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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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115/160

第115話 悪役令嬢、王子に甘やかされます

「私がいなければ」


小さく呟く。


「傷つかなかった人もいたのかなって……」


その瞬間。


「アメリア」


低い声。


顔を上げる。


すると。


アルフレッドの両手が、そっと私の頬を挟んだ。


「っ……!?」


逃げられない。


真正面から視線がぶつかる。


「そんな顔をするな」


低く、真っ直ぐな声。


「お前は何も間違っていない」


胸が、どくんと跳ねた。


---


「で、ですが……」


「考えすぎだ」


アルフレッドは少しだけ眉を寄せる。


「他人の痛みを気にするのは、お前の優しさだ」


「だが」


一拍。


「自分を責める理由にはならない」


私はしばらく何も言えなかった。


ただ。


胸の奥に張り付いていたものが、


少しずつ溶けていく気がした。


---


その時。


ぐぅ……。


「…………」


静寂。


アルフレッドが無言でこちらを見る。


私は固まった。


「……聞かないでください」


「夕食前だったな」


少しだけ口元が緩んでいる。


笑っている。


「違います」


「何がだ」


「今のは違います」


「そうか」


絶対面白がっている。


---


すると。


アルフレッドが静かに立ち上がった。


「来い」


「今度はどこですか」


「厨房だ」


「……はい?」


---


数分後。


厨房へ入った瞬間、


料理長が目を丸くした。


「おや」


その視線が、


私とアルフレッドを順番に見る。


完全に察している顔だった。


---


「……疲れた時は、甘いもんだな」


料理長が小さく笑う。


そして。


しばらくして運ばれてきたのは、


小さなカスタードプリンだった。


やわらかな黄色。


つやりと光る表面。


優しい甘い香りがふわりと広がる。


---


隣には、湯気の立つハーブティー。


「カモミールです」


エマが静かに言った。


「気持ちが落ち着きますので」


ふわりと優しい香りが広がる。


それだけで、


少し肩の力が抜ける気がした。


---


「食え」


アルフレッドが当然みたいに言う。


「……子どもではありません」


「顔色が悪い」


即答だった。


反論できない。


---


私は小さくスプーンを入れる。


とろり。


柔らかい。


口へ運ぶと、


卵とミルクの優しい甘さが広がった。


「……おいしい」


思わず声が漏れる。


---


「だろう」


なぜかアルフレッドが少し得意そうだった。


「殿下が作ったわけではありませんよね?」


「だが、お前に食わせたのは私だ」


理屈が強い。


---


料理長が吹き出す。


「はいはい、ごちそうさん」


「違います!」


「何がだ」


アルフレッドは真顔だった。


ずるい。


本当にずるい。


---


私はもう一口、プリンを食べる。


甘い。


温かい香り。


静かな厨房。


さっきまで胸を締めつけていたものが、


少しずつほどけていく。


---


「少し顔色が戻ったな」


低い声。


私は小さく笑った。


「甘いものって、すごいですね……」


すると。


アルフレッドが静かにこちらを見る。


「違うな」


「え?」


「お前が、ちゃんと休めたからだ」


胸が、じんわり熱くなる。


---


その時。


ふと、アルフレッドの視線が私の手元へ向いた。


「それ」


先日、孤児院の女の子にもらった小さな花。


傷まないよう、エマが小さな押し花にしてくれていた。


私はそれを、栞代わりに手帳へ挟んでいる。


---


「まだ持っていたのか」


「……大事なので」


小さく答える。


すると。


アルフレッドは少しだけ目を細めた。


「お前らしいな」


優しい声だった。


---


私はカモミールティーを一口飲む。


柔らかな香りが、静かに広がる。


怖いこともある。


傷つくこともある。


でも。


こうして、


疲れた時に隣で支えてくれる人がいる。


それが、こんなにも温かいなんて。


---


「アメリア」


「はい」


「無理はするな」


「……はい」


「だが」


まただ。


私は少し笑ってしまう。


---


「止まるな、ですか?」


すると。


アルフレッドは珍しく少しだけ笑った。


「分かってきたな」


悔しい。


でも。


少し嬉しかった。


こうして悪役令嬢は――


王子に甘やかされながら、


少しずつ前へ進んでいくのだった。

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