第112話 悪役令嬢、令嬢たちのお茶会へ向かいます
歓迎晩餐会の翌日。
王宮の中は、朝から妙に騒がしかった。
「使節団の方々、かなり満足されていたそうです!」
「“休める食事”だと絶賛されたとか!」
厨房の見習いたちまで嬉しそうである。
私は少し困ったように笑った。
「皆さん、大げさです」
「大げさじゃありません!」
料理長まで腕を組んで頷いている。
「王宮料理であんな反応、久々に見たぞ」
(そうなのでしょうか……)
私は少しだけ視線を落とした。
確かに、喜んでもらえたのは嬉しい。
でも。
「……随分と騒がれておりますわね」
静かな声。
振り向く。
エレノアだった。
今日も完璧な姿勢で立っている。
「エレノア様」
「おめでとうございます、と申し上げるべきかしら」
その声は穏やかだった。
だが。
どこか、周囲を警戒しているようでもあった。
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「何かありましたか?」
私が尋ねると、
エレノアは小さく息を吐いた。
「……あなた、本当に自覚がありませんのね」
「え?」
「今、社交界ではあなたの話題で持ちきりです」
嫌な予感しかしない。
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エレノアは静かに続ける。
「もちろん、好意的な声も多いですわ」
「ですが――」
一拍。
「面白く思わない方々もおります」
(やっぱり……)
私は小さく視線を落とした。
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「“庶民的すぎる”」
「“王宮らしい華やかさがない”」
「“偶然当たっただけ”」
淡々と並べられる言葉。
胸が少しだけ痛む。
でも。
不思議と、そこまで驚かなかった。
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「……そうですよね」
小さく呟く。
すると。
エレノアが少しだけ目を細めた。
「怖くありませんの?」
「怖いです」
正直に答える。
「ですが」
私は少し考えてから続けた。
「喜んでくださった方もいたので」
「なら、頑張りたいです」
数秒の沈黙。
そして。
エレノアは、ふっと笑った。
「本当に変わった方ですわね」
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その時だった。
「アメリア様」
エマが静かに近づいてくる。
「王妃様よりお呼びです」
嫌な予感しかしない。
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案内されたのは、王妃様の私室。
セレナ王妃は、優雅に紅茶を飲んでいた。
「来たわね」
「お呼びでしょうか」
「ええ」
王妃様は楽しそうに笑う。
絶対に嫌な話だ。
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「三日後、お茶会を開きます」
やはり。
「参加なさい」
「……はい」
「今回は令嬢たちだけのお茶会よ」
逃げ場がなくなった。
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私は思わず固まる。
令嬢だけ。
つまり。
アルフレッドもいない。
ルシアンもいない。
完全アウェーである。
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「大丈夫ですか?」
エマが小声で聞いてくる。
「大丈夫ではありません」
即答だった。
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王妃様は楽しそうに扇子を揺らした。
「最近、“庶民的”という言葉が流行っているみたいだから」
絶対面白がっている。
「なら実際に見てもらえばいいでしょう?」
怖い。
ものすごく怖い。
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その帰り道。
私は廊下を歩きながら、小さくため息を吐いた。
「令嬢だけのお茶会……」
胃が痛い。
すると。
「浮かない顔だな」
低い声が落ちる。
振り向く。
アルフレッドだった。
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「殿下」
「聞いた」
早い。
「令嬢会か」
「……怖いです」
正直に言うと、
彼は少しだけ目を細めた。
「珍しいな」
「珍しくありません」
むしろずっと怖い。
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アルフレッドはしばらく黙り、
そして静かに言った。
「気にするな」
「ですが……」
「お前は間違っていない」
即答だった。
その声には、一切迷いがない。
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「敵が増えるのは」
彼はゆっくり続ける。
「前へ進んでいる証拠だ」
胸が、少しだけ熱くなる。
私は小さく息を吐いた。
「……難しいですね」
「そうだな」
珍しく否定しない。
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その時。
エマが静かに口を開いた。
「……一部の令嬢方、かなり気合いが入っているようです」
「やめてください」
怖い情報を増やさないでほしい。
エマは真顔だった。
「最新の流行や、家系、社交知識などを確認されているとか」
完全に試験である。
私は思わず遠い目になった。
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そして――三日後。
王宮のお茶会当日。
私は控室の鏡の前で固まっていた。
「無理です」
「何がですか」
エマが即答する。
「全部です」
「却下です」
非情である。
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淡い青のドレス。
派手すぎず、上品な刺繍。
髪には小さな銀の飾り。
王妃様が選んだらしい。
つまり断れなかった。
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「緊張しすぎです」
「令嬢しかいないんですよ!?」
「知っています」
「怖いです」
「頑張ってください」
助ける気がない。
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その時。
扉が静かに開いた。
「準備は?」
エレノアだった。
今日は深い紺色のドレス。
相変わらず完璧である。
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「……怖いです」
正直に言うと、
エレノアは小さくため息を吐いた。
「今さら逃げられませんわよ」
「知っています……」
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エレノアは私を見つめ、
そして静かに言った。
「背筋を伸ばしてください」
「……はい」
「あなたは、もう王宮の代表です」
その一言に。
胸の奥が、少しだけ引き締まる。
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やがて。
案内役の侍女が頭を下げた。
「お時間です」
来てしまった。
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私は小さく息を吸う。
すると。
エレノアが隣へ並んだ。
「大丈夫ですわ」
その声は、思ったより優しかった。
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扉が開く。
華やかな香り。
色とりどりのドレス。
令嬢たちの視線が、一斉にこちらへ向いた。
空気が、静かに張り詰める。
(……来た)
私は小さく拳を握った。
そして――
令嬢たちの待つ輪の中へ、足を踏み入れた。
こうして悪役令嬢は――
令嬢たちだけのお茶会へ、挑むことになるのだった。




