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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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111/160

第111話 悪役令嬢、他国の使節団を迎えます

数日後。


私は再び、人生最大級の緊張に襲われていた。


「隣国の使節団、ですか?」


「ええ」


王妃セレナは優雅に頷く。


「歓迎晩餐会を開きます」


嫌な予感しかしない。


「そして」


王妃様はにっこり笑った。


「料理は、あなた中心で進めなさい」


「……はい?」


思わず固まる。


---


隣国リーベルト王国。


交易も盛んで、友好的な国。


だが。


今回来る使節団は――


「かなり気難しいことで有名です」


エマが静かに告げる。


「以前の歓迎会では、“重い料理ばかりで疲れた”と苦言を呈したとか」


私は小さく目を瞬いた。


(重い料理……)


周囲の貴族たちはすでに騒いでいる。


「ならば最高級の肉を」


「珍しい香辛料を増やせば」


「豪華さが必要だ」


でも。


私は少しだけ考えた。


(長旅の後ですよね)


疲れている。


緊張している。


慣れない土地。


そんな状態で、本当に必要なのは――


「……落ち着ける料理では?」


小さく呟く。


すると。


「ほう?」


料理長が腕を組んだ。


---


その日の厨房。


私は食材を見ながら考えていた。


「派手ではなく」


「でも、歓迎の気持ちは伝えたい」


エマが静かに聞く。


「何をお出しするのですか?」


私はゆっくり答えた。


---


「前菜は、柑橘を使った白身魚の軽いマリネ」


「酸味で疲れを和らげます」


「スープは、新玉ねぎのポタージュ」


「玉ねぎの甘みをしっかり出して、ミルクで軽く仕上げます」


料理長が頷く。


「胃に優しく、か」


「はい」


さらに続ける。


「メインは白身魚の紙包み焼きです」


「香草を少し使って、香りを立たせます」


「包みを開けた瞬間に、緊張も少し和らぐと思うので」


厨房が静かになった。


やがて。


料理長が小さく笑う。


「……お前らしいな」


---


「最後は、はちみつと柑橘の寒天ゼリーにします」


エマがわずかに目を瞬く。


「寒天、ですか?」


「はい」


私は小さく頷く。


「甘すぎない方が、疲れている時は食べやすいので」


「口の中もさっぱりしますし」


料理長が腕を組んだまま笑った。


「最後まで気遣いか」


「歓迎会ですから」


---


だが。


当然、反対も出た。


「地味すぎます!」


貴族の一人が声を上げる。


「歓迎晩餐会ですよ!?」


「もっと豪華な肉料理を――」


その時。


「アメリアに任せる」


低い声が空気を断ち切った。


アルフレッドだった。


場が静まる。


「ですが殿下――」


「責任は私が持つ」


即答だった。


逃げ場がない。


私は思わず額を押さえたくなる。


---


そして迎えた当日。


晩餐会場。


柔らかな灯り。


静かな音楽。


豪奢すぎない花の装飾。


使節団は、やはり少し疲れた顔をしていた。


(やっぱり……)


私は静かに息を吸う。


---


最初に運ばれたのは、柑橘を使った前菜。


白身魚と帆立。


爽やかな香り。


使節団の一人が少し驚いた顔をした。


「……軽い?」


次に、温かなポタージュ。


湯気がゆっくり立ち上る。


一口。


その瞬間。


ぴんと張っていた空気が、ほんの少しだけ緩んだ。


「……美味い」


小さな声。


だが確かに聞こえた。


---


そして。


紙包み焼き。


給仕が静かに包みを開く。


ふわり。


香草の香りが広がった。


会場の空気が変わる。


「これは……」


使節団の代表が目を細める。


白身魚はふっくら柔らかい。


香りは穏やか。


重すぎない。


けれど、満足感がある。


「最後まで食べられそうだ」


誰かがぽつりと呟いた。


その言葉に。


私は小さく肩の力を抜いた。


---


最後に運ばれてきたのは、小さなガラス器だった。


淡い黄金色。


透き通る寒天ゼリー。


「……綺麗だな」


使節団の女性が小さく呟く。


「はちみつと柑橘を使った寒天ゼリーです」


甘さは控えめ。


口へ入れた瞬間、爽やかな香りが広がる。


「……軽い」


「食後なのに重くない」


最後には、会場の空気はすっかり和らいでいた。


---


晩餐会の後。


使節団の代表が静かに口を開いた。


「歓迎されたのは、久しぶりだ」


会場が静まる。


「豪華な料理は多い」


「だが」


彼はゆっくりと言った。


「“休める食事”は、初めてだった」


胸が熱くなる。


私は静かに頭を下げた。


「ありがとうございます」


---


晩餐会の後。


バルコニー。


夜風が心地いい。


「疲れたか」


低い声。


隣にはアルフレッド。


「……少しだけ」


正直に答える。


彼は静かにこちらを見る。


「だが、成功した」


「皆さまが優しかったからです」


「違う」


即答だった。


「お前が、相手を見ていたからだ」


その言葉が、胸へ落ちる。


私は少しだけ笑った。


「……料理って、不思議ですね」


「ん?」


「豪華なだけじゃ、人は安心しないんだなって」


アルフレッドは小さく目を細めた。


「だから、お前の料理は強い」


風が吹く。


遠くで灯りが揺れていた。


その時。


「……お前らしい」


小さく落ちた声。


私は顔を上げる。


アルフレッドは静かにこちらを見ていた。


「人を支える料理だった」


胸が、じんわりと熱くなる。


「……ありがとうございます」


小さく答えると。


彼はほんの少しだけ口元を緩めた。


こうして悪役令嬢は――


料理を通して、少しずつ“国の外”にも認められていくのだった。

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