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生徒会、ないしょの欠員3  作者: キュー山はちお
7章 どうかもめないで
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7章の1 校内の声なき声に配慮するためデス

 2月になったばかりの放課後。生徒会室に、スシ、クロハ書記次長(マヤ)、マヤ副会長(クロハ)、キラ、キヤ、ナハ、クモヤ、クモルが顔をそろえていた。社会人の3人はもう高校制服は着ておらず、OLスーツで決めていた。これだけの人数だとさすがに狭く、さらに来訪者も予定されているので、キラ、キヤ、クモルの3人は御神体に腰かけていた。

 この日は、4月からの新生徒会長の選挙の、立候補受付日だ。選挙管理委員長のレサが、統合校の選挙制度の決定事項を持って来ることになっている。

 生徒会室にいる主要メンバーには、立候補を取り沙汰《ざた》されている人が多いので、統合校になったあとの制度は、泥縄第一のオロネ、第二の職員のキヤ、旧第三のキロからなる第三者委員会が決めた。議論はもめにもめ、細部は立候補届け出の当日になっても、詰め切れていなかった。

 キヤが読んでいる本は、管理栄養士そのものに関するものから、管理栄養士の養成機関にまつわるものに変わっていた。キヤによると、4年制・全日制の養成機関を出ないと、国家試験の受験資格が得られないと、気づいたためであるという。

 そうこうしているうちに、一人目の訪問者が来た。

「ヤッホー、スシくん。DDだよ!」

 泥縄第二と縁もゆかりもない、社会人のDD。泥縄第三への居座りのとき、スシに救いの手を伸ばしてくれたDD。

「勇気りんりん! 熱血パワー! 新社会人DD!」

「いきなりイジりかよ。スシくん、あんなに暗かったのに、よくフリを覚えてたね」

 DDはスシに抱き付いた。クロハ書記次長(マヤ)が丁重に、二人を振りほどいた。

「ねーえ、スシくん。わたし実は免停になっちゃって。そしたら、就職の内定を取り消されちゃって」

「ええー? 軽く言ってるけど、どうするんですか?」

「まあ、同伴出勤とかノルマとかキツそうだったから、せいせいしてるけどね」

(やっぱり、そういう業態だったんだ)

「それで泥縄の理事長に相談したら、ぜひ泥縄ニーハン高校の寄宿舎の職員にというお誘いを受けたの。開設準備の前に、あたし今週中に入居するから。よろしくね、スシくん!」

 寄宿舎の責任者に内定しているキヤを除く、全員の顔色が変わった。

「あのう、まだ泥縄統合校のネーミングは決まってませんよ? しかもDDさん、『第二だけ残って第三が消えるような名前はイヤ』って、もっともらしいこと言って、自分で『ニーハン』なんて名前つけちゃって」

「バイクの250ccを普通『ニーハン』って言うから、それで行こうよ。『2・5』だとカッコ悪いし。250ccは1000ccの4分の1だから『クオーター』とも言うけど、それだと『祖父母が外国出身』という意味合いが強くなるから」

「クロハ書記次長(マヤ)だけど、新しい校名は、生徒会長選挙の争点なのね。だからあなたに勝手に決めてもらっちゃ困るの。わかる? 『ニーハン』という校名もカッコいいとは言い難いし」

 と、食ってかかったクロハ書記次長(マヤ)だったが、すぐに次の来訪者が現れた。

「ガチャッ。あらDDさん来てたのね」

「スシですけど、キクハ先生、なんの用ですか?」

「ごあいさつねえ。ここいらで、何か話題になることを、しないといけないと思って」

「いやな予感しかしない」

「先生ね、生徒会長選挙に立候補しようと思って。はい、これ届け出書類」

 社会人を除く全員が、げんなりした。

「マヤ副会長(クロハ)です。いくら生徒会規約に『教師は立候補できない』と書いてないといっても、非常識すぎます。もう少し校長代行という立場も考えてください」

「もちろん、当選しても会長にはならないわよ。スシくんを職務代行者に任命します」

「院政ってやつですか?」

「スシくん自身か、わたしが当選すれば、きみは今まで通り会長の椅子《いす》に収まれるわけ。当選確率が倍になるんだから、悪くない話でしょ?」

「利他選挙ですか? 悪くない話って、オレが当選したがっているならともかく」

 新聞部のナハが「そんなのありかよ」と思いつつも、いちおうキクハの言うことを書き留めた。

「選挙公約は『世界初の、校長と生徒会長の兼任に挑戦』。統合校の校名は『泥縄竜騎士高校』。この際『二』も『三』もなくしましょう」

「ナハですが、当選イコール公約実行で、追加の努力が必要ない。考えましたね。校名は、まったくオリジナリティがないですけど。新聞には『校長と生徒会長兼任て、そりゃ世界初だろうけど、たとえ名目でもそんなの許していいのか? 過度の権力集中、生徒への圧力だ!』と書きますよ」

「外部にはナイショで、こっそり選挙にだけ出るんだから。あまり騒ぎ立てないで」

 新聞用メモを書き終わると、ナハはキクハを部屋から追い出そうとした。

「スシくん、じゃあねえー。あ、そうそう。詳細は言えないけど、タキくんは学内公民権停止処分にしたから、選挙には出られないわよ」

「罪状は?」

「えっと、みぃ、デート」

 平穏が訪れた。しかし1分もたたないうちに、次の訪問者が来た。

「ハイ、エースです。と言っても某ワンボックスカーではないデス。バレーボール部2年デス」

「スシですけど、留学生《とめまなお》エースさん、なんの用ですか」

「部長のレサが『同じ部から二人行くこともない』と言うノデ、選挙管理委員長の代理として来まシタ」

「そうですか」

「あと、ワタシが生徒会長選挙に立候補シマス」

「そっちの用事のほうが大きいんじゃないの? 選管委員長代理と候補者って、兼務できるの?」

「マヤ副会長(クロハ)です。そういうことなら、わたしが選管委員長代理を引き受けます。エースさんが出ると、レサさんも中立を完全に保つのは難しいでしょう。そういうわたしも、スシくんの味方ができなくなるのはつらいのですが」

 クロハ書記次長(マヤ)がマヤ副会長(クロハ)を「ふ~ん」という目で見た。

「エースですガ、レサから頼まれたことを、スシくんに一方的に伝えマス」

「言い方!」

「会長選挙は、泥縄第二と泥縄第三の出身者の割合がだいぶ違うので、このままでは公平でナイ。そこで

アマチュアゴルフや、中央競馬のハンデ戦のように、ハンディキャップを設定しマス」

「何それ」

「スシくんは人数最大の泥縄第二の現職会長なので、ハンディキャップはナシ。キラさんは少数派の泥縄第三の現職会長なので、プラス57票。あと出そうな人は、会長経験者ならプラス59票、そうでなければプラス63票デス。ハンデの票数を得票数に加算して、総数で当選を決めマス」

「ハンデGⅡ《ジーツー》並みの酷《こく》な斤量差《きんりょうさ》だ。3歳と牝馬の2キロ減もあるんでしょ?」

「クロハ書記次長(マヤ)だけど。そこはまず『生徒会長選挙にハンディキャップなんて、いかがなものか』だろう?」

「エースです。統合の余波があるので、今回に限り、生徒は【選挙区】と【比例区】にそれぞれ投票できるものとします。あと今回に限り、匿名《とくめい》立候補を認めマス。校内の声なき声に配慮するためデス。立合《たちあい》演説会では、ケージに入れて逆光照明で顔をシルエットにして、歌ってもらいマス」

「クモルだけど、本職の歌手として、聞き捨てならないわね」

「選挙の細目については、こんなところですカネ。ここから候補者としてですが、はっきりとは言えないけどワタシは、帰化申請に少しでも有利になればいいと思って、立候補するのデス。当選しても部活は抜けられないので、キクハ先生のマネして、職務代行者にスシくんを任命しマス。役員人事さえ意のままにできれば満足デス」

「何言ってるの、このひと」

 ナハが「公約は『女バレの全国大会での躍進』、校名は『泥縄アタック2・5高校』」というのを聞き出して、エースを部屋から追い出そうとした。

「スシさん、女バレが全国大会4強入りできたの、アナタや役員のみなさんのおかげデス! ありがとうございマシタ! ワタシ、なりゆきで本当に『エース』という名前にされるとは思わなかったけど、なった以上は、574話を過ぎても生きていられるように頑張りマス」

 エースと入れ替わりに、スハとマロフが入って来た。マロフは泥縄第一併設中学の生徒会副会長の男子で、高校と兼任の会長・スハをサポートする役割だ。交流体育祭では、スシと100メートル走のタイマン勝負をして、ぶっちぎって大恥をかかせたこともある。

 スハとマロフは午前中で授業を切り上げ、新幹線で泥縄第二に乗り込んで来た。

「スシ先輩! こんにちは!」

「スハさん、きょうはマロフくんも一緒なんだね」

「マロフです。はい、これ」

 マロフは、マヤ副会長(クロハ)に書類を手渡した。

「もし泥縄第二の会長選挙で勝てたら、ボクは泥縄第二に進学します」

「あんまり軽はずみなこと、言わない方がいいよ、マロフくん。きみ泥縄第一のプリンスじゃないか。だいたい、いま時点で中学3年のひとが、4月からの会長を決める選挙に、出られるものかな?」

「『統合の混乱を突いた、いまがチャンスだ』とDDさんは言ってくれました」

「余計なことしか言わないし」

「DDだけど、何か言った? スシくん」

「スシだけど、マロフくんのいる泥縄第一は、統合と関係ないじゃん」

「当選したら、泥縄第二の一般入試を受けます。当選しなかったら、そのまま泥縄第一に残ります。ボクは進学だからそうできるけど、これがスハだったら、既に泥縄第一高校に飛び級入学しているので、第一に所属したまま第二に出向《しゅっこう》して、第二の校舎に通うことになるそうです」

 高校生が出向などというと、普通は「変なの」となる。ただ泥縄第二生徒会では、クロハが変名で泥縄第一に出向した前例があり、けっこう身近ではあった。

 ※出向=社員が企業に籍《せき》を残したまま、他の企業で一定期間勤務する人事制度。「ないしょシリーズ」では、学校生徒にも適用されることとなっている。


「立候補と受験の順番が逆だと思うけどねえ。スハさんは、マロフくんが泥縄第二に来てもいいの?」

「当選するわけないですよ。悪いけど、コイツは第二と第三の生徒の間では、わたしほどの知名度がないですから」

 キラは、スハの目を見て、探りを入れた。

(マロフくんを操って、何か企んでいるわけではなさそう)


 クロハ書記次長(マヤ)のところに、泥縄第三のキロからと、泥縄第一のオロネから、立て続けに電話があった。第三のスエとキロは統合校舎の寄宿舎に入居を希望していたが、状況が変わって来た、という連絡だ。


 床に書類が落ちた。スハが拾って、クロハ書記次長(マヤ)に渡した。

 ナハは、面倒だったのか、マロフとスハにまとめて話を聞いた。公約は『兄弟校と親睦《しんぼく》を深める』『兄弟校と友好を深める』。校名は『泥縄ゴールデン高校』『泥縄~体育座り~高校』。ナハはそこまで聞き終わると、先の二人同様、マロフとスハを生徒会室から追い出した。

「スシだけど、となりの県から来てくれたのに、ひどい扱いだ! スハさんマロフくん、ごめんね! 書類は送ってくれてもよかったんだよ!」

 スハとマロフは、異様なほど大人しく、引き揚げて行った。

「マヤ副会長(クロハ)です。立候補はきょうの下校時刻に締め切ることになっていますが、いかがでしょう?」

 マヤ副会長(クロハ)は、ぱっと見わかるレベルで、スシに圧をかけた。クロハ書記次長(マヤ)も同調した。クモルクモヤは、面白がって見ていた。キヤとDDは、3月からのスシの扱いについて、堂々と密談をしていた。

「あ、じゃあ、キラです。いっぱい出るからどうしようかと思ったけど、マヤ副会長(クロハ)がそう言ってくれるから、立候補します」

 キラはそそくさと、あらかじめ用意してあった書類を、マヤ副会長(クロハ)に渡した。

「マヤ副会長(クロハ)ですが、そういうつもりでは言ってないです」

「あたしキラは、泥縄第三の会長になって1か月くらいだけど、それだけで任期が終わっちゃったら、カッコ悪いな、と思ってたのね。公約は『会長・副会長の慣わしは、あたしの代までは維持、次の選挙の前に廃止』。校名は『泥縄ブラフ高校』」

「なんて自己中心的な公約!」

「じゃあやめて、『少子化対策推進』にします」

「今度はやけに大きく出たわね」




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