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19◆運命の魔女

本日、三話更新です。

「だぁーーー!!何!?なんか運命の手応え変わってるんだけど!?」


運命の魔女は大声で叫ぶ。ここは彼女の部屋。決して誰も入らぬよう伝えているので、その声に反応する者はいない。


「時の魔女だな~~!なんっかおかしいと思ったら時を巻き戻してやがって、魔法使うなって言ってあったのにっもーーー!!」


大きな音を上げて扉を開けると、運命の魔女は時の魔女の部屋に向かおうとして、動きを止めた。


「時の魔女の部屋ってどこだぁ?」


そもそも運命の魔女が部屋から出たのもいつぶりだろうか。魔塔の魔女の暮らしはベル一つで全てが揃う。運命の魔女が食事や入浴を望んでベルを鳴らせば、召使たちが全てを叶える。作業をする机からベッドまで行くのが面倒であれば、やはりベルを鳴らせばそこまで運んでもらえるのだ。そんな生活をしていたものだから、運命の魔女には時の魔女の部屋などさっぱりわからなかった。


「んもう!」


ぷりぷり怒りながら運命の魔女は集会所へ向かう。きっと誰かはいるだろう。


「おーい誰か!時の魔女の部屋はどこだぁ!」

「あら、運命の魔女だわ、久しぶりじゃなぁい」

「ほんと、やっと終わったの?」


集会所、と呼ばれる豪華なリビングルームのような部屋では、二人の魔女がお茶をしていた。


「時の魔女ぉ?一体どうしたというのよぉ」


紅茶にバラの香油を入れながら恋の魔女が聞く。


「時の魔女のやつが魔法使ってさぁ!私の魔法の軌道がずれたんだよ!あ~~もう!時が戻ったのに気付かなかった悔しい~~~!!!」

「時の魔女なら、いないわよ」


運命の魔女の大声を気にする様子もなく、(ことわり)の魔女が答えた。


「いないって?どっか出掛けてんの?」

「そうじゃなくって、ここを出て行ったの」

「はぁ?」


この至れり尽くせりの魔塔を出て行くなんて、一体何を考えているのか。魔法を使うこと以外は何もしたくない運命の魔女にはさっぱりわからなかった。そんな運命の魔女を、お茶をしている二人の魔女が冷ややかに見る。


「ねえあなた、いつまでその仕事してるつもり?」

「へ?いや、戦争に勝つまでだよ」

「ふぅん、ずいぶん時間が掛かるのねぇ~」

「そりゃそうだよ!これは戦争が起きる前から運命を編み込んで編み込んで、こまか~~~く調整しててさあ!」


ゆっくりとバラの香りのお茶を飲み干して、恋の魔女が問う。


「で?私たちはいつまで、魔法を使えないのかしらぁ?」

「へ?」

「あなた、ずいぶん偉そうに「自分の仕事が終わるまで魔法を使うな」って言ってたけどぉ、それっていつまでぇ?」

「いや、だからさあ、しょうがないだろ?前の王様から頼まれて…」

「はっ」


(ことわり)の魔女が吐き出すように笑う。その時ようやく運命の魔女は、自分が二人に良く思われていないかもしれないと思い至る。


「あの、えっとぉ」

「時の魔女は、魔法も使えないならこんな場所にいてもしょうがないって、ずいぶん前に出て行ったよ。そりゃあ、何十年も魔法を使えないなら退屈にもなる」

「え…何十年?そんなに経ってたっけ?」


運命の魔女の言葉に、二人の魔女は呆れたように顔を見合わせる。


「自分で使うなって言っておいてぇ~、どれだけ止めてたかわかってないのぉ~?それって最低じゃなぁい?」

「え」

「私は劇場の舞台を見るのが好きだからここにいるけどさ、時の魔女はそういうんじゃないから」

「何でも自分で作って食べたりするのが好きだったよねぇ~。あとはよく知らないけど」


自分が魔法を使うなと言って、それに退屈して時の魔女が魔塔を出て行った。やっと運命の魔女は状況を飲み込む。


(これは…まずい)


魔女は自分の仕事を邪魔されるのを嫌う。そしてそれ以上に自由を奪われるのを嫌う。魔塔で暮らすも暮らさないも、魔女が条件を気に入るかどうかに過ぎない。

魔法を使うなと言ったところで、本来であればそれに従う必要もない。だが交渉はできる。この何十年の間、魔女たちが魔法を使わずにいたのは、交渉に応じていたというだけだ。王様の意向もあることだし、魔塔の暮らしは快適だし、魔法は少しくらい使わない期間があっても構わない…と。その条件が崩れるなら話は変わってくる。


「時の魔女に文句でも言いに行く?「報復」になったらどうするの?」

「ほ、報復…」


(ことわり)の魔女の言葉に、運命の魔女は青ざめる。魔女は自分に害を成した相手に報復をする。それは人間のような法律などはなく「魔女が何を害と感じたか」という主観が正当性を持つものだ。そして魔女の報復は容赦がない。魔女同士が基本的に不可侵なのはこの報復の習性も関係している。


「いやぁ…報復だなんて、私はそんなつもりじゃ…」

「もしぃ、時の魔女が報復するならぁ、私も手伝おうかしらぁ」

「はぁ!?」


恋の魔女がバラの形をした焼き菓子を口にしながら、楽し気に言う。


「だってぇ、私もお嫁に行った王女様に恋の魔法を使いたかったのにぃ~、あなたがだめって言うからぁ」

「いや、だってそれはっ」

「ああ、そいつはいいね。私も時の魔女に加担しよう」

「おい、(ことわり)の!」

「運命の。お前、(ことわり)が歪んでるの解ってるか?それはお前の管轄だったか?」

「…………」


運命の魔法を使うのに夢中になって、管轄を侵しているのに無神経になっていた。こういうルール破りの魔女が辿る道は、大抵が魔女の報復による死だ。

真っ青になって黙り込む運命の魔女を見て、理の魔女はため息を吐いた。


「まあ、私はいいよ。今は夢中になってる舞台があって機嫌がいいんだ」

「うふふ、今日は二人で見に行ったのよぉ、とっても素敵な恋のお話だったわぁ」

「だから、運命の。今の仕事をさっさと終わらせろ」


首の皮一枚で繋がった瞬間だった。それは運命の魔女も理解した。


「……っそ、そおだよねえ!あは、あははは、ちょーっと時間、掛かりすぎちゃったかなぁ?ずれた軌道はぁ、うんうん、そんなに大きくないからこのままでいっか!うん!じゃあ、私はさっさと仕事に戻るねえ!」


そう言うと、運命の魔女は駆け足で自分の部屋に戻って行った。遠くでドアを閉める大きな音がすると、二人の魔女は笑い出した。


「もぉやだぁ、時の魔女が報復なんて面倒くさいことするわけないじゃなぁい」

「時のはまずしないね。そんなことより菓子を焼いていたい奴さ。でもねえ」


(ことわり)の魔女はバラの形の焼き菓子を摘む。


「時のが山ほど焼いて、キッチンに置いてあった焼き菓子をさ。食べれなくなったのは残念なのさ」

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