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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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116/160

第116話 悪役令嬢、孤児院で厚焼き卵サンドを作ります

数日後。


私はいつものように厨房へ立っていた。


「次の仕込み、入ります!」


「野菜、こちらへ!」


活気のある声が飛び交う。


王宮の朝は早い。


私は焼き上がったパンを並べながら、小さく息を吐いた。


その時。


「納品です!」


明るい声と共に、食材を運ぶ商人たちが厨房へ入ってくる。


野菜。


果物。


乳製品。


そして、新鮮な卵。


料理長が確認を始める。


私はその横で帳簿を見ていた。


すると。


「……あの」


若い商人が、おずおずとこちらを見る。


「はい?」


「本当に、アメリア様なんですか?」


「え?」


突然の言葉に、私は目を瞬かせた。


商人は慌てて頭を下げる。


「す、すみません! 街で噂を聞いたので!」


「噂?」


別の商人が笑った。


「孤児院へ行かれた話ですよ」


「子どもたちに優しかったって、街でも有名です」


「厨房へ立ってる未来の王子妃様なんて、珍しいですからねぇ」


次々飛んでくる言葉に、私は固まった。


(なぜ広がっているのでしょう……)


料理長が横で吹き出す。


「そりゃ話題になるだろ」


「なりますか?」


「なる」


即答だった。


---


だが。


年配の商人が少し困ったように言う。


「もちろん、良く思わない貴族もいますがね」


空気が少しだけ変わる。


「“王族らしくない”とか」


「“厨房へ立つなんて”とか」


「色々言う方はおります」


私は静かに視線を落とした。


(……そうですよね)


分かっていた。


皆が好意的ではないことくらい。


その時だった。


「問題あるか?」


低い声。


空気が止まる。


振り向く。


アルフレッドだった。


いつの間に来たのか、


厨房入口へ立っている。


商人たちが一斉に姿勢を正した。


「で、殿下!」


アルフレッドはそのまま静かにこちらへ歩いてくる。


そして当然のように私の隣へ立った。


「王族らしくない、か」


低い声。


「なら聞くが」


静かな視線が商人たちへ向く。


「民を見ず、声も聞かず、ただ座っているだけが“王族らしい”なら」


一拍。


「そんなものに価値はない」


厨房が静まり返った。


アルフレッドは淡々と続ける。


「アメリアは、自分にできることをしているだけだ」


「それを否定する気はない」


静かな声。


でも。


誰より強かった。


---


私は思わず彼を見上げる。


アルフレッドは気づいたようにこちらを見る。


「気にするな」


短い言葉。


でも。


胸の奥がじんわり温かくなる。


「……はい」


小さく頷く。


すると。


「ですが!」


若い商人が勢いよく顔を上げた。


「俺たち、アメリア様のこと好きですよ!」


「そうそう!」


「子どもたちも、また来てほしいって言ってました!」


「うちの娘、“ああいうお姫様になりたい”って!」


一気に声が飛ぶ。


私は目を見開いた。


「え……」


料理長がにやにや笑う。


「人気者だな」


「やめてください……」


顔が熱い。


すると。


アルフレッドが少しだけ口元を上げた。


「当然だ」


「殿下まで!?」


商人たちが笑い出す。


さっきまでの重たい空気が、少しずつほどけていった。


---


その日の午後。


私は再び孤児院を訪れていた。


「アメリアおねえちゃん!」


子どもたちが一斉に駆け寄ってくる。


「また来てくれた!」


「今日は何するの!?」


元気な声。


私は思わず笑った。


「今日は、一緒に料理をしましょう」


「料理!?」


目が輝く。


可愛い。


---


厨房へ入る。


今日は孤児院の小さな厨房を借りていた。


並べたのは、


卵。


だし汁。


砂糖。


塩。


食パン。


そしてマヨネーズ・バター。


「今日は、厚焼き卵サンドを作ります」


「サンドイッチ!」


「わぁー!」


歓声が上がる。


---


「その前に」


私は子どもたちを見る。


「まず、手を洗いましょう」


「はーい!」


小さな子たちが、きゃっきゃと笑いながら水場へ向かう。


戻ってきた手を見て、


私は小さく頷いた。


「きれいですね」


すると。


子どもたちが少し誇らしそうに笑った。


---


私は卵を割り入れる。


「今日は少しだけ甘めにします」


だし汁。


砂糖。


そして塩は、ほんの少しだけ。


「塩は入れすぎると辛くなるので、少しです」


白身を切るように丁寧に混ぜる。


「わぁ……!」


子どもたちが覗き込む。


---


温めた卵焼き器へ卵液を流した。


じゅわっと音が広がる。


「すごい!」


「ふわふわ!」


半熟状になったところで、


崩さないよう静かにまとめていく。


食パンに合うよう、


四角く厚みを出したあと、


そっと返して反対側も焼く。


焼き上がった厚焼き卵は、


ふわふわで、少しだけ湯気を立てていた。


---


「パンに挟みます」


食パンへ薄くバターを塗る。


もう片面には、


辛子を入れないマヨネーズ。


子どもたち用だからだ。


厚焼き卵をそっとのせ、


もう一枚で優しく挟む。


そして。


耳を切り落として、食べやすいよう、四等分に切り分けた。


断面から、


ふわりと湯気が立ち上る。


「わぁぁ……!」


子どもたちの目が、一斉に輝いた。


---


「いただきます!」


小さな手が、一斉にサンドイッチを持つ。


「ふわふわ!」


「あったかい!」


「おいしいー!」


夢中で頬張る姿に、


私は思わず笑ってしまう。


その時だった。


「人気だな」


低い声。


振り向く。


アルフレッドだった。


「殿下!?」


なぜいるのだろう。


子どもたちが目を丸くする。


そして。


一人の小さな女の子が、


サンドイッチを差し出した。


「おにいちゃんも食べる?」


空気が止まる。


私は固まった。


アルフレッドも珍しく一瞬止まる。


だが。


「……もらおう」


普通に受け取った。


子どもたちが一斉に笑い出す。


「食べた!」


「王子さまだ!」


「すごーい!」


アルフレッドは静かに厚焼き卵サンドを口へ運ぶ。


そして。


「……美味いな」


小さく呟いた。


私は思わず笑う。


「出来たてですから」


すると。


アルフレッドがこちらを見る。


「優しい味だな」


その一言に、


胸の奥が少しだけ温かくなる。


---


賑やかな声。


笑顔。


温かな空気。


私はその中心で、小さく息を吐く。


(……やっぱり、好きです)


こういう時間が。


こうして悪役令嬢は――


孤児院の子どもたちと一緒に、温かな時間を作っていくのだった。

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