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13◆セラフィーナの決意

本日、二話投稿です。

13◆セラフィーナの決意


「まさかあなたにまた会える日が来るなんて!今日はなんて素晴らしい日なの!」


屋敷のエントランスまで魔女が行くと、すでにセラフィーナが待っていた。少女だったセラフィーナは、今は外見だけは魔女と同じくらいに見える。


「久しぶりね、セラフィーナ姫」

「懐かしいわその呼び方!うふふ、いいわね。あなたはこれからもそう呼んでちょうだい。どうして魔塔から出てきたの?」

「今はもう魔塔にいないんだよ。あまりに仕事がなくてやめたんだ。ちょっと前にエルガの辺境地帯に引っ越してきたのさ」

「もー!早く言ってよ!なんでそんなところに引っ越すのよ!ここで暮らしたらいいじゃない!」

「奥様、おしゃべりはお茶と一緒にするのは如何ですか?温室に準備させました」


王女の教育係だった彼は、今は別邸の執事をしている。セラフィーナが滅多なことでは使わない自慢の温室にお茶の準備をさせたのは、主人の気持ちを汲んでいるからだ。


「ええ!ぜひあなたに見てほしいわ」

「これ、クッキー焼いたのよ」

「まああ!ねえアラン、これもお茶請けに持ってきてちょうだい!」

「かしこまりました」


セラフィーナは軽い足取りで魔女を温室に案内する。そのはしゃぎようはまるで少女の頃に戻ったようだ。その姿に執事の顔は綻ぶのだった。


「今日はね、私の使った魔法の話と、お願いごとにきたんだよ」

「まあ、あなた魔法を使ったの?お父様にも止められたのに?」

「魔塔を出たし、そんな約束は知らないよ」

「うふふ、そうね。どんな魔法を使ったの?」


興味津々にセラフィーナは聞く。しかし息子の嫁に関することだ、どう言ったものかと魔女はしばらく思案するが、何を言っても驚かせることになるだろう。ここは事実を淡々と述べようと話始める。


「エルガ公爵家に関係あるような、ないような魔法を使ったの」

「関係あるの?ないの?」

「関係は…ある、けど影響はない…?その確認はして時を巻き戻して縫い直したわ」


そして魔女はルルアのことを最初から話した。

ルルアが公爵家で殺されたこと。

それを巻き戻したこと。

だけどまた公爵家に嫁入りすることになってしまって、一計講じたこと。


「え?生きてるの?あの子の嫁は」

「生きてて、うちにいるのよ」

「…………アーネストは、犯人を指名手配してるわよ」

「そうなのよ。私、捕まったら殺されるかもしれないと思って、あなたを訪ねてきたのよ」


積もる話とか、思い出話に花が咲くと思っていれば、思いがけない話が飛び出した。懐かしい魔女のクッキーを、毒見もなく食べながらセラフィーナは考える。

侯爵家の娘が入り浸り、女主人のように振舞っているのは知っていた。だけどそれに苦言を呈するべきは本邸にいるイズナリオである。イズナリオが許していることに、セラフィーナは口を出す気はなかった。そのうちアーネストの嫁に迎えるつもりだろうかと思っていたし、実際その可能性は高かった。

だけど実際に嫁入りに決まったのはマリアベルの娘だった。それだけで嫁に会う気も失せた。アーネスト不在の馬鹿げた結婚式も黙って参列していたが、裏を取れば全て侯爵家の指示だという。これはあまりに横暴がすぎる、だけど手出しをしてマリアベルの娘の肩を持っているようになるのも嫌だ。そんな風に悶々と過ごしていたのだが、嫁入りして二か月でルルアがあんな死に方をしたのだ。

遺体も部屋も血塗れだが、遺体の損傷が一切ないという不思議な状態。死因を調べもせずに埋葬したのもローラの意向だった。アーネストが知らせを受けてる頃には埋葬済みであったのだが、戻ってきた時には墓の下に遺体すらない。現場にルルアの髪が投げ捨てられてあったのを見て今は犯人捜しをしているところだ。


「なんで髪なんて置いていったのよ」

「走るのに邪魔で切ったんだって」

「バカなの~~~~?」


どうしてそんな余計なことをするのか。そのおかげでセラフィーナは、公爵家の若奥様が自死したという、社交界で格好の醜聞を収める羽目になった。今はまだそっちで手いっぱいで「なぜルルアがそんなことをしたのか」という調査には至っていない。が、生きているということは、死を偽装して逃げ出すほどの何かが本邸にあったはずだ。


「ねえ、犯人捜しやめさせることできないかしら」

「…そうねぇ…」


セラフィーナは悩まし気におでこを抑える。マリアベルの娘はともかく、旧知の魔女に危険が及ぶのは望むところではない。

恐らく、できる。自分であれば。別邸に引っ込んでいようとも、セラフィーナは本来聡明だし胆力もある。いくら息子に遠慮があったとしても、捜索をやめさせるくらいは可能だろう。だけど自分が動くにはまだ材料が足りない。


「ねえ、巻き戻す前、マリアベルの娘はエルガの本邸で殺されたと言ったけど、その後のエルガ公爵家はどうなったの?」


今回は自死、巻き戻る前は殺害。どちらにせよエルガに嫁いできた女は死ぬ。「前回」があるのならその結果を聞いておこうとセラフィーナは思ったのだ。


「前回?随分前に編み直したからぼんやりしちゃってるけど…見てみるかい?」


時の魔女の巻き戻しは、巻き戻した時点の時をぶつ切りで終わらせ分岐を残すようなやり方ではない。そういう魔法を使われることもあるけども、時の魔女曰く「粗雑」である。

時の魔女は分岐などしないよう時を解き、過去の時点から編み直すので、分岐したルートがいつまでも残り続けるなんてことはない。「別次元」というものが存在しないのだ。

なので残った分岐を覗いて出来事を確認するということはできない。魔女の時の糸の持つ記憶を辿るのが頼りなのだが、その糸もいつまでも記憶を留めておくわけではない。

だいぶぼんやりしているが記憶は残っていた。魔女は巻き戻す前のエルガ公爵邸の未来を確認してセラフィーナに伝えた。


「まって、マデリナ侯爵家を取り潰して、その娘の首を刎ねたですって?アーネストが?」

「うん、そうだね」

「なんて馬鹿な真似を…何を考えているの」


それから先は、アーネストはセラフィーナに領地を任せ出征することになる。


「アーネストは勝ちがわからぬ戦に取られて、エルガ領も本邸も私が面倒見なくちゃいけなくて、更にマデリナ侯爵家を取り潰したおかげで、そっちの領地の面倒もこっちに投げられたですって…?」


なんだその最悪のシナリオは。ルルアが毒を盛られてアーネストの目の前で死に、その元凶である侯爵家の娘はアーネスト自ら始末をつけ、更に侯爵家を陥れて取り潰し、本邸は荒れ果て…。

その後始末が、全てセラフィーナに降りかかる。気が遠くなる、断じてやりたくない。そして思った以上に、アーネストの精神状態は危ういのかもしれない。妻を殺されたアーネストを見てしまえば、自分は引き受けたのだろうとも思う。


「セラフィーナ姫は上手くやっているよ」

「そうでしょうね!」


やれる、という確信はある。しかしそんなことやりたくないのだ。セラフィーナの心は決まった。心は決まったがセラフィーナは脱力する。エルガ公爵家とは、本当に自分を安らかにさせてはくれない。


「セラフィーナ姫?」

「…あなたが今日ここに尋ねて来てくれてよかったのかもしれないわ。今私が本邸に手出しをすれば、その最悪の状況は防げるはずよ」

「さすがオールマイティーね」

「そうよ、私にできないことなんてないんだから」


そう言いながらセラフィーナはカップのお茶を飲み干し、新しいお茶をメイドに言いつけた。

ふと、マリアベルの娘のことを思う。結婚式でたった一人の婚姻の誓いをしていたが、やけにはしゃいでいるように見えた。こんな式をされても、エルガ公爵家に嫁入りするのが嬉しいのかと半ば呆れもしたのだが、脱走を企てていたからだとは思わなかった。こんな破天荒なことをしでかす嫁は、やはり「一風変わった令嬢」であったマリアベルと似ているのかと思うと苛立ちを感じる。

しかし、そんなことでやる気を出したセラフィーナの心は挫かれることはない。セラフィーナにとって、巻き戻した後で確実に違っていることがある。もう一生会えないと思っていた、心許せる友人に再会できたことだ。それは何よりセラフィーナの心を強くするのだ。

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