↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生徒会、ないしょの欠員3  作者: キュー山はちお
6章 はやぶさ おかえり
PR
39/42

6章の6 彼氏として成長するのを見守ることかな

 キクハ校長代行(スシ)は、きょうこの日の、いろいろなことが、思い出されてきた。

 キラは、くじの棒を持ち替えた。

 キクハ校長代行(スシ)が、ふっと目を閉じている間に、キラが箱からくじを引いた。

 キラが理事たちに向けて見せた、くじの先は。

 

 真紅《しんく》の印。


「ふう」

「理事長です、当たりです! 系列大学附属泥縄高校の校舎統合は『泥縄第二高校の移転先に第三を統合』に決定いたしました!」

 キヤがキラに、ミスコンテスト世界大会ふうの優勝ガウンを着せ、王冠を載せた。ホール室の扉が勢いよく開けられ、泥縄第二代表団と、スハ、カニ、オロネ、スエ、キロが突入してきた。

 キクハ校長代行(スシ)は、体が勝手に拍手していた。

(キラさん、豪運《ごううん》っていうのは、こういうのを言うんだね。ありがとう。ほんと、ありがとう!)

 キラが走って来て、キクハ校長代行(スシ)に抱きついた。キクハ校長代行(スシ)がキラをいいコいいコして、二人とも泣き出した。

 キクハ校長代行(スシ)の両脇に、クロハ書記次長(マヤ)とマヤ副会長(クロハ)が来た。

「ひそひそ、スシくん。きょう超絶な働きぶりのキラさんですけど、スシくんがメロメロにならないでくださいね?」

「ひそひそ、スシおまえ、今回ジツはあんまり働いてないよな? 偉かったのはキロとスハとキラちゃんで」

 第二代表団と第一、第三の役員が、キラをまた胴上げした。それが終わると、キロがキクハ校長代行(スシ)を胴上げするように指示した。

「!」

 キロは、すぐに胴上げをやめさせた。

「ひそひそ、スシくん、その、なんか、ゴメンね」

「ひそひそ、なんで?」

 最後はスエを胴上げして、代表団は散った。

 理事長と隣町町長が、キクハ校長代行(スシ)に握手を求めてきた。それまで大願成就した実感が湧いていなかったが、急にうれしさがこみあげて来て、涙がこぼれた。

「理事長です。おめでとう。・・・だけど、うれしいときに水を差すようで申し訳ないが、今回の決定は、泥縄第三出身の生徒が全員卒業する、2年ちょっと先までに限ってのこと。その先はまた改めて考えることになる。2校分の教職員を1校に置くのは、やはり数が多すぎるのでね。折を見て県立高校や、泥縄第一、あるいはほかの私立へ転出してもらうことになる。先方が受け入れてくれればだけど」

「こんなに苦労して第二・第三の統合を勝ち取っても、将来的には第一にまとめられちゃうんですか?」

「即答はできないけどね」

 クロハ書記次長(マヤ)がキクハ校長代行(スシ)に耳打ちした。

「ひそひそ、おまえ、『オレは卒業しちゃうから関係ねえや』とか思ってないだろうな」

「ひそひそ、思うわけないでしょ(汗)」 

「町長です。寮の候補として、あなたが挙げられた建物は、うちの町にある工場跡に付随《ふずい》するものですよネ。よござんす、寄宿舎関係の賃貸や修繕《しゅうぜん》の費用は、多少なら町で面倒みまショウ」

「やったあ!」

「その代わり、スシくんがキラを、お嫁にもらってくれるといいデス」

「え?」

「ハッハッ。町長がそんな交換条件つけるわけありまセン。もちろん冗談デス」

「冗談に聞こえませんよ?」

「冗談ですが、実行してもらっても、いっこうに構わないというだけデ」

 クロハ書記次長(マヤ)とマヤ副会長(クロハ)が、割って入った。

「クロハ書記次長(マヤ)ですけど、町長さん、キクハ校長代行(スシ)に変なこと吹きこむの、やめてください!」

「マヤ副会長(クロハ)ですけど、わたしたち、そう簡単にスシくんと別れませんから!」

 クロハ書記次長(マヤ)とマヤ副会長(クロハ)が協力して、キクハ校長代行(スシ)を小脇に抱えて連れ去った。

 町長は、ぐっと拳を握って「手ごたえあり」というような顔をしたあと、理事長と談笑した。


 帰りの新幹線の車内。一行はあまりのうれしさに、騒ぎたいところだったが、マヤ副会長(クロハ)の言いつけで、修学旅行の移動のようなつつましさを見せた。

 「泥縄第三高、700キロ離れた系列の第二に統合へ 第一に第二を統合する当初計画を転換」という記事がネットニュースに出て、目にした生徒の間で盛り上がりを見せた。

「キクハ校長代行(スシ)ですけど、そういえばキヤさん、なんでいるんですか? 東京に残って理事長秘書の仕事をしなくていいんですか?」

「さきほど人事異動となりまして、正式に泥縄第二高校の職員となりました。よろしくお願いします」

「えー!」

「管理栄養士の勉強を始めたんですよ?」

「キヤさん! あなたって人は! あ、ありがとうございます!」

 キクハ校長代行(スシ)は、キヤに耳打ちした。

「ひそひそ、寮母さんになっても、スパイはスパイなんですか?」

「ひそひそ、わたしはまだ寮母になるとは言ってませんよ? なってほしければ、ひとつだけ条件があります」

「ひそひそ、なんですか?」

「ひそひそ、スシさんも、わたしと一緒に寮に住んでくれること」

「ひそひそ、え! それはオレの一存では決められない」

「ひそひそ、ふふっ、スパイを続けるかどうかは、またこんどお話しますね」

 

 キクハ校長代行(スシ)に、キロからメールが来た。

「いいですか、スシくん。統合校の初代生徒会長選挙では、各候補が学校名をそれぞれ考えて、有権者の投票で決めるようにすると、盛り上がるわ!」

「キロさん、壮大なことを言い出した! でも普通、学校名は生徒が考えるものじゃないけど。だいたい、いい校名を考えれば当選だなんて、おかしくない? 本人が考えるとは限らないだろうし」

 返信してすぐ、返信がきた。

「第三がくっついたあとも『泥縄第二』のままにしておけば、『どうして第一だけで、第二と第三がないの?』と聞かれずに済む、とか思わないでよね! 第二がそのままだと、第三が吸収されて無くなるみたいだから、だめ! 第三も新たな学校名の中に息づいている、みたいなネーミングでないと、却下!」

「むちゃくちゃハードル高いけど、でもオレ、そんなの思いつくかなあ?」

「みんなに手伝ってもらってもいいわよ。わたしは、第二と第三の平均を取るといいと思うわ! 両校出身者が半分笑って半分泣いて、みたいになるじゃない!」

 キクハ校長代行(スシ)は、スマホをしまい、役員の仲間のほうに向き直った。

「えー、大きい義理のコーナーです。みなさんに、泥縄第二と第三が統合した高校の名前を考えてもらおうかと。早いなクロハ書記次長(マヤ)」

「泥縄学園高校」

「よく聞くパターンだけど、『学園』が付くか付かないかで別々の学校ということが多いから、それだと泥縄とは別系列と受け取られるかも。1枚取って! はい、マヤ副会長(クロハ)」

「泥縄泥高校」

「上から読んでも下から読んでも同じにするわけね! でも、学校名に『泥』の字が二つはキツくない? 1枚取って! はい、スハさん」

「じゃあ縄泥高校。泥の字は1コ」

「ひっくり返すパターンは、一周回って新鮮かも。1枚あげて。はい、オロネさん」

「ニュースーパー泥縄高校、もしくは、泥縄~伝説の扉がいま開く~高校」

「わははは。恥ずかしすぎ! とくに後者、学校名なのかよ。1枚取って! はい、カニくん」

「泥縄東京高校」

「所在地は東京じゃないでしょ!」

「東京にないのに東京とつく高校は、いっぱいあるじゃないか」

「あわよくば東京在住者が間違って受験しないかと、期待してないよね? 1枚取って! はい、キラさん」

「新東京国際泥縄高校」

「成田国際空港の昔の名前みたい! なんかスーっと頭に入って来そうで、コワイんだけど。1枚あげて」

「クロハ書記次長(マヤ)だけど、キクハ校長代行(スシ)は、スハやキラちゃんにだけ甘いんじゃないか? 同じ生徒会長だからか?」

「えー、そんなことないよ」

「マヤ副会長(クロハ)ですけど、この件について、キロさんはどう言ってますか?」

「え? そんな、とくに何も」

 マヤ副会長(クロハ)は、キクハ校長代行(スシ)が隠しておいたスマホを奪った。スシに化身するとき使うこともあるので、やすやすとパスコードを入力して、キロのメールを見た。

「ふむふむ」

 キクハ校長代行(スシ)は、キロの言うことを気にしないようにしてきたが、マヤ副会長(クロハ)は容赦《ようしゃ》なく、つついてきた。

「第二と第三の平均ですか。(2+3)÷2で、2.5ってことですよね。泥縄第二・五高校。でもこれだと泥縄二と五? みたいに混乱を招くので、泥縄2・5高校がいいかも」

「よくないでしょ! 小数が入った学校名なんて聞いたことない。アプリケーションソフトのバージョンじゃないんだから」

「クロハ書記次長(マヤ)は思うけど、2・5なら大丈夫じゃないか? 6.5や9.5だと、各方面から何か言われるかもしれないけど」

「スハです。泥縄第一の人間として思うのは、校名変更で『第二』と『第三』がいっぺんになくなると、世間から『どうして第一は第一のままなのか』という疑問をぶつけられかねません。2・5なら、うちが1・0ということで、説明しやすくていいと思いますよ、キクハ校長代行(スシ)」

(みんなキロさんに騙《だま》されてるー!)


 マヤ副会長(クロハ)が、キクハ校長代行(スシ)とクロハ書記次長(マヤ)とキラを、デッキに呼び出した。キヤも勝手についてきた。

「どうしたの? マヤ副会長(クロハ)?」

「わたし、ここのところのクロハ書記次長(マヤ)の様子、とくにキャラのブレを見ていて、ある仮説を立てたんです」

「ふうん、そんなにあたし、ブレてるかなあ?」

「『困った女先輩』と『頼れる姉御肌《あねごはだ》』が、まだらに見られるの」

「それで、仮説というのは?」

「マヤはもともと、化身にこれ以上ないほど打ち込んで、その結果、何かが憑依《ひょうい》したように超常的な冴えを見せているのだと思っていました。でも、マヤはわたしやキクハ先生に化身すると、化身相手とは全然違う人格に支配されたようになる。これは、実は」

 キクハ校長代行(スシ)は、息を飲んだ。

「本当に何かが憑依しているのでは」

「え」

「なに言ってるのさ、マヤ副会長(クロハ)ってば。あたしがそんなだなんて、はは」

「キヤです。そういうことなら、マヤさんなら当たり前に答えられるはずの質問を、ぶつけてみましょう」

「え、なに、うそ、やめて」

「行きますよ」

「・・・・」

「あなたの誕生日を教えてください」

「4月2日・・・じゃなくって、えーとね、1月」


 その場の人間は、みな息をのんだ。


「4月2日というと、スシさんの誕生日と同じですが?」

「うーん。黙秘、しようと思ったけど、そういうのガラじゃないね。しょうがない、あたしのことについて、答えるは答えるけど、それが正確かどうかは各自で検証してよ」

「わかりました」

「あたしはね、ちゃんと生まれてたら、4月2日生まれだった、と思う」

「あなたは世間一般的に言って、生きている人ですか? 亡くなっている人ですか?」

「死んでる人、と思う。死んだのは生まれる前なので、法律上は、生まれてないことになっている」

「あなたの死因は?」

「逆子《さかご》だったので、へその緒が首に絡まって、あえなく・・・というところだと思う」

「新生児のころの記憶ですから、当人の体験というより、そのあと周囲の会話から得た知識のようですね」

「うん」


「あなたは、誰ですか?」


「あはは。もう、ごまかせないね。あたしは、そう、スシの双子の妹です。逆子《さかご》でなかったら先に生まれて、姉だったのかも。うちらは二卵性双生児だったのです」

「いつからマヤさんに憑《つ》くようになったのですか?」

「マヤちゃんが、クモルクモヤのオーディションで東京行って、戻ったあたり。それでもしばらくは、あたしら中でじっとしてたよ。ひそひそ、マヤちゃんはもともと、化身すると中身も別なヤツになる気質なんだ」

 その場のメンバーから、押し殺したような声が漏れた。

「でも、憑いている女はもう一人いるけど、あたしはまだ普通だよ。もう一方は、前世がネアンデルタール人の女だから」

「えーーー!」

 キヤは、倒れそうになるのを必死にこらえ、質問を続けた。

「あなたの現在の楽しみは、何ですか?」

「スシが女と付き合って、その女のいいところを見出《みいだ》せるようになって、彼氏として成長するのを見守ることかな」

「見守るスタンスとのことですが、あなた自身が、スシさんの恋愛対象になることもあるのですか?」

「きょうだいだから、考えたことなかった。と言いつつ、前にスシに『あたしと付き合わないか』って言ったこと、あったね。体は他人だから、ワンチャン大丈夫かなあ?」

「マヤ副会長(クロハ)ですけど、キヤさん! そういう方向へ持って行かないで!」

 キヤはほかの女子全員から、敵意丸出しの物理的なツッコミを受けた。


 クロハ書記次長(マヤ)だけニコニコで、あとのメンバーは呆然《ぼうぜん》として、座席に戻った。

(マヤ副会長(クロハ)ですけど、今後のスシくんとマヤ、そしてわたしは、どう転んでいくか、まったくわからなくなりました・・・)

「スハですけど、ねえキクハ校長代行(スシ)。誰でもマヤ先輩に化身すれば、スシ先輩の彼女と名乗っていいというの、本当ですか?」

「本当なような、本当ではないような」

 クロハ書記次長(マヤ)、マヤ副会長(クロハ)、キヤ、キラが一斉に、キクハ校長代行(スシ)に刺すような視線を投げかけた。

(ひいい!)

 列車はスシたちのホームタウンに着いた。ホームに、サングラス姿の謎の女《キクハ》が出迎えた。

(キクハ先生本人が来たから、オレはまもなく元の姿に戻れる。家に帰れる。よかった。・・・でも世の中には、国外であらぬ容疑を着せられて収監されたままの企業人もいる。一刻も早い全員の解放を願ってやまない)


【エンディングテーマ「泥縄第二高校校歌」】

ガラス越しの君の瞳 どこかせつなげで

何か手伝えることないかと 言い出していた

違う人になれはしないけど 君思い

歌い続けた春の日 泥縄第二高校

(作詞・キュー山はちお)

https://www.youtube.com/watch?v=DZmdDunbpbs


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。