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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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114/160

第114話 悪役令嬢、初めて嫉妬されます

お茶会から数日後。


王宮の空気は、少しだけ変わっていた。


「アメリア様、この前のお茶会、とても素敵だったそうですね!」


「“話しやすかった”って令嬢方が噂してました!」


見習いたちが嬉しそうに話している。


私は困ったように笑った。


「そんな大したことでは……」


「あります!」


即答だった。


最近、周囲が妙に優しい。


(……不思議)


少し前までは、


“元悪役令嬢”


“厨房へ立つ変わり者”


そんな視線ばかりだったのに。


---


その日の午後。


私は王妃様に呼ばれ、王宮の温室へ向かっていた。


柔らかな陽射し。


花の香り。


静かな空間。


そこには既に、数名の令嬢たちが集まっていた。


小規模なお茶会らしい。


---


「アメリア様」


「こんにちは」


以前のお茶会で会った令嬢たちが、柔らかく微笑む。


少しだけ緊張が解けた。


(よかった……)


だが。


その時だった。


「……随分と人気者ですのね」


静かな声。


空気が変わる。


---


振り向く。


一人の令嬢が立っていた。


淡い金色の髪。


整った顔立ち。


だが、その瞳は冷たい。


---


「リディア・エヴァンズ様……」


誰かが小さく呟く。


彼女はゆっくりとこちらを見た。


「歓迎晩餐会も、お茶会も」


「最近はどこへ行っても、あなたの話ばかり」


穏やかな声。


でも。


どこか刺があった。


---


「……恐縮です」


私は静かに頭を下げる。


すると。


彼女は少しだけ笑った。


「羨ましいですわ」


その笑顔が、妙に寂しそうだった。


---


「私はずっと」


小さな声。


「子どもの頃から、アルフレッド殿下に憧れておりましたの」


空気が止まる。


誰も口を挟まない。


---


「剣も、学問も、立ち振る舞いも完璧で」


「誰にも特別な興味を示さない方でした」


その瞳が、まっすぐ私を見る。


---


「だからこそ」


「いつか、あの方の隣へ立てる女性になりたいと」


「ずっと努力してきました」


胸が、少しだけ痛んだ。


その気持ちは、本物だ。


---


「ですが」


彼女は小さく笑う。


「突然現れたあなたが、全部持っていってしまった」


その瞬間。


空気が張り詰めた。


---


「リディア様……」


誰かが止めようとする。


だが。


彼女は静かに続けた。


「皆に優しくして」


「いい顔をして」


「それで殿下に選ばれたのですか?」


鋭い言葉。


胸へ刺さる。


---


私は少しだけ視線を落とした。


そして。


静かに答える。


「……違います」


顔を上げる。


「私は、そんな立派なものではありません」


「今でも必死です」


本当に。


毎日、余裕なんてない。


失敗して。


悩んで。


怖がって。


それでも、前へ進んでいるだけだ。


---


数秒の沈黙。


そして。


「失礼ですわ」


凛とした声が響いた。


エレノアだった。


---


「アメリア様は、誰かを押しのけてここへ来たわけではありません」


静かな声。


でも力強い。


「実際に見れば分かるはずです」


「この方が、どれだけ人を見て、考え、動いているか」


周囲の令嬢たちも、小さく頷いていた。


---


「この前も、私の体調にすぐ気づいてくださいました」


「孤児院でも尽力されたと聞いています」


「王妃様も認めておられますわ」


少しずつ。


空気が変わっていく。


---


リディアは、しばらく黙っていた。


やがて。


ふっと視線を伏せる。


「……ずるいですわね」


その声は、


怒りというより。


長い恋を終わらせるような響きだった。


---


「私は、殿下へ近づくことすらできませんでしたのに」


胸が締めつけられる。


嬉しくない。


勝ったとも思えない。


ただ。


苦しかった。


---


その帰り道。


私は少し俯きながら廊下を歩いていた。


すると。


「浮かない顔だな」


低い声。


振り向く。


アルフレッドだった。


---


「……殿下」


彼はすぐ隣まで来る。


そして。


静かに私を見る。


「何があった」


隠せる気がしなかった。


---


「……リディア様に会いました」


その名前だけで、


アルフレッドは少しだけ目を細めた。


「そうか」


短い返事。


でも。


何か分かっている顔だった。


---


「私は」


小さく呟く。


「誰かの願いを壊してしまったのでしょうか」


その瞬間。


アルフレッドの手が、そっと私の頭へ触れた。


よしよしと、優しく撫でられる。


「違う」


低い声。


迷いのない声だった。


---


「お前は何も奪っていない」


胸が、少しだけ熱くなる。


---


「私が選んだだけだ」


真っ直ぐな声。


逃げ場がないくらい、まっすぐだった。


---


「……ですが」


「気にするな」


即答だった。


「お前がどう見られようと」


一拍。


「私が選ぶ相手は変わらない」


心臓が、大きく跳ねる。


ずるい。


本当に。


ずるい人だ。


---


「……そういう顔で言わないでください」


思わず視線を逸らす。


すると。


アルフレッドが、少しだけ笑った。


珍しく柔らかい笑みだった。


---


「来い」


「どこへですか」


「少し休む」


また有無を言わせない。


でも。


その声は、優しかった。


---


並んで歩く。


少しだけ触れた手が、温かい。


私は小さく息を吐いた。


胸の痛みは、まだ少し残っている。


でも。


隣にいる人の温度が、


それをゆっくり溶かしていく気がした。


こうして悪役令嬢は――


初めて向けられた嫉妬と向き合いながら、


少しずつ、社交界の中で居場所を作っていくのだった。

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