」
ぽつりと零れる。
すると。
隣から低い声。
「今さらだな」
アルフレッドだった。
私は少しだけ笑う。
「実感がなくて」
「なら」
彼は静かにこちらを見る。
「これから嫌でも実感する」
「怖いこと言わないでください」
だが。
その声はどこか穏やかだった。
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仮合わせが終わった頃には、私は完全に疲れ切っていた。
「もう無理です……」
「まだ始まったばかりよ?」
王妃様が楽しそうに言う。
絶望しかない。
すると。
「……無理ではない」
アルフレッドが静かに言った。
「お前は似合っている」
また不意打ちだった。
私は顔を覆いたくなる。
「だからそういうことを平然と言わないでください!」
ルシアンが机を叩いて笑っていた。
「兄上、今日ずっとそればっか!」
王妃様まで肩を震わせている。
私はその場で消えたくなった。
こうして悪役令嬢は――
人生で一番綺麗な衣装に包まれながら、“花嫁になる日”を少しずつ実感していくのだった。




