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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第11話 悪役令嬢、なぜか胸がチクリとします

午後の王城厨房は、焼き菓子の甘い香りに包まれていた。


私は新作のりんごタルトを仕上げながら、ちらりと入口を見る。


……また来ていた。


侯爵令嬢エレノア。


今日も完璧に美しい。


淡い水色のドレスに身を包み、涼やかな笑みを浮かべながら、アルフレッドの隣に立っている。


「殿下は幼い頃から紅茶がお好きでしたものね」


「……普通だ」


「まあ、相変わらず素直ではありませんのね」


自然な距離感。

親しげな会話。

周囲の侍女たちも、どこか微笑ましそうに見守っている。


(……別に、どうでもいいのに)


私はタルト生地を必要以上に強く押し込んだ。


「アメリア様、生地がつぶれます!」


見習い菓子職人が悲鳴を上げる。


「失礼。手元が滑りました」


「感情が滑ってます!」


その時、エレノアがこちらへ歩いてきた。


「アメリア様。わたくし、殿下にお茶請けを差し上げたいの。おすすめはあるかしら?」


「そうですね」


私は並んだ焼き菓子を見る。


クッキー、マドレーヌ、パイ。


けれど、ふと手が止まった。


「……こちらはいかがです?」


私は卵焼きサンドを皿に載せた。


ふわふわの卵焼きを、薄く焼いた香草パンで挟んだだけの簡素な一品。


けれど、王城では密かに人気の軽食だ。


「まあ、甘いお菓子ではないのね」


「殿下は、甘いものの後に塩気のある物を欲しがります」


言ってから、はっとした。


なぜそんなことを知っているのだろう。


毎朝作っているうちに、自然と覚えてしまったのだ。


エレノアは少し驚いた顔をしたが、すぐに笑みを戻した。


「さすがですわ」


彼女は皿を受け取り、アルフレッドのもとへ戻る。


「殿下、こちらをどうぞ」


アルフレッドは無言で一口食べ――そのまま動きを止めた。


「……どうかなさいました?」


「いや」


彼はもう一口食べ、眉をひそめた。


「この味……」


静かな声だった。


厨房の空気が少し張りつめる。


アルフレッドは皿を見つめたまま、ぽつりとつぶやいた。


「昔、母上が忙しい日に、厨房で食べたものと同じだ」


私は目を瞬く。


王妃様が忙しい日?


「泣いて食事を拒んだお前に、先代料理長が作ったやつだな」


王妃セレナが、いつの間にか背後に立っていた。


「え?」


アルフレッドが珍しく動揺した顔になる。


王妃は楽しそうに笑った。


「あの時、味付けを考えたのはアメリアよ。あなたたち、幼い頃に会っているの」


「……は?」


今度は私が固まる番だった。


記憶の奥に、泣き虫の金髪の少年と、大きな厨房で卵を混ぜた遠い日の景色がかすかによみがえる。


「うそ……」


アルフレッドは私を見る。


いつも冷静な瞳が、明らかに揺れていた。


「お前だったのか」


「し、知りませんよ、そんな昔のこと!」


顔が熱い。


なぜ今そんな事実が出てくるのか。


その時、エレノアが静かに微笑んだ。


「まあ……お二人には、昔からご縁があったのですね」


優しい声なのに、なぜか胸がまたちくりとした。


アルフレッドが彼女に向ける視線。

隣に並ぶ、美しい二人。


(……なんでしょう、この感じ)


胸の奥が落ち着かない。


息苦しいような、むずむずするような。


(昨夜、食べ過ぎたかしら)


私は真顔で結論づけた。


(これは胃もたれね)


「違うと思うよ」


いつの間にか来ていたルシアンが即座に突っ込んだ。


「声に出てました!?」


「全部出てた」


私は両手で顔を覆った。


王妃は肩を震わせ、アルフレッドはなぜか口元を押さえている。


こうして私は、自分でも気づかぬまま“嫉妬”という感情に振り回され始めていた。

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