表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/18

4◆二回目のルルア

ルルアの誕生日にはいつも大きなぬいぐるみが贈られた。毎日仕事で子供が起きている時間に帰って来れず、せめて寂しくないようにという両親の配慮からだ。二人はどちらも王城で働いている。

会計の要職に就く父親が忙しいのはもちろんのこと、母親の方も多忙を極める。ルルアの母親は王妃付きの侍女で、昔から「一風変わった令嬢」だった。

その昔、まだ王太子の婚約者であった王妃と同じ学園で過ごし、卒業してからずっと彼女の侍女として働いている。子供を産んだ時期は違っていたので王子王女の乳母にはならなかったが、自分の産後もすぐに仕事へ復帰した。この国で職業婦人が結婚、出産後にこうも精力的に働くのも「一風変わった女性」と言われるが、彼女は好意的に見られている。


「まあ、このうさぎさん、前の子と同じ子かしら?」


伯爵夫妻に指示を受け、ぬいぐるみを渡した執事はハッとする。確かに去年もこんなぬいぐるみだったかもしれない。ルルアが持ってきた去年のぬいぐるみと比べたてみると、着ている服まで同じだ。両親はルルアに気を配っていないわけではないが、その気配りは多少いい加減なので、たびたびこういうことが起きる。


「違う色のおリボンを付けてあげましょう。何かあるかしら?」


ルルアがメイドに尋ねると、端切れを二種類持ってきた。


「これでリボンを作りましょう」

「可愛い布だわ、きっとうさぎさんも喜ぶわ」


誕生日プレゼントに去年と同じものを贈られたが、ルルアに特に憂いはない。こんなのはいつものことである。好きな色を何度言っても両親が覚えていなかったり、「これ好きよね」と特に好きだった覚えのないものを贈られたりしていたので、自分の両親はこんな感じだと思っている。この時、ルルアは八歳だったがすでにそこは達観していた。

だけど両親はルルアを想っていないわけではない。毎回参加は出来ずとも誕生日パーティーは計画されるし、贈り物は欠かさない。夫婦で休みが取れた時は家族で出かけたりもする。だけど母親は「一風変わった母親」なので、外出先で何かと事件が巻き起こり、それを解決したりと忙しい。そんな時ルルアは、カフェで本を読んだりしながら待っているのだ。ルルアはお茶をするのも本を読むのも好きなので、それに不満を感じたことはない。

そんな感じでルルアは、幼いころから一人でいるのが平気な令嬢だった。物心つく前は寂しいと感じていたかもしれないが、同じぬいぐるみをリボンで見分けようとするルルアには、もうそんな気持ちは残っていない。

ルルアの母親、マリアベルは行動力に富み学生時代からよく目立つ。当時から高位貴族の令息令嬢からの覚えがよかった。現在王妃付きの侍女をやっているのも納得の人物である。しかし、残念ながらルルアはその資質を受け継いでいない。会計のために生まれてきたであろう父親の才能も特にもらわず、ルルアはごくごく平均的な貴族令嬢である。学校も両親が通った名門校ではなく、貴族令嬢であれば誰でも入れる女学園に入学した。行儀見習いや家政なんかを学び「どこかにお嫁に行くのでしょうね」と思いながら過ごしていた。


さて、そんなルルアが魔女と出会った日。その日は供も連れず一人で外出していた。貴族令嬢はそんなことはしないのが普通なのだが、ルルアの母親がそんなことばっかりしていたので、ルルアも何となく許されている。ルルアは一風変わっていない普通の令嬢なので、あまり例外的なことはさせる必要はないのだが。だが彼女は母親のように、いきなりトラブルに巻き込まれるようなこともないし、それを解決するために初対面の人物とこの安全な城下町から出ることもない。ルルアが一人で出歩くのは、母親が一人で出歩くより安全とも言えるかもしれない。王城にほど近い、王国一治安のいい一等地にあるこの屋敷は、物件の希望を両親が通勤に全振りした結果である。


「お嬢様、お帰りなさいませ。遅かったっですね、今日は本屋だけではなかったのですか?」


いつもより遅い帰宅にメイド頭が問う。咎めているわけではなく、雑談の一つだ。


「帰りにカフェに寄ったの」

「あら、珍しいことですね。楽しゅうございましたか?」

「ええ、とても」

「それはよろしゅうございました。お夕飯になりましたらお呼びいたしますね」


にこやかにそう言うメイドと別れて、ルルアは部屋に戻る。そしてポスッとベッドに倒れ込んだ。


「……すっご~~~~い、魔法よ、魔法だわ!」


ベッドの上でうつ伏せたまま足をバタバタさせるが、咎める者はいない。常に侍女やメイドが付いている環境ではないのだ。

ルルアの意識としては血を吐いて意識を失い、次に目覚めた瞬間に見知らぬ魔女と向き合っていた。なかなかの急展開であるがルルアは、初めて体験した魔法に興奮しきりだ。

魔法も魔女の存在も知っている。だけどそれは、学生程度がお目に掛かる機会はないものだ。それがいきなり当事者として関わってしまい興奮が冷めやらない。が、ルルアの頭から『自分が殺されたこと』がすっかり抜け落ちている。


「はあ…すごい。魔女様とお知り合いになれたなんて…。しかもまた魔女様が王都へ来たときは、一緒にお茶をしてくださるなんて」


やってきた時は黒猫に迎えに行かせると言っていた。別れたばかりなのにもう次のお茶の機会を心待ちにしているルルアである。


18歳でお嫁に行って、5年巻き戻り、今は13歳。女学園に通っている最中だ。16歳で卒業しデビュタントをして、婚約者が決まり、18歳で結婚した。貴族令嬢的に平均ど真ん中の流れである。


「わたくし、ここで一念発起して、なにか人生を変えるようなことができるのかしら…」


ルルアはふうむ、と考える。お勉強は得意ではない。では何か得意分野があるかと言えば、別に思い当たるものもない。何か夢中になってるものもないし、外見は貴族令嬢並みに整っているが、目を引くほどの美貌はない。


「…………はっいけませんわ、眠ってしまうところでした」


ルルアはベッドの上で起きあがり、更に考えるてみるが何の策も浮かばなかった。運命を変えようとあがく、ドラマティックな物語を楽しく読んでいたルルアであるが、いざ自分が当事者になったらそうもできないものだと学ぶ。


「あれは、お母さまのような方しかできないのではないかしら」


物語の主人公たちは、実在していれば自分の母のような存在なのではなかろうか。だとすると、そんな大それた真似は自分には無理と早々に見切りをつけて、ルルアは「できる範囲でなんとか頑張る、あと魔女様に相談する」という方針を立てた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ