第111話 悪役令嬢、他国の使節団を迎えます
数日後。
私は再び、人生最大級の緊張に襲われていた。
「隣国の使節団、ですか?」
「ええ」
王妃セレナは優雅に頷く。
「歓迎晩餐会を開きます」
嫌な予感しかしない。
「そして」
王妃様はにっこり笑った。
「料理は、あなた中心で進めなさい」
「……はい?」
思わず固まる。
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隣国リーベルト王国。
交易も盛んで、友好的な国。
だが。
今回来る使節団は――
「かなり気難しいことで有名です」
エマが静かに告げる。
「以前の歓迎会では、“重い料理ばかりで疲れた”と苦言を呈したとか」
私は小さく目を瞬いた。
(重い料理……)
周囲の貴族たちはすでに騒いでいる。
「ならば最高級の肉を」
「珍しい香辛料を増やせば」
「豪華さが必要だ」
でも。
私は少しだけ考えた。
(長旅の後ですよね)
疲れている。
緊張している。
慣れない土地。
そんな状態で、本当に必要なのは――
「……落ち着ける料理では?」
小さく呟く。
すると。
「ほう?」
料理長が腕を組んだ。
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その日の厨房。
私は食材を見ながら考えていた。
「派手ではなく」
「でも、歓迎の気持ちは伝えたい」
エマが静かに聞く。
「何をお出しするのですか?」
私はゆっくり答えた。
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「前菜は、柑橘を使った白身魚の軽いマリネ」
「酸味で疲れを和らげます」
「スープは、新玉ねぎのポタージュ」
「玉ねぎの甘みをしっかり出して、ミルクで軽く仕上げます」
料理長が頷く。
「胃に優しく、か」
「はい」
さらに続ける。
「メインは白身魚の紙包み焼きです」
「香草を少し使って、香りを立たせます」
「包みを開けた瞬間に、緊張も少し和らぐと思うので」
厨房が静かになった。
やがて。
料理長が小さく笑う。
「……お前らしいな」
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「最後は、はちみつと柑橘の寒天ゼリーにします」
エマがわずかに目を瞬く。
「寒天、ですか?」
「はい」
私は小さく頷く。
「甘すぎない方が、疲れている時は食べやすいので」
「口の中もさっぱりしますし」
料理長が腕を組んだまま笑った。
「最後まで気遣いか」
「歓迎会ですから」
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だが。
当然、反対も出た。
「地味すぎます!」
貴族の一人が声を上げる。
「歓迎晩餐会ですよ!?」
「もっと豪華な肉料理を――」
その時。
「アメリアに任せる」
低い声が空気を断ち切った。
アルフレッドだった。
場が静まる。
「ですが殿下――」
「責任は私が持つ」
即答だった。
逃げ場がない。
私は思わず額を押さえたくなる。
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そして迎えた当日。
晩餐会場。
柔らかな灯り。
静かな音楽。
豪奢すぎない花の装飾。
使節団は、やはり少し疲れた顔をしていた。
(やっぱり……)
私は静かに息を吸う。
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最初に運ばれたのは、柑橘を使った前菜。
白身魚と帆立。
爽やかな香り。
使節団の一人が少し驚いた顔をした。
「……軽い?」
次に、温かなポタージュ。
湯気がゆっくり立ち上る。
一口。
その瞬間。
ぴんと張っていた空気が、ほんの少しだけ緩んだ。
「……美味い」
小さな声。
だが確かに聞こえた。
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そして。
紙包み焼き。
給仕が静かに包みを開く。
ふわり。
香草の香りが広がった。
会場の空気が変わる。
「これは……」
使節団の代表が目を細める。
白身魚はふっくら柔らかい。
香りは穏やか。
重すぎない。
けれど、満足感がある。
「最後まで食べられそうだ」
誰かがぽつりと呟いた。
その言葉に。
私は小さく肩の力を抜いた。
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最後に運ばれてきたのは、小さなガラス器だった。
淡い黄金色。
透き通る寒天ゼリー。
「……綺麗だな」
使節団の女性が小さく呟く。
「はちみつと柑橘を使った寒天ゼリーです」
甘さは控えめ。
口へ入れた瞬間、爽やかな香りが広がる。
「……軽い」
「食後なのに重くない」
最後には、会場の空気はすっかり和らいでいた。
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晩餐会の後。
使節団の代表が静かに口を開いた。
「歓迎されたのは、久しぶりだ」
会場が静まる。
「豪華な料理は多い」
「だが」
彼はゆっくりと言った。
「“休める食事”は、初めてだった」
胸が熱くなる。
私は静かに頭を下げた。
「ありがとうございます」
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晩餐会の後。
バルコニー。
夜風が心地いい。
「疲れたか」
低い声。
隣にはアルフレッド。
「……少しだけ」
正直に答える。
彼は静かにこちらを見る。
「だが、成功した」
「皆さまが優しかったからです」
「違う」
即答だった。
「お前が、相手を見ていたからだ」
その言葉が、胸へ落ちる。
私は少しだけ笑った。
「……料理って、不思議ですね」
「ん?」
「豪華なだけじゃ、人は安心しないんだなって」
アルフレッドは小さく目を細めた。
「だから、お前の料理は強い」
風が吹く。
遠くで灯りが揺れていた。
その時。
「……お前らしい」
小さく落ちた声。
私は顔を上げる。
アルフレッドは静かにこちらを見ていた。
「人を支える料理だった」
胸が、じんわりと熱くなる。
「……ありがとうございます」
小さく答えると。
彼はほんの少しだけ口元を緩めた。
こうして悪役令嬢は――
料理を通して、少しずつ“国の外”にも認められていくのだった。




