第115話 悪役令嬢、王子に甘やかされます
「私がいなければ」
小さく呟く。
「傷つかなかった人もいたのかなって……」
その瞬間。
「アメリア」
低い声。
顔を上げる。
すると。
アルフレッドの両手が、そっと私の頬を挟んだ。
「っ……!?」
逃げられない。
真正面から視線がぶつかる。
「そんな顔をするな」
低く、真っ直ぐな声。
「お前は何も間違っていない」
胸が、どくんと跳ねた。
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「で、ですが……」
「考えすぎだ」
アルフレッドは少しだけ眉を寄せる。
「他人の痛みを気にするのは、お前の優しさだ」
「だが」
一拍。
「自分を責める理由にはならない」
私はしばらく何も言えなかった。
ただ。
胸の奥に張り付いていたものが、
少しずつ溶けていく気がした。
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その時。
ぐぅ……。
「…………」
静寂。
アルフレッドが無言でこちらを見る。
私は固まった。
「……聞かないでください」
「夕食前だったな」
少しだけ口元が緩んでいる。
笑っている。
「違います」
「何がだ」
「今のは違います」
「そうか」
絶対面白がっている。
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すると。
アルフレッドが静かに立ち上がった。
「来い」
「今度はどこですか」
「厨房だ」
「……はい?」
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数分後。
厨房へ入った瞬間、
料理長が目を丸くした。
「おや」
その視線が、
私とアルフレッドを順番に見る。
完全に察している顔だった。
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「……疲れた時は、甘いもんだな」
料理長が小さく笑う。
そして。
しばらくして運ばれてきたのは、
小さなカスタードプリンだった。
やわらかな黄色。
つやりと光る表面。
優しい甘い香りがふわりと広がる。
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隣には、湯気の立つハーブティー。
「カモミールです」
エマが静かに言った。
「気持ちが落ち着きますので」
ふわりと優しい香りが広がる。
それだけで、
少し肩の力が抜ける気がした。
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「食え」
アルフレッドが当然みたいに言う。
「……子どもではありません」
「顔色が悪い」
即答だった。
反論できない。
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私は小さくスプーンを入れる。
とろり。
柔らかい。
口へ運ぶと、
卵とミルクの優しい甘さが広がった。
「……おいしい」
思わず声が漏れる。
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「だろう」
なぜかアルフレッドが少し得意そうだった。
「殿下が作ったわけではありませんよね?」
「だが、お前に食わせたのは私だ」
理屈が強い。
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料理長が吹き出す。
「はいはい、ごちそうさん」
「違います!」
「何がだ」
アルフレッドは真顔だった。
ずるい。
本当にずるい。
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私はもう一口、プリンを食べる。
甘い。
温かい香り。
静かな厨房。
さっきまで胸を締めつけていたものが、
少しずつほどけていく。
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「少し顔色が戻ったな」
低い声。
私は小さく笑った。
「甘いものって、すごいですね……」
すると。
アルフレッドが静かにこちらを見る。
「違うな」
「え?」
「お前が、ちゃんと休めたからだ」
胸が、じんわり熱くなる。
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その時。
ふと、アルフレッドの視線が私の手元へ向いた。
「それ」
先日、孤児院の女の子にもらった小さな花。
傷まないよう、エマが小さな押し花にしてくれていた。
私はそれを、栞代わりに手帳へ挟んでいる。
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「まだ持っていたのか」
「……大事なので」
小さく答える。
すると。
アルフレッドは少しだけ目を細めた。
「お前らしいな」
優しい声だった。
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私はカモミールティーを一口飲む。
柔らかな香りが、静かに広がる。
怖いこともある。
傷つくこともある。
でも。
こうして、
疲れた時に隣で支えてくれる人がいる。
それが、こんなにも温かいなんて。
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「アメリア」
「はい」
「無理はするな」
「……はい」
「だが」
まただ。
私は少し笑ってしまう。
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「止まるな、ですか?」
すると。
アルフレッドは珍しく少しだけ笑った。
「分かってきたな」
悔しい。
でも。
少し嬉しかった。
こうして悪役令嬢は――
王子に甘やかされながら、
少しずつ前へ進んでいくのだった。




