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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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118/160

第118話 悪役令嬢、貴族令嬢たちの視線を知ります

午後。


王宮の中庭には、柔らかな陽射しが差し込んでいた。


白いテーブル。


繊細なティーカップ。


焼き菓子の甘い香り。


王宮主催の小規模なお茶会である。


私は深く息を吐いた。


(……落ち着きましょう)


最近、こういう場が増えている。


未来の王子妃として、少しずつ顔を出す機会が増えているのだ。


「アメリア様、本日はよろしくお願いいたします」


令嬢の一人が微笑む。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


私は丁寧に頭を下げた。


以前より、空気はずっと柔らかい。


露骨に敵意を向けられることは減った。


だが――


だからといって、気が楽というわけではない。


貴族令嬢たちの視線は、相変わらず鋭い。


その時。


「最近、どこへ行ってもアメリア様のお話ばかりですのね」


穏やかな声。


けれど。


その奥にあるものは、決して穏やかではなかった。


私は静かに顔を上げる。


淡い紫のドレスを纏った令嬢が、にこやかに紅茶を口へ運んでいた。


「孤児院のお話も、とても評判ですし」


「厚焼き卵サンドでしたか?」


「皆さま、とても楽しそうに話していらっしゃるわ」


柔らかな口調。


でも。


周囲の空気が、少しだけ変わる。


(……来ましたね)


私は静かに微笑んだ。


「ありがとうございます」


短く返す。


すると令嬢は、少しだけ目を細めた。


「随分と愛想が良いのですね」


空気が止まる。


遠回しだが、十分すぎるほど伝わる言葉だった。


“誰にでも良い顔をしている”


そう言いたいのだ。


私は小さく息を吸う。


だが、その時だった。


「素敵なことではありませんか?」


別の令嬢が、穏やかに口を開いた。


「実際、孤児院の子どもたちは喜んでいたそうですし」


「ええ、私も聞きましたわ」


「王族の方が民へ目を向けてくださるのは、安心できますもの」


空気が変わった。


私は少し驚いて、その令嬢たちを見る。


以前なら。


誰も口を挟まなかった。


でも今は違う。


すると。


「結果を出している方を笑う理由が分かりませんわ」


静かな声が落ちた。


エレノアだった。


場の空気が、一瞬で引き締まる。


今日も完璧な姿勢。


完璧な笑顔。


そして、完璧な圧だった。


先ほどの令嬢が、わずかに顔を引きつらせる。


「べ、別に笑ってなど……」


「そうですの?」


エレノアは優雅に紅茶を置く。


「では、ただの嫌味でしたのね」


強い。


私は思わず瞬きをした。


周囲の令嬢たちが、慌てて咳払いをする。


先ほどの令嬢は完全に黙り込んでいた。


その時。


エレノアが静かにこちらを見る。


「アメリア様」


「はい」


「気にする必要はありませんわ」


その声は、以前よりずっと柔らかかった。


私は少しだけ笑う。


「ありがとうございます」


---


お茶会は、その後も続いた。


焼き菓子の話。


流行のドレスの話。


庭園の薔薇の話。


そして時折、


孤児院や王宮の話題も混ざる。


私は一つ一つ丁寧に言葉を返していった。


だが。


やはり緊張はする。


気を抜けない。


視線。


言葉。


空気。


その全部を感じながら会話を続けるのは、想像以上に疲れる。


ようやくお茶会が終わった頃には、


私はかなり神経を使い切っていた。


---


数時間後。


「……終わりました……」


廊下へ出た瞬間。


全身から力が抜ける。


「お疲れ様です」


エマが静かに横へ並ぶ。


「……疲れました」


「顔に出ております」


そんなにだろうか。


私は思わず頬へ触れた。


その時だった。


「随分と固い顔をしているな」


低い声。


振り向く。


アルフレッドだった。


「殿下」


彼は私を見るなり、小さく息を吐いた。


「また気を張りすぎたか」


「……少しだけです」


「嘘だな」


即答だった。


悔しい。


私は小さく視線を逸らす。


すると。


アルフレッドが一歩近づいた。


そして――


人差し指で、私の鼻先を軽く押す。


「っ!?」


思わず目を見開く。


「難しい顔だ」


低い声。


でも。


どこか楽しそうだった。


「な、何するんですか……!」


「戻った」


「え?」


「いつもの顔だ」


胸が、跳ねる。


私は一気に顔が熱くなった。


「殿下、ずるいです……」


「何がだ」


「そういうことを平然とするところです」


アルフレッドは少しだけ目を細めた。


「恋人だからな」


さらりと言う。


本当にずるい。


その時。


後ろから小さな笑い声が聞こえた。


振り向く。


エマだった。


珍しい。


ほんの少しだけ、口元が笑っている。


「……エマ?」


「失礼しました」


全然反省していない顔だった。


私は思わず額を押さえる。


するとアルフレッドが当然のように言った。


「行くぞ」


「どちらへですか」


「休憩だ」


「まだ仕事があります」


「その前に休め」


有無を言わせない声だった。


私は小さく息を吐く。


でも――


不思議と、少しだけ肩の力が抜けていた。


こうして悪役令嬢は――


貴族令嬢たちの視線を受けながらも、少しずつ自分の居場所を広げていくのだった。

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