第114話 悪役令嬢、初めて嫉妬されます
お茶会から数日後。
王宮の空気は、少しだけ変わっていた。
「アメリア様、この前のお茶会、とても素敵だったそうですね!」
「“話しやすかった”って令嬢方が噂してました!」
見習いたちが嬉しそうに話している。
私は困ったように笑った。
「そんな大したことでは……」
「あります!」
即答だった。
最近、周囲が妙に優しい。
(……不思議)
少し前までは、
“元悪役令嬢”
“厨房へ立つ変わり者”
そんな視線ばかりだったのに。
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その日の午後。
私は王妃様に呼ばれ、王宮の温室へ向かっていた。
柔らかな陽射し。
花の香り。
静かな空間。
そこには既に、数名の令嬢たちが集まっていた。
小規模なお茶会らしい。
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「アメリア様」
「こんにちは」
以前のお茶会で会った令嬢たちが、柔らかく微笑む。
少しだけ緊張が解けた。
(よかった……)
だが。
その時だった。
「……随分と人気者ですのね」
静かな声。
空気が変わる。
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振り向く。
一人の令嬢が立っていた。
淡い金色の髪。
整った顔立ち。
だが、その瞳は冷たい。
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「リディア・エヴァンズ様……」
誰かが小さく呟く。
彼女はゆっくりとこちらを見た。
「歓迎晩餐会も、お茶会も」
「最近はどこへ行っても、あなたの話ばかり」
穏やかな声。
でも。
どこか刺があった。
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「……恐縮です」
私は静かに頭を下げる。
すると。
彼女は少しだけ笑った。
「羨ましいですわ」
その笑顔が、妙に寂しそうだった。
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「私はずっと」
小さな声。
「子どもの頃から、アルフレッド殿下に憧れておりましたの」
空気が止まる。
誰も口を挟まない。
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「剣も、学問も、立ち振る舞いも完璧で」
「誰にも特別な興味を示さない方でした」
その瞳が、まっすぐ私を見る。
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「だからこそ」
「いつか、あの方の隣へ立てる女性になりたいと」
「ずっと努力してきました」
胸が、少しだけ痛んだ。
その気持ちは、本物だ。
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「ですが」
彼女は小さく笑う。
「突然現れたあなたが、全部持っていってしまった」
その瞬間。
空気が張り詰めた。
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「リディア様……」
誰かが止めようとする。
だが。
彼女は静かに続けた。
「皆に優しくして」
「いい顔をして」
「それで殿下に選ばれたのですか?」
鋭い言葉。
胸へ刺さる。
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私は少しだけ視線を落とした。
そして。
静かに答える。
「……違います」
顔を上げる。
「私は、そんな立派なものではありません」
「今でも必死です」
本当に。
毎日、余裕なんてない。
失敗して。
悩んで。
怖がって。
それでも、前へ進んでいるだけだ。
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数秒の沈黙。
そして。
「失礼ですわ」
凛とした声が響いた。
エレノアだった。
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「アメリア様は、誰かを押しのけてここへ来たわけではありません」
静かな声。
でも力強い。
「実際に見れば分かるはずです」
「この方が、どれだけ人を見て、考え、動いているか」
周囲の令嬢たちも、小さく頷いていた。
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「この前も、私の体調にすぐ気づいてくださいました」
「孤児院でも尽力されたと聞いています」
「王妃様も認めておられますわ」
少しずつ。
空気が変わっていく。
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リディアは、しばらく黙っていた。
やがて。
ふっと視線を伏せる。
「……ずるいですわね」
その声は、
怒りというより。
長い恋を終わらせるような響きだった。
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「私は、殿下へ近づくことすらできませんでしたのに」
胸が締めつけられる。
嬉しくない。
勝ったとも思えない。
ただ。
苦しかった。
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その帰り道。
私は少し俯きながら廊下を歩いていた。
すると。
「浮かない顔だな」
低い声。
振り向く。
アルフレッドだった。
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「……殿下」
彼はすぐ隣まで来る。
そして。
静かに私を見る。
「何があった」
隠せる気がしなかった。
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「……リディア様に会いました」
その名前だけで、
アルフレッドは少しだけ目を細めた。
「そうか」
短い返事。
でも。
何か分かっている顔だった。
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「私は」
小さく呟く。
「誰かの願いを壊してしまったのでしょうか」
その瞬間。
アルフレッドの手が、そっと私の頭へ触れた。
よしよしと、優しく撫でられる。
「違う」
低い声。
迷いのない声だった。
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「お前は何も奪っていない」
胸が、少しだけ熱くなる。
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「私が選んだだけだ」
真っ直ぐな声。
逃げ場がないくらい、まっすぐだった。
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「……ですが」
「気にするな」
即答だった。
「お前がどう見られようと」
一拍。
「私が選ぶ相手は変わらない」
心臓が、大きく跳ねる。
ずるい。
本当に。
ずるい人だ。
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「……そういう顔で言わないでください」
思わず視線を逸らす。
すると。
アルフレッドが、少しだけ笑った。
珍しく柔らかい笑みだった。
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「来い」
「どこへですか」
「少し休む」
また有無を言わせない。
でも。
その声は、優しかった。
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並んで歩く。
少しだけ触れた手が、温かい。
私は小さく息を吐いた。
胸の痛みは、まだ少し残っている。
でも。
隣にいる人の温度が、
それをゆっくり溶かしていく気がした。
こうして悪役令嬢は――
初めて向けられた嫉妬と向き合いながら、
少しずつ、社交界の中で居場所を作っていくのだった。




