2章の2 デートじゃないけどデートみたい
スシとキラは最初のチェックポイント・新潟からスタート。次の新津へ移動するため、ホームで発車を待つ電車に乗り込んだ。列車で20分程度の旅程だ。
バトルは72時間制限なので、できれば始発に乗って、一日の移動距離を長くするのが望ましい。だがスシとキラの家はともに駅から遠い隣町にある。キラの継父がキラの送り迎えをしなかったので、スシとキラは、キクハの車で駅まで来た。日付が変わってすぐくらいから出発の準備をしなくてはならなかったキクハ、スシ、キラは、始発ではなく2本目の列車を選んだ。
「うふふ。デートじゃないけどデートみたい」
「キラさん、そんな浮わついてると、ちょっと心配。今回のイベントがイベントだけに」
別のホームに電車が着いて、乗り継ぎの客が二人、スシたちの電車に乗ってきた。
「あっ」
「スシ先輩!」
スハとカニの、泥縄第一チームだった。地元でない分、前日から移動して出発地の近くに前泊して準備していたのだ。カニは、つい先日まで暮らしていたオロネの家に、やっかいになることもできたろう。だが勝手に家を出たのに、都合のいいときだけ世話になるのをよしとせず、宿で一夜を明かしていた。
スハは、スシの相方がキラなのを知って「ふーん」という顔をした。
「スシ先輩、さすがカニスシ盟友コンビですね。乗る電車まで一緒になるなんて」
「蟹寿司みたいに言わないで」
定刻の6時04分、新津方面行きが発車した。
キラが「あなたたちとは、馴れ合わないわ。これは真剣勝負。新津まで20分しかないんだから、あたしたちを邪魔しないで」という念をスハに送った。何を思ったか、スシにべたべたくっついて見せた。
「あー。マヤ先輩に言ってやろー」
スシは「カニくんのペアはスハさんなのか。オロネさんじゃないんだな」と小さく動揺していた。
(スハさんの人任せにしない性格からして、当然なんだけど)
「スシ先輩、今回のイベントのチェックポイントが、どうやって選ばれたか考えましたか?」
「有名な聖地巡礼作品に、ちなんでるんだろうね。あの花の・・・僕達はその先をよく知らない。」
「『あの花の』じゃなくて『あの日見た花の名前を』だし、『よく知らない。』じゃなくて『まだ知らない』ですからね。本当は全部知っているくせに、勝手に『その先を』とつけてボケるの、よくないですよ?」
「知らないでやったら、もっと大変なことになりそう」
「それで、今回のルートは、『あの花』の通常の聖地巡礼のコースからは外れてますよね」
「だからオレは、秩父は行くべきでは、と進言したんだけど」
「この手のイベントは、長くても72時間がいいところでしょう? 西武秩父に行くとなると、ほかを新幹線で回らないと苦しくなる。費用がかさむ」
「うーん」
「西武秩父と飯能は、スシ先輩があとでマヤ先輩と勝手に行ってください。このこの。もっとも、飯能に行ってしまうと、スシ先輩でない男子とマヤ先輩が、急接近するかも」
「現地でカニくんが、マヤさんを窮地から救って、そのあと口説いたりしたら。アウトかも」
「ほう、アウトって。マヤ先輩が自分の彼女でなくなるくらいで、ヒロインレースから外すんですか。自分、主人公気取りですか。スシ先輩も言うようになりましたね」
「ぐっ」
6時24分、電車は新津に停車した。イベントの決めごとに従い、4人は降りて改札を出た。両チームとも101キロ以上の切符を持ってるので、途中下車できるのだ。
そのあと建物の外観にある駅名表示の写真を撮った。キラは新聞部で常にデジカメを持ち歩いていたので、生き生きとしてシャッターを押していた。
運営の泥縄第三に写真を送ってから、駅近くのコンビニで食料などを調達し、再び改札を通って後続の電車を待った。
ホームには、両チームのメンバーが顔をそろえていた。泥縄第一のオロネ、第二のクロハ、マヤ。なんのことはない、みなスシたちと同じ電車で同じように移動しているのだ。イベントはペアで行動と指定されているので、出しゃばらないだけ。両チームとも全員参加の総力戦なのだ。
「キラだけど、あたしのルーティンは終わって残念。でもまた回ってくるから、そのときはよろしくね!」
キラはスシとハイタッチをしてから、ほかのメンバーにまざった。
7時05分、一行は長岡行きの電車に乗った。泥縄第一のペアはそのまま、第二のスシの相方は、一時的に空席となった。
(え? クロハさんもマヤさんも来てくれないの?)
「カニです。今回のイベントのチェックポイント6か所のうち、聖地巡礼作品のメイン6人と同じ駅名は、鶴見と安城だけ」
「残りのチェックポイント4か所は、どうやって選ばれたのかな? 」
「新潟駅は、新潟市中央区に『本間町』というところがあるので、その最寄りということでしょう」
「新津は?」
「汽車ぽっぽ、と言えば蒸気機関車だよね。日本でも少なくなった蒸機牽引の、SLばんえつ物語号の発駅が新津」
「カニくん、今回のイベントって、ほんとにスエくんとキロさんが企画したの? カニくんとスハさんが、やたら詳しいんだけど。第三のスエくんは、企画の細目が変えるなら自分で泥縄第一に連絡してくれって言ったし。やや門外漢ぽくもあったし」
「やだな、何を言うんだい。勝負に参加しているボクらが、そんなわけないだろう。そんなあなたに、カニのエンタメクイズ第2弾!」
「ごまかしたな」
スハが、手製のフリップを取り出した。カニのいつもの相方のオロネにはかなわなくても、助手としてよく動いていると、スシの目には映った。
「えー、エンタメ作品などで、男性主人公と結ばれる確率が一番高いのは、どういう属性のヒロインでしょうか? 『結ばれる』というのは、ほかのヒロインが全員脱落することを指し、必ずしも結婚や男女関係に至らなくてもいいとします」
「じゃあ1番」
「スシ先輩、選択肢を見る前に解答しないでください」
「はい」
「改めていきます。①女性作家の手による、年上ヒロイン」
「やっぱり1番でよさそう」
「②男性主人公と一緒に図書委員をやっているヒロイン」
「これもなんか強そう」
「③同居している、血のつながらない妹ヒロイン」
「血のつながらない姉というのは、すぐ近くで実例を見たけど、めちゃめちゃ相性がよさそうだったな。チッ」
「スシ先輩、なんですか、今の『チッ』は」
いつの間にかスシたちのすぐ近くに男性が立っていた。
「割り込み解答で恐縮ですが、2番!」
男性はワキ。「ないしょ1」で、スシの生徒会長選挙のライバル候補タキの選挙参謀を務め、社会人なのに白昼堂々、泥縄第二校舎に出入りしていた人物である。陸上部のトラックキャプテン・ワムが「魔性の女」と崇め奉ったキヤ(22歳女性)と、深い関係にある。
「じゃあオレは、最初の宣言どおり1番にしよう。ワキさん、お久しぶりですねえ。遠いところで再就職されたと聞いてますけど」
「ええ、そうなんですけど、そこは円満退職して、泥縄第二高校の講師になったんです」
「ああ、キクハ先生が言っていた講師の件は、ワキさんになったんですね?」
「はい」
「スシ先輩、積もる話はまたあとでしてください。スハが正解を発表します。スシ先輩とワム先生、どっちも正解です!」
「え?」
「カニです。実は①②③は全部、無敵ヒロインなんだ」
「なんだ、先に言ってよ、人が悪いな」
「調査サンプルはエンタメ作品3本ずつと多くはないけど、①②③のパターンとも鉄板過ぎて、後続作品が簡単にひっくり返せないので、データを増やしても傾向は変わらなさそうだ」
「ふんふん」
「①のパターンの傾向は、
・男性主人公と同い年か、年下のヒロインのうちの何人かは、途中から忘れられたように出なくなる
・そもそもライバル皆無ということもある
・男性主人公の意思表示は序盤。年上ヒロインはずっと好きなのに、男性に確約を与えるのはずっと先
など。自分より若いライバル相手に持久戦に持ち込み、粘り勝ちするのが常道。男性作家だと逆に、年上ヒロイン勝利は例が少ない」
「ふんふん」
「②のパターンの傾向は、
・男性主人公とヒロインは、図書室で一つ机で肩を並べて急接近
・図書委員の仕事の描写はたいてい1回こっきり
・図書委員でない男性主人公が図書委員女子と付き合うのは1例しか確認できておらず、明暗差が激しい
というところ。
③のパターンの傾向は、
・妹ヒロインが出番とセリフの多さで、ライバルを圧倒することが多い
・男性主人公は、なんだかんだ言って、妹ヒロインに勝てない
・そもそも最後に結ばれないのなら、わざわざ血のつながらない妹に設定する必要性が薄い」
「カニくん、スハさん、ありがとうございました。ところで、このクイズで出た話題は、『ないしょ3』の各ヒロインの、今後の展開を暗示してたりするの?」
「それはスシくん次第じゃないかな。それじゃあボクらは別の車両に引き上げるよ。勝負の世界は厳しいみたいだから」
「スシ先輩、泥縄第三生徒会の負債額ですけど、わたしたちは一日生徒会長のとき聞きました。385万円です」
「え」
「元本30万円だったとか、10分複利とか、そういうことはないそうです」
「新宿発甲府行きの特急に乗ったのかな?」
「6割程度が超空間トンネル試掘でできたものです。借金返済のために借金をする、危険水域に入っています」
スシは「世の中、そういうこともあるんだろうな」と、泥縄第三のスエとキロを責めたりできなかった。スハとカニは別の車両に移動した。




