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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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102/160

第102話 悪役令嬢、護衛たちを労います

王宮へ戻った翌日。


日が傾き始めた頃。


私は厨房へ立っていた。


「今日は、少し多めに作ります」


そう言いながら、食材を並べていく。


牛赤身肉。


じゃがいも。


クレソン。


玉ねぎ、人参、キャベツ。


「……豪華ですね」


見習いが目を丸くした。


「皆さん、疲れていると思うので」


私は小さく息を吐く。


昨日のことを思い出す。


剣戟。


怒号。


そして――


私を守るように立っていた、アルフレッドとエマとカイル。


(ちゃんと、お礼がしたい)


だから今日は、“回復のための食事”だ。


---


まずはスープから作る。


玉ねぎ、人参、キャベツを小さめに切り分ける。


鍋へ少量の油を入れ、野菜をさっと炒めた。


「野菜は、軽く火を通してから煮込むと甘みが出やすいんです」


見習いたちが真剣に頷く。


そこへ水とコンソメを加え、弱火でゆっくり煮込んでいく。


湯気と一緒に、やさしい香りが広がった。


---


次はマッシュポテト。


蒸したじゃがいもを熱いうちに潰し、バターと温めた牛乳を加えていく。


「疲れている時は、滑らかで食べやすい方がいいので」


木べらで丁寧に混ぜる。


なめらかな白色に変わっていった。


---


クレソンは冷水へ。


「葉物は最後まで冷やしておくと、食感が良くなります」


しっかり水気を切り、レモンとオリーブオイルで軽く和える。


爽やかな香りが立った。


---


最後に、赤身肉。


「焼く前に常温へ戻しておきます」


私は肉へ軽く塩と胡椒を振った。


「急に強火へ入れると、硬くなりやすいので」


熱したフライパンへ肉を置く。


じゅう、と音が広がった。


香ばしい匂い。


焼き色がついたところで裏返し、火を少し弱める。


「焼いた後、少し休ませると肉汁が落ち着きます」


私はアルミで軽く包む。


静かな時間。


肉を休ませている間にも、香ばしい匂いだけがゆっくり広がっていた。


やがて。


肉を切り分ける。


現れた断面は、やわらかなロゼ色だった。


「……綺麗」


見習いが思わず声を漏らす。


私は小さく笑った。


「これで完成です」


---


しばらくして。


食堂の一角へ料理が並べられた。


湯気の立つコンソメスープ。


なめらかなマッシュポテト。


鮮やかなクレソンのサラダ。


そして――


綺麗な焼き色の赤身肉。


「おお……」


護衛騎士たちから声が漏れる。


「今日は特別です」


私は少しだけ笑った。


「皆さん、お疲れさまでした」


その時だった。


「……いい香りだな」


低い声。


振り向けば、アルフレッドが立っていた。


その後ろには、エマとカイルの姿もある。


「殿下」


「聞いた」


アルフレッドは料理へ視線を向ける。


「回復料理らしいな」


「はい。疲れている時は、温かいものの方が落ち着きますから」


私はスープを見る。


「温かいものを中心にしました」


アルフレッドは小さく頷いた。


「お前らしい」


その言葉に、少しだけ胸が熱くなる。


---


全員が席へ着く。


ナイフが入り、スープが注がれる。


しばらくして。


「……美味い」


小さな声。


全員が止まった。


声の主は、カイルだった。


彼は真顔で肉を見ている。


「柔らかいな」


一拍。


「かなり食べやすい」


エマが静かに瞬きをする。


「珍しく、二回も感想を言いましたね」


「事実を述べただけだ」


真顔だった。


思わず笑いが広がる。


私は少しだけ肩の力を抜いた。


(よかった)


その横で。


アルフレッドが当然のように言う。


「だから言っただろう」


「何をですか」


「アメリアの料理は美味い」


なぜか誇らしげだった。


「殿下が作ったわけではありません」


「だが、私の婚約者だ」


「そういう問題ではありません!」


護衛騎士たちが吹き出す。


エマが静かにスープを口へ運びながら、小さく息をついた。


「……平和ですね」


その言葉に。


私はふと、昨日の恐怖を思い出す。


怖かった。


本当に。


でも――


こうして皆が無事で、笑って食事をしている。


それだけで、胸が温かくなった。


「アメリア」


アルフレッドがこちらを見る。


「はい」


「お前も食べろ」


低い声。


でも、優しかった。


私は少し笑って頷く。


「……はい」


私はスープを一口飲む。


温かさが、ゆっくり喉を落ちていく。


張り詰めていたものが、少しずつほどけていく気がした。


(……帰ってこられた)


気づけば、自然と肩の力が抜けていた。


温かなスープの湯気が、静かに広がっていく。


こうして悪役令嬢は――


大切な人たちを、料理で支えていくのだった。

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