6章の6 彼氏として成長するのを見守ることかな
キクハ校長代行は、きょうこの日の、いろいろなことが、思い出されてきた。
キラは、くじの棒を持ち替えた。
キクハ校長代行が、ふっと目を閉じている間に、キラが箱からくじを引いた。
キラが理事たちに向けて見せた、くじの先は。
真紅の印。
「ふう」
「理事長です、当たりです! 系列大学附属泥縄高校の校舎統合は『泥縄第二高校の移転先に第三を統合』に決定いたしました!」
キヤがキラに、ミスコンテスト世界大会ふうの優勝ガウンを着せ、王冠を載せた。ホール室の扉が勢いよく開けられ、泥縄第二代表団と、スハ、カニ、オロネ、スエ、キロが突入してきた。
キクハ校長代行は、体が勝手に拍手していた。
(キラさん、豪運っていうのは、こういうのを言うんだね。ありがとう。ほんと、ありがとう!)
キラが走って来て、キクハ校長代行に抱きついた。キクハ校長代行がキラをいいコいいコして、二人とも泣き出した。
キクハ校長代行の両脇に、クロハ書記次長とマヤ副会長が来た。
「ひそひそ、スシくん。きょう超絶な働きぶりのキラさんですけど、スシくんがメロメロにならないでくださいね?」
「ひそひそ、スシおまえ、今回ジツはあんまり働いてないよな? 偉かったのはキロとスハとキラちゃんで」
第二代表団と第一、第三の役員が、キラをまた胴上げした。それが終わると、キロがキクハ校長代行を胴上げするように指示した。
「!」
キロは、すぐに胴上げをやめさせた。
「ひそひそ、スシくん、その、なんか、ゴメンね」
「ひそひそ、なんで?」
最後はスエを胴上げして、代表団は散った。
理事長と隣町町長が、キクハ校長代行に握手を求めてきた。それまで大願成就した実感が湧いていなかったが、急にうれしさがこみあげて来て、涙がこぼれた。
「理事長です。おめでとう。・・・だけど、うれしいときに水を差すようで申し訳ないが、今回の決定は、泥縄第三出身の生徒が全員卒業する、2年ちょっと先までに限ってのこと。その先はまた改めて考えることになる。2校分の教職員を1校に置くのは、やはり数が多すぎるのでね。折を見て県立高校や、泥縄第一、あるいはほかの私立へ転出してもらうことになる。先方が受け入れてくれればだけど」
「こんなに苦労して第二・第三の統合を勝ち取っても、将来的には第一にまとめられちゃうんですか?」
「即答はできないけどね」
クロハ書記次長がキクハ校長代行に耳打ちした。
「ひそひそ、おまえ、『オレは卒業しちゃうから関係ねえや』とか思ってないだろうな」
「ひそひそ、思うわけないでしょ(汗)」
「町長です。寮の候補として、あなたが挙げられた建物は、うちの町にある工場跡に付随するものですよネ。よござんす、寄宿舎関係の賃貸や修繕の費用は、多少なら町で面倒みまショウ」
「やったあ!」
「その代わり、スシくんがキラを、お嫁にもらってくれるといいデス」
「え?」
「ハッハッ。町長がそんな交換条件つけるわけありまセン。もちろん冗談デス」
「冗談に聞こえませんよ?」
「冗談ですが、実行してもらっても、いっこうに構わないというだけデ」
クロハ書記次長とマヤ副会長が、割って入った。
「クロハ書記次長ですけど、町長さん、キクハ校長代行に変なこと吹きこむの、やめてください!」
「マヤ副会長ですけど、わたしたち、そう簡単にスシくんと別れませんから!」
クロハ書記次長とマヤ副会長が協力して、キクハ校長代行を小脇に抱えて連れ去った。
町長は、ぐっと拳を握って「手ごたえあり」というような顔をしたあと、理事長と談笑した。
帰りの新幹線の車内。一行はあまりのうれしさに、騒ぎたいところだったが、マヤ副会長の言いつけで、修学旅行の移動のようなつつましさを見せた。
「泥縄第三高、700キロ離れた系列の第二に統合へ 第一に第二を統合する当初計画を転換」という記事がネットニュースに出て、目にした生徒の間で盛り上がりを見せた。
「キクハ校長代行ですけど、そういえばキヤさん、なんでいるんですか? 東京に残って理事長秘書の仕事をしなくていいんですか?」
「さきほど人事異動となりまして、正式に泥縄第二高校の職員となりました。よろしくお願いします」
「えー!」
「管理栄養士の勉強を始めたんですよ?」
「キヤさん! あなたって人は! あ、ありがとうございます!」
キクハ校長代行は、キヤに耳打ちした。
「ひそひそ、寮母さんになっても、スパイはスパイなんですか?」
「ひそひそ、わたしはまだ寮母になるとは言ってませんよ? なってほしければ、ひとつだけ条件があります」
「ひそひそ、なんですか?」
「ひそひそ、スシさんも、わたしと一緒に寮に住んでくれること」
「ひそひそ、え! それはオレの一存では決められない」
「ひそひそ、ふふっ、スパイを続けるかどうかは、またこんどお話しますね」
キクハ校長代行に、キロからメールが来た。
「いいですか、スシくん。統合校の初代生徒会長選挙では、各候補が学校名をそれぞれ考えて、有権者の投票で決めるようにすると、盛り上がるわ!」
「キロさん、壮大なことを言い出した! でも普通、学校名は生徒が考えるものじゃないけど。だいたい、いい校名を考えれば当選だなんて、おかしくない? 本人が考えるとは限らないだろうし」
返信してすぐ、返信がきた。
「第三がくっついたあとも『泥縄第二』のままにしておけば、『どうして第一だけで、第二と第三がないの?』と聞かれずに済む、とか思わないでよね! 第二がそのままだと、第三が吸収されて無くなるみたいだから、だめ! 第三も新たな学校名の中に息づいている、みたいなネーミングでないと、却下!」
「むちゃくちゃハードル高いけど、でもオレ、そんなの思いつくかなあ?」
「みんなに手伝ってもらってもいいわよ。わたしは、第二と第三の平均を取るといいと思うわ! 両校出身者が半分笑って半分泣いて、みたいになるじゃない!」
キクハ校長代行は、スマホをしまい、役員の仲間のほうに向き直った。
「えー、大きい義理のコーナーです。みなさんに、泥縄第二と第三が統合した高校の名前を考えてもらおうかと。早いなクロハ書記次長」
「泥縄学園高校」
「よく聞くパターンだけど、『学園』が付くか付かないかで別々の学校ということが多いから、それだと泥縄とは別系列と受け取られるかも。1枚取って! はい、マヤ副会長」
「泥縄泥高校」
「上から読んでも下から読んでも同じにするわけね! でも、学校名に『泥』の字が二つはキツくない? 1枚取って! はい、スハさん」
「じゃあ縄泥高校。泥の字は1コ」
「ひっくり返すパターンは、一周回って新鮮かも。1枚あげて。はい、オロネさん」
「ニュースーパー泥縄高校、もしくは、泥縄~伝説の扉がいま開く~高校」
「わははは。恥ずかしすぎ! とくに後者、学校名なのかよ。1枚取って! はい、カニくん」
「泥縄東京高校」
「所在地は東京じゃないでしょ!」
「東京にないのに東京とつく高校は、いっぱいあるじゃないか」
「あわよくば東京在住者が間違って受験しないかと、期待してないよね? 1枚取って! はい、キラさん」
「新東京国際泥縄高校」
「成田国際空港の昔の名前みたい! なんかスーっと頭に入って来そうで、コワイんだけど。1枚あげて」
「クロハ書記次長だけど、キクハ校長代行は、スハやキラちゃんにだけ甘いんじゃないか? 同じ生徒会長だからか?」
「えー、そんなことないよ」
「マヤ副会長ですけど、この件について、キロさんはどう言ってますか?」
「え? そんな、とくに何も」
マヤ副会長は、キクハ校長代行が隠しておいたスマホを奪った。スシに化身するとき使うこともあるので、やすやすとパスコードを入力して、キロのメールを見た。
「ふむふむ」
キクハ校長代行は、キロの言うことを気にしないようにしてきたが、マヤ副会長は容赦なく、つついてきた。
「第二と第三の平均ですか。(2+3)÷2で、2.5ってことですよね。泥縄第二・五高校。でもこれだと泥縄二と五? みたいに混乱を招くので、泥縄2・5高校がいいかも」
「よくないでしょ! 小数が入った学校名なんて聞いたことない。アプリケーションソフトのバージョンじゃないんだから」
「クロハ書記次長は思うけど、2・5なら大丈夫じゃないか? 6.5や9.5だと、各方面から何か言われるかもしれないけど」
「スハです。泥縄第一の人間として思うのは、校名変更で『第二』と『第三』がいっぺんになくなると、世間から『どうして第一は第一のままなのか』という疑問をぶつけられかねません。2・5なら、うちが1・0ということで、説明しやすくていいと思いますよ、キクハ校長代行」
(みんなキロさんに騙されてるー!)
マヤ副会長が、キクハ校長代行とクロハ書記次長とキラを、デッキに呼び出した。キヤも勝手についてきた。
「どうしたの? マヤ副会長?」
「わたし、ここのところのクロハ書記次長の様子、とくにキャラのブレを見ていて、ある仮説を立てたんです」
「ふうん、そんなにあたし、ブレてるかなあ?」
「『困った女先輩』と『頼れる姉御肌』が、まだらに見られるの」
「それで、仮説というのは?」
「マヤはもともと、化身にこれ以上ないほど打ち込んで、その結果、何かが憑依したように超常的な冴えを見せているのだと思っていました。でも、マヤはわたしやキクハ先生に化身すると、化身相手とは全然違う人格に支配されたようになる。これは、実は」
キクハ校長代行は、息を飲んだ。
「本当に何かが憑依しているのでは」
「え」
「なに言ってるのさ、マヤ副会長ってば。あたしがそんなだなんて、はは」
「キヤです。そういうことなら、マヤさんなら当たり前に答えられるはずの質問を、ぶつけてみましょう」
「え、なに、うそ、やめて」
「行きますよ」
「・・・・」
「あなたの誕生日を教えてください」
「4月2日・・・じゃなくって、えーとね、1月」
その場の人間は、みな息をのんだ。
「4月2日というと、スシさんの誕生日と同じですが?」
「うーん。黙秘、しようと思ったけど、そういうのガラじゃないね。しょうがない、あたしのことについて、答えるは答えるけど、それが正確かどうかは各自で検証してよ」
「わかりました」
「あたしはね、ちゃんと生まれてたら、4月2日生まれだった、と思う」
「あなたは世間一般的に言って、生きている人ですか? 亡くなっている人ですか?」
「死んでる人、と思う。死んだのは生まれる前なので、法律上は、生まれてないことになっている」
「あなたの死因は?」
「逆子だったので、へその緒が首に絡まって、あえなく・・・というところだと思う」
「新生児のころの記憶ですから、当人の体験というより、そのあと周囲の会話から得た知識のようですね」
「うん」
「あなたは、誰ですか?」
「あはは。もう、ごまかせないね。あたしは、そう、スシの双子の妹です。逆子でなかったら先に生まれて、姉だったのかも。うちらは二卵性双生児だったのです」
「いつからマヤさんに憑くようになったのですか?」
「マヤちゃんが、クモルクモヤのオーディションで東京行って、戻ったあたり。それでもしばらくは、あたしら中でじっとしてたよ。ひそひそ、マヤちゃんはもともと、化身すると中身も別なヤツになる気質なんだ」
その場のメンバーから、押し殺したような声が漏れた。
「でも、憑いている女はもう一人いるけど、あたしはまだ普通だよ。もう一方は、前世がネアンデルタール人の女だから」
「えーーー!」
キヤは、倒れそうになるのを必死にこらえ、質問を続けた。
「あなたの現在の楽しみは、何ですか?」
「スシが女と付き合って、その女のいいところを見出せるようになって、彼氏として成長するのを見守ることかな」
「見守るスタンスとのことですが、あなた自身が、スシさんの恋愛対象になることもあるのですか?」
「きょうだいだから、考えたことなかった。と言いつつ、前にスシに『あたしと付き合わないか』って言ったこと、あったね。体は他人だから、ワンチャン大丈夫かなあ?」
「マヤ副会長ですけど、キヤさん! そういう方向へ持って行かないで!」
キヤはほかの女子全員から、敵意丸出しの物理的なツッコミを受けた。
クロハ書記次長だけニコニコで、あとのメンバーは呆然として、座席に戻った。
(マヤ副会長ですけど、今後のスシくんとマヤ、そしてわたしは、どう転んでいくか、まったくわからなくなりました・・・)
「スハですけど、ねえキクハ校長代行。誰でもマヤ先輩に化身すれば、スシ先輩の彼女と名乗っていいというの、本当ですか?」
「本当なような、本当ではないような」
クロハ書記次長、マヤ副会長、キヤ、キラが一斉に、キクハ校長代行に刺すような視線を投げかけた。
(ひいい!)
列車はスシたちのホームタウンに着いた。ホームに、サングラス姿の謎の女が出迎えた。
(キクハ先生本人が来たから、オレはまもなく元の姿に戻れる。家に帰れる。よかった。・・・でも世の中には、国外であらぬ容疑を着せられて収監されたままの企業人もいる。一刻も早い全員の解放を願ってやまない)
【エンディングテーマ「泥縄第二高校校歌」】
ガラス越しの君の瞳 どこかせつなげで
何か手伝えることないかと 言い出していた
違う人になれはしないけど 君思い
歌い続けた春の日 泥縄第二高校
(作詞・キュー山はちお)
https://www.youtube.com/watch?v=DZmdDunbpbs




