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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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101/160

第101話 悪役令嬢、王子と護衛たちに守られます

隣国からの帰路。


馬車の中は、穏やかな空気に包まれていた。


私は窓の外を見ながら、そっと頬へ触れる。


昨夜。


バルコニーで落とされた口づけを思い出したからだ。


「また赤いな」


低い声。


「なっ……!」


振り向けば、アルフレッドがこちらを見ていた。


「赤くありません!」


「そうか」


絶対信じていない。


私は顔を背けた。


その時だった。


――ガタン!!


馬車が激しく揺れる。


「きゃっ!」


急停止。


空気が、一瞬で変わった。


アルフレッドの目が鋭く細まる。


同時に、外から怒号が響いた。


「囲め!」


「王族の馬車だ!」


私は息を呑む。


盗賊。


しかも――狙っている。


その瞬間。


「アメリア様」


静かな声。


エマだった。


すでに短剣を握っている。


「馬車の中から出ないでください」


そのまま私を庇うように前へ立つ。


一切の迷いがない。


次の瞬間。


馬車の外から低い声が響いた。


「左右を固めろ!」


カイルだった。


アルフレッド直属護衛。


黒髪の青年は、すでに剣を抜いている。


護衛騎士たちが一斉に動いた。


金属音。


怒号。


剣戟。


一気に戦場へ変わる。


だが。


盗賊の一人が護衛をすり抜け、馬車へ向かって突っ込んできた。


「中に女がいるぞ!」


その瞬間。


「――止まりなさい」


静かな声。


エマ。


次の瞬間だった。


閃く銀。


盗賊の剣が宙を舞う。


「なっ――」


さらに。


エマの足が盗賊の膝裏を払う。


男の身体が崩れ落ちた。


「がっ!?」


そこへ短剣が喉元へ突きつけられる。


「これ以上進めば、次は外しません」


冷たい声。


盗賊の顔が青ざめる。


(……強い)


知っていた。


でも。


実際に見ると、別格だった。


その直後。


外で大きな衝突音が響く。


カイルだった。


盗賊二人を相手にしている。


「ちっ!」


「囲め!」


だが。


「遅い」


低い声。


カイルの剣が一閃した。


火花。


盗賊の剣が弾き飛ばされる。


そのまま体勢を崩した男へ蹴りが叩き込まれた。


「ぐぁっ!!」


吹き飛ぶ。


さらにもう一人が斬りかかる。


だが。


カイルは一歩も動じない。


最小限の動き。


最短距離。


一瞬で懐へ入り込む。


柄で鳩尾を打ち抜いた。


「っ……!!」


男が崩れ落ちる。


その横で。


エマが盗賊の腕をねじ上げ、地面へ叩きつけた。


「ぎゃあっ!」


カイルが横目でそれを確認する。


「……さすがだな」


小さく呟く。


エマは視線も向けずに答えた。


「そちらこそ」


短い言葉。


だが。


次の瞬間には、二人とも別方向へ動いていた。


無駄がない。


まるで最初から呼吸が合っているようだった。


そして。


空気が変わった。


「下がれ」


低い声。


アルフレッドだった。


盗賊たちが息を呑む。


王子は静かに剣を抜いた。


その瞬間。


場の空気が凍る。


圧。


それだけで違った。


「ひっ……」


盗賊が後退する。


だが、一人が叫びながら突っ込んだ。


「うおおおっ!!」


アルフレッドが動く。


速い。


見えない。


次の瞬間。


――一閃。


金属音。


盗賊の剣が真っ二つになった。


「え……」


男の顔が凍りつく。


そのまま剣先が喉元へ突きつけられる。


「終わりだ」


低い声。


それだけで。


盗賊たちの戦意が完全に折れた。


「に、逃げろ!!」


一斉に散っていく。


静寂。


風だけが残った。


私はようやく息を吐く。


怖かった。


本当に。


その時。


馬車の扉が開く。


「アメリア」


アルフレッドだった。


「怪我は」


「だ、大丈夫です……」


そう答えた瞬間。


震えていることに気づく。


遅れて恐怖が押し寄せてきた。


アルフレッドの視線が、私の手へ落ちる。


「……まだ怖いか」


低い声。


私は少し迷って、小さく頷いた。


「少しだけ……」


すると。


彼は黙ったまま、私の手を包み込む。


温かい。


それだけで、少し落ち着く。


その横で。


「温かいうちにどうぞ」


エマが小さな水筒を差し出した。


「甘めのミルクティーです」


「ありがとうございます……」


受け取る。


温かい。


優しい甘さだった。


カイルが周囲を警戒しながら、小さく息を吐く。


「……殿下」


「何だ」


「予想以上に数が多かった」


「だが、問題ない」


即答だった。


カイルは苦笑する。


「あなたが前に出ると、こちらの仕事が減ります」


「悪いな」


全然悪いと思っていない声だった。


エマが静かに言う。


「……殿下も、カイルも過保護です」


「当然だ」


アルフレッド即答。


「職務ですので」


カイルも真顔だった。


私は思わず吹き出してしまう。


張り詰めていた空気が、少しだけ緩んだ。


馬車が再び動き出す。


私は温かなカップを握りながら、小さく息を吐いた。


怖かった。


でも――


守ってくれる人がいる。


それが、こんなにも心強いなんて。


隣では。


アルフレッドが外を警戒したまま、繋いだ手を離さなかった。


こうして悪役令嬢は――


王子と護衛たちに守られながら、少しずつ前へ進んでいくのだった。

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