第102話 悪役令嬢、護衛たちを労います
王宮へ戻った翌日。
日が傾き始めた頃。
私は厨房へ立っていた。
「今日は、少し多めに作ります」
そう言いながら、食材を並べていく。
牛赤身肉。
じゃがいも。
クレソン。
玉ねぎ、人参、キャベツ。
「……豪華ですね」
見習いが目を丸くした。
「皆さん、疲れていると思うので」
私は小さく息を吐く。
昨日のことを思い出す。
剣戟。
怒号。
そして――
私を守るように立っていた、アルフレッドとエマとカイル。
(ちゃんと、お礼がしたい)
だから今日は、“回復のための食事”だ。
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まずはスープから作る。
玉ねぎ、人参、キャベツを小さめに切り分ける。
鍋へ少量の油を入れ、野菜をさっと炒めた。
「野菜は、軽く火を通してから煮込むと甘みが出やすいんです」
見習いたちが真剣に頷く。
そこへ水とコンソメを加え、弱火でゆっくり煮込んでいく。
湯気と一緒に、やさしい香りが広がった。
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次はマッシュポテト。
蒸したじゃがいもを熱いうちに潰し、バターと温めた牛乳を加えていく。
「疲れている時は、滑らかで食べやすい方がいいので」
木べらで丁寧に混ぜる。
なめらかな白色に変わっていった。
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クレソンは冷水へ。
「葉物は最後まで冷やしておくと、食感が良くなります」
しっかり水気を切り、レモンとオリーブオイルで軽く和える。
爽やかな香りが立った。
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最後に、赤身肉。
「焼く前に常温へ戻しておきます」
私は肉へ軽く塩と胡椒を振った。
「急に強火へ入れると、硬くなりやすいので」
熱したフライパンへ肉を置く。
じゅう、と音が広がった。
香ばしい匂い。
焼き色がついたところで裏返し、火を少し弱める。
「焼いた後、少し休ませると肉汁が落ち着きます」
私はアルミで軽く包む。
静かな時間。
肉を休ませている間にも、香ばしい匂いだけがゆっくり広がっていた。
やがて。
肉を切り分ける。
現れた断面は、やわらかなロゼ色だった。
「……綺麗」
見習いが思わず声を漏らす。
私は小さく笑った。
「これで完成です」
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しばらくして。
食堂の一角へ料理が並べられた。
湯気の立つコンソメスープ。
なめらかなマッシュポテト。
鮮やかなクレソンのサラダ。
そして――
綺麗な焼き色の赤身肉。
「おお……」
護衛騎士たちから声が漏れる。
「今日は特別です」
私は少しだけ笑った。
「皆さん、お疲れさまでした」
その時だった。
「……いい香りだな」
低い声。
振り向けば、アルフレッドが立っていた。
その後ろには、エマとカイルの姿もある。
「殿下」
「聞いた」
アルフレッドは料理へ視線を向ける。
「回復料理らしいな」
「はい。疲れている時は、温かいものの方が落ち着きますから」
私はスープを見る。
「温かいものを中心にしました」
アルフレッドは小さく頷いた。
「お前らしい」
その言葉に、少しだけ胸が熱くなる。
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全員が席へ着く。
ナイフが入り、スープが注がれる。
しばらくして。
「……美味い」
小さな声。
全員が止まった。
声の主は、カイルだった。
彼は真顔で肉を見ている。
「柔らかいな」
一拍。
「かなり食べやすい」
エマが静かに瞬きをする。
「珍しく、二回も感想を言いましたね」
「事実を述べただけだ」
真顔だった。
思わず笑いが広がる。
私は少しだけ肩の力を抜いた。
(よかった)
その横で。
アルフレッドが当然のように言う。
「だから言っただろう」
「何をですか」
「アメリアの料理は美味い」
なぜか誇らしげだった。
「殿下が作ったわけではありません」
「だが、私の婚約者だ」
「そういう問題ではありません!」
護衛騎士たちが吹き出す。
エマが静かにスープを口へ運びながら、小さく息をついた。
「……平和ですね」
その言葉に。
私はふと、昨日の恐怖を思い出す。
怖かった。
本当に。
でも――
こうして皆が無事で、笑って食事をしている。
それだけで、胸が温かくなった。
「アメリア」
アルフレッドがこちらを見る。
「はい」
「お前も食べろ」
低い声。
でも、優しかった。
私は少し笑って頷く。
「……はい」
私はスープを一口飲む。
温かさが、ゆっくり喉を落ちていく。
張り詰めていたものが、少しずつほどけていく気がした。
(……帰ってこられた)
気づけば、自然と肩の力が抜けていた。
温かなスープの湯気が、静かに広がっていく。
こうして悪役令嬢は――
大切な人たちを、料理で支えていくのだった。




