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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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113/160

第113話 悪役令嬢、令嬢たちのお茶会で味方を増やします

扉の向こうは、まるで別世界だった。


柔らかな花の香り。


色とりどりのドレス。


磨き上げられた銀食器。


そして――


令嬢たちの視線。


(……すごい)


私は思わず背筋を伸ばした。


静かだ。


なのに、緊張感がある。


誰もが笑顔なのに、


その奥で互いを観察している。


まるで社交界専用の戦場だった。


---


「ようこそ」


主催役の令嬢が微笑む。


完璧な笑顔。


隙がない。


「本日はお越しいただきありがとうございます、アメリア様」


「こちらこそ、お招きいただき光栄です」


なんとか笑顔を返す。


(合ってますよね?)


不安しかない。


---


「まあ、本当に厨房へ立っていらっしゃるのですね」


別の令嬢が興味深そうに言った。


「ええ」


「驚きましたわ。婚約者でありながら、自ら料理をなさるなんて」


柔らかな声。


でも。


探るような響きだった。


---


「随分と珍しいご趣味ですこと」


「王宮では前例がありませんわね」


ひそひそ。


小さな笑い。


(来ましたね……)


私は内心で小さく息を吐く。


すると。


「ですが」


静かな声が割って入った。


エレノアだった。


「歓迎晩餐会では、使節団の方々が非常に喜ばれていましたわ」


空気が少し変わる。


令嬢たちの視線が動いた。


---


「“食事で疲れが取れた”とまで仰っていたとか」


「まあ……」


「本当ですの?」


ざわめきが広がる。


エレノアは涼しい顔だった。


「ええ。王妃様も高く評価なさっていました」


強い。


ものすごく強い。


---


「……ありがとうございます」


小声で言うと、


エレノアは視線だけこちらへ向けた。


「後で感謝なさい」


助けてくれている。


なのに言い方は厳しい。


でも。


少しだけ嬉しかった。


---


その時だった。


「アメリア様」


小さな声。


振り向く。


淡い桃色のドレスを着た令嬢が立っていた。


「はい?」


「その……」


彼女は少し迷ってから、


そっとお腹を押さえた。


「歓迎晩餐会のお料理、とても美味しかったです」


「ですが、私……緊張すると食事が入らなくて」


(……あ)


私は小さく目を見開く。


紅茶がほとんど減っていない。


顔色も少し悪い。


無理して笑っている。


---


「こちらのお菓子、甘さが控えめですよ」


私は自然に皿を勧めた。


「柑橘を使っているので、食べやすいと思います」


「え……」


「あと、紅茶は少し冷めた方が飲みやすいです」


その令嬢は、驚いたように私を見た。


そして。


小さく笑った。


「……本当だわ」


ほっとしたような顔だった。


---


その様子を見ていた別の令嬢が、少し目を丸くする。


「随分お詳しいのですね」


探るような声。


だが。


私は素直に答えた。


「厨房で、よく見ていたので」


「体調が悪い方は、食べ方や飲み方が少し変わるんです」


数秒の沈黙。


そして。


「……なるほど」


今度は、嫌味ではなかった。


---


「よく見ていらっしゃるのですね」


「だから孤児院でも、すぐに気づかれたのかしら」


「まあ……」


空気が、少しずつ変わっていく。


(……あれ?)


最初より、柔らかい。


---


「アメリア様」


先ほどの令嬢が、小さく頭を下げた。


「ありがとうございます」


「いえ」


「……また、お話したいです」


その一言に。


周囲の空気が、少しだけ和らいだ。


---


エレノアが静かに紅茶を口へ運ぶ。


そして。


「どうやら」


小さく呟いた。


「余計な心配だったようですわね」


「え?」


「あなた、思った以上に社交向きですわ」


「そ、そんなことありません!」


即答すると、


エレノアは少しだけ笑った。


珍しく、柔らかい笑顔だった。


---


数時間後。


「……終わった……」


お茶会を終え、廊下へ出た瞬間。


全身から力が抜ける。


「もう無理です……」


思わず壁へ寄りかかった、その時。


「お疲れ様です」


低い声。


顔を上げる。


アルフレッドだった。


「……殿下?」


なぜいるのだろう。


そう思った次の瞬間。


アルフレッドがわずかに目を細めた。


「よく頑張ったな」


低く、優しい声だった。


そのまま。


よしよしと、頭を撫でられる。


「……!」


胸が、どくんと跳ねた。


「こ、子ども扱いしないでください」


「褒めている」


即答だった。


ずるい。


本当にずるい。


---


「……見ていたんですか」


「令嬢の輪へ入る時、震えていただろう」


「見ないでください!」


「無理だ」


少しだけ楽しそうな声。


珍しい。


---


「だが」


彼は静かに続ける。


「逃げなかった」


胸が、じんわり熱くなる。


「立派だった」


その言葉に。


私はようやく、少しだけ肩の力を抜いた。


「……ありがとうございます」


小さく答えると、


アルフレッドは、もう一度だけ優しく頭を撫でた。


こうして悪役令嬢は――


令嬢たちのお茶会で、少しずつ味方を増やしていくのだった。

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