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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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112/160

第112話 悪役令嬢、令嬢たちのお茶会へ向かいます

歓迎晩餐会の翌日。


王宮の中は、朝から妙に騒がしかった。


「使節団の方々、かなり満足されていたそうです!」


「“休める食事”だと絶賛されたとか!」


厨房の見習いたちまで嬉しそうである。


私は少し困ったように笑った。


「皆さん、大げさです」


「大げさじゃありません!」


料理長まで腕を組んで頷いている。


「王宮料理であんな反応、久々に見たぞ」


(そうなのでしょうか……)


私は少しだけ視線を落とした。


確かに、喜んでもらえたのは嬉しい。


でも。


「……随分と騒がれておりますわね」


静かな声。


振り向く。


エレノアだった。


今日も完璧な姿勢で立っている。


「エレノア様」


「おめでとうございます、と申し上げるべきかしら」


その声は穏やかだった。


だが。


どこか、周囲を警戒しているようでもあった。


---


「何かありましたか?」


私が尋ねると、


エレノアは小さく息を吐いた。


「……あなた、本当に自覚がありませんのね」


「え?」


「今、社交界ではあなたの話題で持ちきりです」


嫌な予感しかしない。


---


エレノアは静かに続ける。


「もちろん、好意的な声も多いですわ」


「ですが――」


一拍。


「面白く思わない方々もおります」


(やっぱり……)


私は小さく視線を落とした。


---


「“庶民的すぎる”」


「“王宮らしい華やかさがない”」


「“偶然当たっただけ”」


淡々と並べられる言葉。


胸が少しだけ痛む。


でも。


不思議と、そこまで驚かなかった。


---


「……そうですよね」


小さく呟く。


すると。


エレノアが少しだけ目を細めた。


「怖くありませんの?」


「怖いです」


正直に答える。


「ですが」


私は少し考えてから続けた。


「喜んでくださった方もいたので」


「なら、頑張りたいです」


数秒の沈黙。


そして。


エレノアは、ふっと笑った。


「本当に変わった方ですわね」


---


その時だった。


「アメリア様」


エマが静かに近づいてくる。


「王妃様よりお呼びです」


嫌な予感しかしない。


---


案内されたのは、王妃様の私室。


セレナ王妃は、優雅に紅茶を飲んでいた。


「来たわね」


「お呼びでしょうか」


「ええ」


王妃様は楽しそうに笑う。


絶対に嫌な話だ。


---


「三日後、お茶会を開きます」


やはり。


「参加なさい」


「……はい」


「今回は令嬢たちだけのお茶会よ」


逃げ場がなくなった。


---


私は思わず固まる。


令嬢だけ。


つまり。


アルフレッドもいない。


ルシアンもいない。


完全アウェーである。


---


「大丈夫ですか?」


エマが小声で聞いてくる。


「大丈夫ではありません」


即答だった。


---


王妃様は楽しそうに扇子を揺らした。


「最近、“庶民的”という言葉が流行っているみたいだから」


絶対面白がっている。


「なら実際に見てもらえばいいでしょう?」


怖い。


ものすごく怖い。


---


その帰り道。


私は廊下を歩きながら、小さくため息を吐いた。


「令嬢だけのお茶会……」


胃が痛い。


すると。


「浮かない顔だな」


低い声が落ちる。


振り向く。


アルフレッドだった。


---


「殿下」


「聞いた」


早い。


「令嬢会か」


「……怖いです」


正直に言うと、


彼は少しだけ目を細めた。


「珍しいな」


「珍しくありません」


むしろずっと怖い。


---


アルフレッドはしばらく黙り、


そして静かに言った。


「気にするな」


「ですが……」


「お前は間違っていない」


即答だった。


その声には、一切迷いがない。


---


「敵が増えるのは」


彼はゆっくり続ける。


「前へ進んでいる証拠だ」


胸が、少しだけ熱くなる。


私は小さく息を吐いた。


「……難しいですね」


「そうだな」


珍しく否定しない。


---


その時。


エマが静かに口を開いた。


「……一部の令嬢方、かなり気合いが入っているようです」


「やめてください」


怖い情報を増やさないでほしい。


エマは真顔だった。


「最新の流行や、家系、社交知識などを確認されているとか」


完全に試験である。


私は思わず遠い目になった。


---


そして――三日後。


王宮のお茶会当日。


私は控室の鏡の前で固まっていた。


「無理です」


「何がですか」


エマが即答する。


「全部です」


「却下です」


非情である。


---


淡い青のドレス。


派手すぎず、上品な刺繍。


髪には小さな銀の飾り。


王妃様が選んだらしい。


つまり断れなかった。


---


「緊張しすぎです」


「令嬢しかいないんですよ!?」


「知っています」


「怖いです」


「頑張ってください」


助ける気がない。


---


その時。


扉が静かに開いた。


「準備は?」


エレノアだった。


今日は深い紺色のドレス。


相変わらず完璧である。


---


「……怖いです」


正直に言うと、


エレノアは小さくため息を吐いた。


「今さら逃げられませんわよ」


「知っています……」


---


エレノアは私を見つめ、


そして静かに言った。


「背筋を伸ばしてください」


「……はい」


「あなたは、もう王宮の代表です」


その一言に。


胸の奥が、少しだけ引き締まる。


---


やがて。


案内役の侍女が頭を下げた。


「お時間です」


来てしまった。


---


私は小さく息を吸う。


すると。


エレノアが隣へ並んだ。


「大丈夫ですわ」


その声は、思ったより優しかった。


---


扉が開く。


華やかな香り。


色とりどりのドレス。


令嬢たちの視線が、一斉にこちらへ向いた。


空気が、静かに張り詰める。


(……来た)


私は小さく拳を握った。


そして――


令嬢たちの待つ輪の中へ、足を踏み入れた。


こうして悪役令嬢は――


令嬢たちだけのお茶会へ、挑むことになるのだった。

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