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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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109/160

第109話 悪役令嬢、初めてのお茶会を任されます

数日後。


私は、再び人生の危機に直面していた。


「お茶会、ですか?」


「ええ」


王妃セレナは、優雅に紅茶を口へ運びながら頷いた。


「次の交流茶会。あなたが中心になりなさい」


「む、無理です」


即答だった。


王妃様はにっこり笑う。


「だからやるのよ」


逃げ道がない。


---


交流茶会。


若い令嬢たちを集めた、小規模な社交の場。


だが――


小規模だからこそ、空気が見える。


人間関係も。


視線も。


感情も。


(絶対に疲れる……)


私は静かに頭を抱えた。


---


その日の午後。


厨房。


私は試作中だった。


「小さめ、ですね」


エマが静かに言う。


「はい」


私は並べた焼き菓子を見る。


一口サイズのマドレーヌ。


柑橘の香りを少し強めたもの。


甘さは控えめ。


「会話の邪魔にならないようにしたいんです」


「なるほど」


「緊張している時って、大きなお菓子は食べにくいので」


エマがわずかに目を細めた。


「アメリア様らしい考え方です」


少し照れる。


---


「紅茶は?」


料理長が聞いてくる。


「香りの柔らかいものを」


「渋みが強いと、緊張している方は飲みにくいので」


「……なるほどな」


料理長は感心したように頷いた。


「料理ってより、空気作ってるな」


その言葉に。


私は少しだけ考える。


(空気……)


そうかもしれない。


---


そして迎えた当日。


王宮の小広間。


柔らかな陽光。


季節の花。


甘い焼き菓子の香り。


私は緊張で死にそうだった。


「顔が硬い」


隣から低い声。


「誰のせいですか」


「私ではない」


アルフレッドが平然と言う。


今日は視察だけらしい。


本当に視察だけだろうか。


怪しい。


「大丈夫ですか?」


エマが小声で聞いてくる。


「帰りたいです」


「却下です」


知っていた。


---


やがて、令嬢たちが集まり始める。


華やかなドレス。


柔らかな笑顔。


そして――


値踏みするような視線。


(……来ましたね)


私は静かに背筋を伸ばした。


すると。


「アメリア様」


落ち着いた声。


振り向く。


そこには、エレノア・ヴァレンシアが立っていた。


淡い青のドレス。


相変わらず隙のない美しさ。


「エレノア様」


「本日はお招きありがとうございます」


静かに微笑む。


以前より、その笑みが柔らかい気がした。


---


お茶会は、最初こそ穏やかだった。


紅茶が注がれ、


小さな焼き菓子が並ぶ。


「……美味しい」


「柑橘の香りが爽やかですわ」


少しずつ、空気も和らいでいく。


(よかった……)


そう思った時だった。


「随分とお料理がお得意なのですね」


一人の令嬢が微笑む。


だが。


その目は笑っていなかった。


「……厨房に立っていらした経験が、役に立っているのでしょう?」


空気が、少しだけ冷える。


私は静かに視線を向けた。


(来るとは思っていました)


その時。


カチャ。


静かにティーカップが置かれる音。


「その言い方は感心しませんわね」


エレノアだった。


空気が止まる。


「エレノア様……」


令嬢が顔を強張らせる。


エレノアは静かに続けた。


「現場を知る方は、机上では見えないものまで見えます」


その声は穏やかだった。


だが、揺るがない。


「先日の孤児院視察でも、それがよく分かりましたわ」


周囲の空気が変わる。


令嬢たちの視線が、私へ向いた。


驚きと。


少しの興味。


私は静かに目を瞬いた。


「……ありがとうございます」


小さく言うと。


エレノアはふっと微笑む。


「お茶会で空気を壊されるのが嫌いなだけです」


少しだけ、ツンとしていた。


でも。


その優しさは、ちゃんと伝わった。


---


そこへ。


「随分盛り上がっているな」


低い声。


会場が静まる。


アルフレッドだった。


(やっぱり来ました……)


令嬢たちが一気に緊張する。


だがアルフレッドは気にした様子もなく、当然のように私の隣へ立った。


近い。


「問題は?」


「……今のところは」


小声で答える。


すると。


彼はテーブルへ視線を向けた。


「焼き菓子か」


「はい」


「柑橘を入れました」


アルフレッドは一つ手に取り、静かに口へ運ぶ。


数秒後。


「美味い」


会場がざわついた。


第一王子が普通に褒めている。


破壊力が強い。


しかも。


「よくやっている」


真っ直ぐこちらを見る。


「……っ」


心臓が跳ねる。


やめてほしい。


皆の前で。


ルシアンなら間違いなく爆笑している。


その時。


後方で王妃様が扇子を口元へ当てながら微笑んでいた。


(見てたんですね……)


絶対、最初からいた。


---


お茶会が終わる頃には、


最初の空気はすっかり消えていた。


令嬢たちは自然に会話を交わし、


笑顔も増えている。


「楽しかったですわ」


「また参加したいです」


そんな声まで聞こえてきた。


私は小さく息を吐く。


(終わった……)


すると。


「合格ね」


王妃様が静かに言った。


私は思わず目を見開く。


王妃様は楽しそうに笑った。


「ちゃんと、“場”を作れていたわ」


胸の奥が、じんわり熱くなる。


その時。


隣でアルフレッドが小さく言った。


「当然だ」


「私の婚約者だからな」


やめてほしい。


本当に。


こうして悪役令嬢は――


初めて任されたお茶会で、少しずつ“王子妃としての居場所”を築いていくのだった。

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