第113話 悪役令嬢、令嬢たちのお茶会で味方を増やします
扉の向こうは、まるで別世界だった。
柔らかな花の香り。
色とりどりのドレス。
磨き上げられた銀食器。
そして――
令嬢たちの視線。
(……すごい)
私は思わず背筋を伸ばした。
静かだ。
なのに、緊張感がある。
誰もが笑顔なのに、
その奥で互いを観察している。
まるで社交界専用の戦場だった。
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「ようこそ」
主催役の令嬢が微笑む。
完璧な笑顔。
隙がない。
「本日はお越しいただきありがとうございます、アメリア様」
「こちらこそ、お招きいただき光栄です」
なんとか笑顔を返す。
(合ってますよね?)
不安しかない。
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「まあ、本当に厨房へ立っていらっしゃるのですね」
別の令嬢が興味深そうに言った。
「ええ」
「驚きましたわ。婚約者でありながら、自ら料理をなさるなんて」
柔らかな声。
でも。
探るような響きだった。
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「随分と珍しいご趣味ですこと」
「王宮では前例がありませんわね」
ひそひそ。
小さな笑い。
(来ましたね……)
私は内心で小さく息を吐く。
すると。
「ですが」
静かな声が割って入った。
エレノアだった。
「歓迎晩餐会では、使節団の方々が非常に喜ばれていましたわ」
空気が少し変わる。
令嬢たちの視線が動いた。
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「“食事で疲れが取れた”とまで仰っていたとか」
「まあ……」
「本当ですの?」
ざわめきが広がる。
エレノアは涼しい顔だった。
「ええ。王妃様も高く評価なさっていました」
強い。
ものすごく強い。
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「……ありがとうございます」
小声で言うと、
エレノアは視線だけこちらへ向けた。
「後で感謝なさい」
助けてくれている。
なのに言い方は厳しい。
でも。
少しだけ嬉しかった。
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その時だった。
「アメリア様」
小さな声。
振り向く。
淡い桃色のドレスを着た令嬢が立っていた。
「はい?」
「その……」
彼女は少し迷ってから、
そっとお腹を押さえた。
「歓迎晩餐会のお料理、とても美味しかったです」
「ですが、私……緊張すると食事が入らなくて」
(……あ)
私は小さく目を見開く。
紅茶がほとんど減っていない。
顔色も少し悪い。
無理して笑っている。
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「こちらのお菓子、甘さが控えめですよ」
私は自然に皿を勧めた。
「柑橘を使っているので、食べやすいと思います」
「え……」
「あと、紅茶は少し冷めた方が飲みやすいです」
その令嬢は、驚いたように私を見た。
そして。
小さく笑った。
「……本当だわ」
ほっとしたような顔だった。
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その様子を見ていた別の令嬢が、少し目を丸くする。
「随分お詳しいのですね」
探るような声。
だが。
私は素直に答えた。
「厨房で、よく見ていたので」
「体調が悪い方は、食べ方や飲み方が少し変わるんです」
数秒の沈黙。
そして。
「……なるほど」
今度は、嫌味ではなかった。
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「よく見ていらっしゃるのですね」
「だから孤児院でも、すぐに気づかれたのかしら」
「まあ……」
空気が、少しずつ変わっていく。
(……あれ?)
最初より、柔らかい。
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「アメリア様」
先ほどの令嬢が、小さく頭を下げた。
「ありがとうございます」
「いえ」
「……また、お話したいです」
その一言に。
周囲の空気が、少しだけ和らいだ。
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エレノアが静かに紅茶を口へ運ぶ。
そして。
「どうやら」
小さく呟いた。
「余計な心配だったようですわね」
「え?」
「あなた、思った以上に社交向きですわ」
「そ、そんなことありません!」
即答すると、
エレノアは少しだけ笑った。
珍しく、柔らかい笑顔だった。
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数時間後。
「……終わった……」
お茶会を終え、廊下へ出た瞬間。
全身から力が抜ける。
「もう無理です……」
思わず壁へ寄りかかった、その時。
「お疲れ様です」
低い声。
顔を上げる。
アルフレッドだった。
「……殿下?」
なぜいるのだろう。
そう思った次の瞬間。
アルフレッドがわずかに目を細めた。
「よく頑張ったな」
低く、優しい声だった。
そのまま。
よしよしと、頭を撫でられる。
「……!」
胸が、どくんと跳ねた。
「こ、子ども扱いしないでください」
「褒めている」
即答だった。
ずるい。
本当にずるい。
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「……見ていたんですか」
「令嬢の輪へ入る時、震えていただろう」
「見ないでください!」
「無理だ」
少しだけ楽しそうな声。
珍しい。
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「だが」
彼は静かに続ける。
「逃げなかった」
胸が、じんわり熱くなる。
「立派だった」
その言葉に。
私はようやく、少しだけ肩の力を抜いた。
「……ありがとうございます」
小さく答えると、
アルフレッドは、もう一度だけ優しく頭を撫でた。
こうして悪役令嬢は――
令嬢たちのお茶会で、少しずつ味方を増やしていくのだった。




