1章の4 えー? スルー? はたかれ損か
マヤ副会長は席を立ちかけたが、泥縄第三の生徒会長・スエが議事進行席に向かったのを見て、慌てて座りなおした。
「えー、泥縄第三の会長・スエです。半日会長のクモルさんに代わって、議事を進行します。よろしくお願いします。ボクは選挙で勝ってしまったので会長にさせられましたが、本来は副会長タイプです。キロを副会長に選任したのは、先生たちに説得されたからで、自分の意志ではありません」
パコーン
キロが自分の上履きで、スエの後頭部を思い切りはたいた。
「マヤ副会長ですけど、前置きはそのへんで、やるならやるで議事を進めてください」
「えー? スルー? はたかれ損か。まあいいか。それでは、順番に進めていきます。まず泥縄第二のキクハ先生、校長先生がどうなったか、詳しく説明を」
「はい。校長は本来、来年3月で定年なんだけど、前倒しできょう退職させられたの」
「マヤ副会長ですが、えー、双子先輩もそうだし、『前倒し』多くないですか? それに、前の校長先生はあと4か月、無職なんですか?」
「そうではないわよ。校長はもともと学校経営理事会の理事を兼務していたから、それが理事専任になっただけ。より精力的に取り組ませることで、来月の学校統合をめぐる会合へ向けて、態勢固めにかかったみたい。理事会には前任者の死去による空席が一つあるけど、それはそのままなのね」
「欠員1なんですね。ないしょシリーズは今回のタイトルが『欠員3』ですが、ほんとに役員を欠員3にされたら、うちらはやってられないですね。で、校長先生がいなくなって、そのままってわけにいかないですよね。新しい先生は4月まで来ないんでしょ?」
「学校理事会は『4月からどうせ泥縄第一と統合するから、泥縄第二に新しい校長は置かなくていい』という雰囲気なんだそうよ」
「まだ12月ですよ。無責任だなあ。統合だって本決まりでないのに。じゃあこのまま『校長、ないしょの欠員1』になるんですね」
「別に、ないしょじゃないけど。それで、いちおう代行が任命されたのね」
「教頭先生ですね」
「先生もそうだと思ったけど、違ったの」
「?」
マヤ副会長はキクハをよく見てみた。「早く聞いて」という表情と「えー、どうしようかな、聞かれたら言う?」みたいな表情が入り混じっていた。
(・・・。大卒2年目だし、まさかな。管理職登用試験だってまだ受けられないだろうし)
マヤ副会長はキクハから目をそらした。
「ここまで聞いといて、放置はないでしょ?」
「は?」
「ほら、校長代行は誰かなあ、とか」
「めんどくさいなあ」
マヤ副会長は、キクハがみるみる「どや顔」になっていくのを見て、身構えた。
「スエですけど、まあそう言わず、聞いてあげてよ」
「気が進まないけど、わかりました。校長代行って誰なんですか?」
「3年の学年主任教師」
キクハを除く全員が、その場に倒れこんだ。
「あ、うそうそ。わたしよわたし」
「もう遅いです。我々の中では、3年の主任教師が校長代行ということで進んでいきますので。先生が自分で蒔いた種ですので」
「ごめんなさい、もうしません。わたしが校長代行のキクハです」
「大卒2年目で校長代行って、何でもありだな。あと、きょう外部からゲストが来ているからって、狙いに行かないでください。しかも外すとか、そういうの教育者としてどうなんですか」
「管理職登用試験を受けてなくても、校長代行にはなれるみたいね。うちの学校が特別なのかしら? サッカーだと、監督のライセンスを持ってない人を総監督にして、ダミー監督の代わりに指揮を採らせる、というのがあるようだし」
「で、先生は、教員の人員削減も噂される中、指導している吹奏楽部と合唱部のコンクールの実績から、統合校に優先的に勤務できることになっていたと。それで校長代行に選ばれたと」
「白羽の矢が立っちゃったのよね」
「はいはい。じゃあこの話題はこれで」
「今後、先生は授業がないとき校長室にいるから。音楽準備室に行ってもいないからね」
(それでさっき、いなかったのか。ストーブも一緒に持って行ってくださいよ?)
マヤ副会長は「ん?」と疑問が浮かんだので、キクハに確認した。
「あ、そうそう。校長代行になっても、生徒会の担当教師って、やってられるんですか?」
「大変すぎて、できない」
「え! じゃあ誰が担当教師をやってくれるんですか?」
「近隣で一般企業に就職している人の中から、教員免許を持っている人を探して、講師に採用するよう頼んだわ。昨今、学校現場は就活生から敬遠されがちだから、どういう人が来るかわからないけど」
「ええ~?」
「とりあえず、オンラインカジノで身を持ち崩したぐらいの人なら、1か月の謹慎のあとに、やってもらおうって言ってる」
「それじゃあ統合判断の理事会会合に間に合いませんよ」
「まあ、そう言わないで」
キクハは席を立って出入り口へと歩いた。マヤ副会長の後ろまで来たとき、耳打ちした。
「ひそひそ、校長代行になっても、化身の秘密は教員管理職層には漏らさないから安心して。先生はずっとあなたたちの味方だから」
「ひそひそ、化身のことを知らない泥縄第三さんがいるから、気を使ってくれたんですね? ありがとうございます」
キクハはマヤ副会長をバックハグした。見せつけられたスシ会長はムカッとしたが、化身している身なので怒るわけにいかなかった。なんとかおとなしくしようとしていたとき、スマホにまたメールが来た。
(今度はクモルさんから?)
スシ会長は、すぐに内容を確認した。画面には「東京の事務所から急な仕事の呼び出しを受けて、これから行かなくちゃいけないの。半日生徒会長を始めたばかりでバツが悪いから、マヤちゃんに、あたしに化身してもらいたいの。上手だから。あたしは入れ替わりにマヤちゃんになる。化身のルールに従って、県外に出て人物の重なりを考慮しなくてよくなったらクモルに戻る」と書いてあった。
(なんですってえ! なんでこんなことスシくんのスマホに寄こすのよ! スシくんはクモルさんといつも、こんなふうに連絡取り合ってるの? だいいちクモルさん、わたしに化身できるの?)
スシ会長の頭頂部から湯気が出た。
それを見たクモルは、すかさずマヤ副会長をさらって生徒会室を出て行った。スシ会長はすかさず追って行った。
「えー、スエです。クモルさんたちがいなくなって、まさに『欠員3』になりましたが、議事を続けます。さきほど泥縄第二さんがいない間に、第一さんには説明したのですが、第三が置かれている状況についてです」
スエはのっぴきならない雰囲気を漂わせた。そんな状況でもキロは妙にハイだった。
「第三は、新たな公共事業のために校地から立ち退きが決まっていましたが、実はその期限が大幅に早まりまして」
「クロハですが、何があったんですか?」
「昨今の人件費や資材の高騰のあおりで、インフラ建設などがのきなみ停滞しています。学校側は公共事業の見直しや中止を恐れて、さっさと校地を明け渡して既成事実をつくり、後戻りできなくしたいようです」
「それは大変ですね。それで期限っていつですか?」
「年内」
「えっ! もう12月じゃないですか! 校舎が使えなくなったら、どうするんですか?」
「3年生は全員、12月に前倒し卒業。前から募集停止の噂があったせいで、1年生はもともと極端に少ないんです。中退者も多くて、泥縄第三は現在、1、2年生合わせて60人というところでしょうか」
「2クラス分くらいですね」
「校舎がなければ当たり前かもしれませんが、新年度新入生を募集しないことが通告されました」
「どこかに合流できなければ、そのまま廃校ということなんですね・・・」
「泥縄第二は1年生のクラスが少なくなって、教室をほかの用途に転用したと聞いています。そこを教室に戻して2年生を1クラス増やし、1年生は現在の3クラスに割り振ることで、うちの生徒は第二の校舎に全員収まるんじゃないかと」
「それ、スエさんが計算したんですか?」
「いえ、うちの校長が言っていたんです」
「それだと、泥縄第二と第三が統合する分には、第二の現校舎でうまくいきそうだ、ということなんですね?」
「でも、第二さんは、建て替えを求めてるんですよね?」
「それは、2校同時に建て替えるのを嫌って大きな校舎1校分で済ませようとした、学校経営側の考えを糾す必要からです。話をされたときには第三さんは現校舎にとどまる前提だったし、第二の新入生募集もしない計画だった。でも状況は変わった。第三さんを即時救済できるのがうちだけとなれば、採れる戦術は広がります。第三さんの第二への合流をタテに、第一と第二の統合を撤回して校舎を2校分、順次新築するよう、交渉する道が開けました」
場が静まり返った。
生徒会室にスシ会長とクモル芸能人が戻ってきた。
(クモル芸能人だけど、よりによって半日生徒会長に化身とは。オレは、れっきとした「毎日生徒会長」なんだけどな・・・)
「ああ、二人とも、お帰り」
「なんの話ですか? クロハさん」
「2校同時に・・・交渉する道が開けました、という話をしてたのよ」
「ええっ、で、でもっ」




