6章の1 先生が、そういうこと言わないでください
「5・4・3!」
ニューイヤーカウントダウンが始まった。
「スシくん」(二人同時発声)
「クロハ書記次長! マヤ副会長!」
「2・1・0!」
「あけましておめでとうございます!」(3人同時発声)
1月1日午前0時、スシたちは市内の大きな神社にいた。大みそか放送の国民的歌番組に、バックダンサーの一員としてクモルクモヤが出演したので、泥縄第二の役員は各自が家で見てから参集していた。目的は初詣だけではなく、スシ停学に抗議の意を示すため、どういう闘争をするか議論することだった。
「スシさーん」
「あ、キヤさん」
とくに呼んでないのに現れたキヤは、ワキを連れていた。
(たまたま会った、というかんじではない。オレたちの集合をかぎつけたんだろうな。ワキさんとやたらベタベタくっついているのは、オレらの中にある『本当にワキ先生とカップルなのか』という疑念を封じる意図かな?)
陸上部のトラックキャプテンで、泥縄第一との交流体育祭の代表監督を務めたワムは、同じ陸上部のフィールドキャプテンの女子を伴って現れた。カニのFA移籍で選挙管理委員長に昇格したレサは、自分がキャプテンを務める女子バレー部のレギュラー全員を連れて来た。野球部の意思表示の全権を委ねられたチーフマネージャーの女子・サヤは、1年生の女子マネ3人を連れている。新聞部長のナハ、演劇部長のホキ。泥縄第二の主だった運動部・文化部の部長会議メンバーもしくは代理人が、顔をそろえた。
そして、キクハも来た。
マヤ副会長とクロハ書記次長は、キクハに冷たい視線を浴びせた。停学という、ひどい仕打ちをされた当人のスシだが、キクハに厳しく接することができず、愛想笑いをした。
「スシくん、あのね、」
「マヤ副会長ですが、会長のスシは、先生と話すことはないと言っています。お話は、わたしとクロハ書記次長でうかがいます」
スシは「えっ?」という表情を見せた。
「クロハ書記次長ですが、会長のスシは、1週間も授業を受けられなかったら、期末考査で悲惨な点を取って、留年するかもしれません。そうなったら責任取ってくれるんですか! と言っています」
スシは「いやいや、言ってないですよ?」という顔をした。
キクハは、その場に多くの生徒がいたのに、また泣いてしまった。
よろよろしながら何事かメールを打って、送信するのが見えた。
スシはすぐ着信に気づいた。
(あれ? オレあてなの?)
キクハは、逃げるようにその場から去った。
「クロハ書記次長だけど、スシくん、あとでそのメール見せてね」
「えー? ただの連絡事項じゃないの? 合唱部と吹奏楽部のニューイヤーコンサートを見に来て、とか」
「マヤ副会長ですけど、あんなにつらそうなキクハ先生ですから、普通のメールをよこすわけないです。スシくんと関係修復を願う一心で、何かしら譲歩をしてきているかも」
「キヤは、キクハ先生と歳が近い女として言いますが、先生の様子からして、スシさんは先生にとって、ただの生徒ではなくなりつつある、と言えそうです」
「スシですけど、ただの生徒でないというのは、まあ、オレ、いちおう生徒会長ですし」
「そういうことではありません。んもう、わかってて言ってるでしょ」
「ええ~?」
「クロハ書記次長だけど、キヤさん、あんたはどうなのよ。ワキ先生を連れてきたってことは、わたしはワキ一筋ですって、ことなんだよね? ね?」
「それとこれとは違います」
「ワキですけど、キヤはけっこう、スシくんのことが好きなんですよ」
「スシですけど、彼氏である先生が、そういうこと言わないでください」
「クロハ書記次長ですけど、ワキ先生はキヤをつなぎとめておいて、スシにちょっかい出させないでください」
「それはマヤ副会長からも、お願いします」
話が続いていたが、ワム、レサ、サヤ、ナハ、ホキが割って入ってきた。
「ワムです。あけましておめでとう、スシくん。きょうは、お願いしにきたんだ。クロハさんとマヤさんに打診された、学校経営側との闘争のことだけど。選択肢に全校授業ボイコットがあるでしょ。これ、授業がない冬休みの間だけ実施することで、実害が生じないようにすると言うけど、運動部はこの時期、学校施設に入れなくなるのはきついんだ」
「レサです。学校経営側への対抗手段としての全校授業ボイコットは、法的根拠がないという点で、公務員のストライキのようなものです。実行すれば批判的報道は確実。バレー部は近日、県代表として全日本高校選手権に出るので、この時期にそういうふうな注目を集めたくないんです」
「サヤです。高校野球では、強豪校が生徒の不祥事で出場辞退というケースがあったばかりです。いま泥縄第二の生徒が学校経営側との交渉を打ち切り強硬手段に訴えても、世間はモラル喪失と受け取るだけでしょう。現役生徒だけでなく、泥縄第二野球部からの将来のドラフト指名にかかわるかもしれないので、なんとか思い直していただけないかと」
「ホキです。マヤさんもクロハさんも、お怒りはごもっとも。でもおふた方は、一方的に2・5%を15%にするとか、生徒が本当に困ることはしない人だと信じています」
「ナハです。授業ボイコットをすれば、学校経営側が怒って、泥縄第一に強制的に統合されるかもしれない。そうなったら、キラはどうなってしまうの? あのコは、スシくんがだめならカニくんに走るとか、そういうことはできないコだからね!」
「マヤ副会長ですが、泥縄第一の書記長・カニくんと第三の前生徒会長・スエくんの連名で、学園闘争を思いとどまるよう説得するメールをいただきました。ナハさんのご意見同様、学校経営側の心象を害して第二と第三の合流がなくなることを危惧する内容です」
「ワキです。生徒に授業ボイコットをされたら、教職員は強い態度で臨まなくてはいけなくなる。いま教職員と生徒を分断してしまうのは得策ではないです。教職員と生徒が一致団結して向かっていくべき相手は、学校経営側なのですから」
「スシですが、全校授業ボイコットは回避の方向で、お願いします」
「クロハ書記次長だけど、停学をくらった本人が、そんな軟弱なことでどうするのよ!」
「いや、だって、オレ一人のために、みんなを巻き込めないでしょ」
「マヤ副会長ですけど、スシくん、さっきのキクハ先生のメール、わたしたちに転送してください」
スシは気が進まなさそうに、女子役員3人にメールを転送した。
「ん。停学を1日に短縮するという申し出ですね。日取りは、3校の生徒会長がオブザーバー参加させてもらえる、系列大学本校での学校経営理事会合の日。向こうの狙いは、スシくんを会合に出させないことのようですね」
「クロハ書記次長です。みなさんのお話をうかがうと、たとえ冬休み中であっても、全校授業ボイコットは難しそうですね。スシくんの名誉を回復するのが目的ですから、当人が『やめろ』と言う以上、無理に実行できません」
泥縄第二の部長会議メンバーから歓声が上がった。
「そのかわり、わたしとマヤ副会長で、スシくんの停学の日に自主休校して、系列大学本校に押しかけます。会合の部屋に入れてもらえなくても、同じ建物の中でプレッシャーをかけるつもりです」
部長会議メンバーからは「1日だけなら、オレも付き合うよ」「なんかワクワクする」「スシくんが行けない分、オレらが行くのもアリかと」といった声が挙がった。
「ワキですけど、みんなで示し合わせて学校を休むと、授業ボイコットと変わらなくなりますよ。自然発生的なサボりということにしないと。参加人数も、そう多くはできません」
「キヤですけど、停学が1日に短縮されてよかったです。学校経営理事会合を控えた大事な時期に、同盟休校でスシさんマヤさんクロハさんに1週間も抜けられたら、執行部活動がマヒします。あと、わたしはその日は理事会合の部屋に詰めていますが、本来の業務をしているので、みなさんと一緒に行動はできません。みなさんの健闘を祈ります」
「クロハ書記次長だけど、あんたは非正規役員だから、もともと当日は期待してないよ」
スシは、今度はキロからメールを受け取った。
(なになに、「わたしは泥縄第三の生徒会長だから、当日オブザーバー出席するけど、DDにも来てもらうわ。DDは会合の部屋に入れないけど。スエは生徒会長解任が知れ渡っていて、連れて行けないから、代わりにDDに精神的支柱になってもらうつもり。わたしはDDが好きじゃないけど、スエがそうしろって言うから」か)
メールには、泥縄第三の生徒会規約の抜粋が添付されていた。
メールに気を取られるスシに、マヤ副会長が渋い顔をした。
(ごめんなさい、ちょっと軽率でしたね)
スシは再び、ぴしっと立った。
「クロハ書記次長です。みなさん、あけましておめでとうございます。昨日、スシ会長の名誉回復闘争を模索するご連絡を差し上げましたが、この場を持ちまして、正式に中止といたしたいと思います」
拍手が起こった。
「自発的に、あくまで自発的に、学校経営理事会合の会場へ足を運ばれる方は、止めませんので、どうぞご自由に」
「ワキですけど、会場のキャパからして、いっぱい行くと入りきらないです。3校合計で20人くらいですかね。マヤさんとクロハさんで調整してください」
「マヤ副会長ですけど、わかりました。ここで停学の目に遭った会長・スシから、みなさまにご挨拶があります」
「えー、みなさん、きょうは寒い中、お集まりいただきまして、ありがとうございます。停学を言い渡されたわたしですが、停学になるようなことはしていません。これははっきり申し上げたいと思います」
「ワムだけど、泥縄第三校舎でのスシくんの動きは、学校連絡サイトでずっと見ていたよ。停学は不当! スシくん、負けるな!」
拍手が起こった。スシは涙をぬぐった。
「あ、ありがとうございます。スシは当日、会合に参加することはできませんが。優秀有能な副会長と書記次長のうち、どちらかに代理出席してもらいたいと思っています」
「ひそひそ、マヤ副会長ですけど、そんな甘ちょろいこと、ないでしょ」
「ひそひそ、クロハ書記次長だけど、当然、スシくんが誰かに化身して出席する流れだよ」
マヤ副会長とクロハ書記次長は、スシをじっと見つめた。
初詣は解散となり、各自、家路に就いた。
「へー、泥縄第三の生徒会規約だと、生徒会長が任期中に退任する場合、後継指名ができるのか。スエくんはキロさんを指名したんだな。選挙なしですぐに昇格していたのは、そのせいか」
スシに、またメールが来た。
「クモルさんか。なになに『正月に1週間くらい海外の仕事があるって言われたの。理事会合の日にかかってしまうんだけど、行ってもいいかな?』って、そんなのオレに断ることじゃないだろう」
すぐにクモルから電話が来た。




