4章の7 7人だから補充は必要ない(後編)
「クロハ副会長です。次の議題、誰かありませんか? なければ終わりますけど」
「スシです。あのう、クモルクモヤのお二人は来年が飛躍の年になるそうで、いくつかある『24』関連の番組に、事務所が懸命に売り込んだけれど、残念ながら『本物』には出られなかったそうです」
「へえ、そうですか、としか言えませんけど。スシくん、単なる世間話でなく、もっと議題っぽいものを出してもらっていいですか」
クモルクモヤとスシの接近を警戒しているクロハ副会長は、苛立ちを隠さなかった。
「スシ続けます。類似の番組のうち、どれか一つを選べるそうですが、選ばなかった番組のスタッフからは不興を買うことになります。さて、どの番組に出るのが一番メリットとデメリットのバランスがいいでしょうか? ❶24秒間テレビ❷24分間テレビ ❸24日間テレビ ❹24か月間テレビ ❺24年間テレビ・・・㉕」
「ナハですけど、❺は24年に1回しかスタートしないし、まだ前回のものが放送中ですよね、たしか。番組冒頭に出演していた高齢の出演者が、放送中に鬼籍に入ることも多くて、なんとも言えないんじゃないかな」
「キヤですけど、❶は30秒バージョンのCMより短いくらいですけど、CMのように繰り返し放送してもらえるんでしょうか? そうでないと、訴求力に欠けます。番組の作り込みは無駄に本格的で、手間と疲労は本物の『24時間』と変わらないムチャさです。その他大勢の扱いなら、あまりメリットはないように感じます。以前、制作スタッフに世話になったので恩返し出演、というのでもなければ、見送りが賢明かと」
「サヤです」
「キラですけど、ここまで死んだふりをしていたサヤちゃんが、ついに口を開いたわね」
「いやー、それを言われると弱いんですけど」
「きのう誕生日だったのよね?」
「そうだけど」
参加者は拍手をして、それ以上のことはしないけどゴメンね、というムードを醸し出した。
「サヤちゃん、実はきのうのトトトピアにも来ていて、しかも真っ先にキスしたのよね・・・㉖」
「実はそうなんだけど」
「相手は3年の、引退した野球部キャプテンのチキさんでしょ。あなたがた、泥縄第一と第二の交流体育祭にも、そろって出てたよね?・・・㉗」
「そう」
「ヒューヒュー」
参加者は拍手をして、それ以上のことはしないけどゴメンね、というムードを醸し出した。
野球部のチキは甲子園での活躍が認められ、西日本のプロ球団から育成指名を受けて入団。支配下登録獲得へ、飛躍が期待される。1月には地元を離れなければならず、昨日のトトトピアでのキスチャレンジで焦っていたのだ。
サヤはマネージャーであって選手ではないものの、実質的な部長権限をチキから譲り受け、「全権マネージャー」として八面六臂の活躍を見せ始めていた。
「改めまして、サヤです。普通に考えて❷24分間テレビ ではないでしょうか。24分というのは、30分枠のCMを除いた尺に相当するわけですから、一番無難で妥当かと」
「クロハ書記次長だけど、サヤさんは、カミセブンとしての用のほかに、生徒会室に用があったと聞いたけど?・・・㉘」
「あの、今こうやって、御神体に腰かけているので、もう用は済んだようなものですけど。この御神体は、県内のとあるお祭りで、公募された新妻が4人くらい跨って、お神輿のように担がれて練り歩いた物と聞いています。子宝の願いが込められていたそうです。わたしもチキと離れてしまうので、なんらかの形で気持ちを表せないかなあ・・・㉙ というのは、いま考えました」
「いまですか」
執行部の女子は全員、御神体のいわれを知っていた。
サヤの話を聞いて、ホキがもじもじしながら御神体から降りた。待ちかねていたように、キラが腰かけた。
「クロハ書記次長だけど、こらこらキラちゃん、スシくんとの子宝を願ってるんだったら、やめてよ?」
「いや、生徒会室のスペース的な都合で、あたしの場所をサヤちゃんに明け渡さないといけなくて。あたしは入れ替わりに、サヤちゃんがいた場所に移動しただけなのよ」
「それにしても」
「でもまあ、スシくんはうちの町の住人だし、住民票を移さないでいてもらうように、あたしが責任持って引き留めて、ひいては人口増につなげられればいいな、とは思っています・・・㉚」
「そんなふうに考える町長の娘、あまりいないと思う」
「スシです。北の新幹線(北海道や東北ではない)の延伸ルート決定について、少し話したいと思います・・・㉛」
「ナハです。スシくん、キラの渾身のコメントをあなたがスルーとか、何考えてんのよ!・・・㉜」
「クロハ書記次長です。スシくん、続きをどうぞ」
「湖の西の線路が経営分離されるそうですが、かつて在来線最速の160キロ運転で知られる線路ですから、もったいない。ここはひとつ、ミニ新幹線方式の、標準軌改軌が考えられないかと。ミニ新幹線は小ぶりな車両を使いますが、湖の西の線路は、全駅を改修すればフル規格車両が使えそう。だめなら単線2階建てにする。湖の西の線路の起点から都の駅までは、在来線に沿って線路を敷き、地上設備を共用する。速達以外の需要には、『こだま』のような列車を各駅に停めて対応する。在来線軌間の貨物車両は全車、湖の東回りに統一。現状で、湖の西の線路は風で不通になると湖の東への迂回輸送が行われるけれど、改軌すると迂回できなくなるのがネックです。ただ標準軌改軌は『東京都都心に地下鉄を1キロメートル建設するだけの工事費で、福島~山形間のミニ新幹線ができた』と言い伝えられている、抜群の経済性が魅力。地元負担に難色を示す県も、湖の西の線路の活用も同時にできるこの案なら受け入れやすいのでは。・・・㉝ 今さら変えにくいかもしれませんが」
※標準軌改軌=在来線のレール幅を、新幹線車両に合わせて、敷き直すこと。
ナハがキラに気を遣って、御神体から降りた。
「スシくん、わたしが場所を空けたから、ここに座りなよ! 県内のほかの地域には、御神体に新郎新婦で跨る祭りもあるんだから」
「キヤです。スシさん、ここは座るところですよ」
スシは大人しく御神体に腰かけた。前から、スシ、キラ、サヤの順になった。キラはにこにこして、スシの腰に馴れ馴れしく腕を回した。
「・・・」
キラは何かに気づいた。
「スシくん、」
「はい?」
「スシくんって、男子としては、妙にウエストが細いね。差し支えなかったら教えて。何センチ?」
「えーと、ごにょごにょ」
(え? それしかないの? どうりで女子のスカートが簡単に穿けるわけだ)
「ホキだけど。演劇人として言わせてもらうけど、スシくんの低く出している、いつもの声は、実はそっちのほうが作り声でしょ。地声は『特技の女子みたいな声』のほう。発声の様子をみていると、わかる・・・㉞」
スシは凍りついた。
「そうかなあ?」=キラがスシの声色で発声=
キラが、スシのマネをぶっこんでも、場の空気は変わらなかった。
「キヤです、キヤです! スシさんは留学生エースと結婚するのがためらわれるようなので、スシさんとマヤさんか、スシさんとクロハさんが結婚して、エースを養子(養女)にするというのは?・・・㉟ 多少無理はありますけど、人助けと思えば」
「スシですけど。クロハさんは9月生まれで、マヤさんは3月生まれ。二人ともエースより年下なので、養子(養女)にするのは根本的に無理です。エースとは34から36親等どころでなく離れています」
「クロハ書記次長です。下校時刻が近づいています。これがラストの話題になりそうです」
「スシですけど、話題? 議題ではないのですか?」
「そうとも言います。でもここで、いったん拡大執行部会議を終了します。マヤ副会長が戻って来たら再開します・・・㊱」
入り口の向こうで待機していたマヤ副会長が、スッと入って来た。
「ひそひそ、マヤ副会長さん、調べてもらってたの、どうだった?」
「ひそひそ、スシくん、それで間違いなかったわ」
「ナハだけど、ひそひそ話やめる!」
「クロハ副会長です。世の中の『3』がつくエンタメ作品を、みんなで1作ずつ挙げてください。1章で既に出た『ゴルァ13《サーティーン》』は除きますよ。深夜放送みたいに、MCのわたしが独断で1位を決めます・・・㊲」
「ナハですけど、1位になると、何かくれるんですか?」
「そうねえ、次期生徒会長選挙にその人が出たら、わたしが応援演説をします」
それを聞いてサヤとホキは「わたしら選挙には出ない」と反発。「議題は実質、終了している」として、生徒会室から出て行った。
「スシです。機械戦士ガンドムⅢなぐりあい空編(1981年)」
「そうねえ、『ガン』と『戦士』と『Ⅲ』しか合ってないのに、何だか見当つくってすごい。メインカメラと左腕がなくても、主役機とわかるだけあるわね」
「ナハです。響け!ユーフォーキャッチャー3(2024年)」
「そうねえ、筐体を赤と青のバチでたたいて響かせたら、ゲーセンの店員さんが飛んできそうよね」
「キラです。山月のライオン(2016年から2期)」
「そうねえ、このお題で『3』をなくすのアリなのか。ライオンと言っておいて、最後は虎になっちゃうのよね。中島敦的展開」
「マヤ副会長です。3594《さんごくし》(1991年)」
「そうねえ、漢字がなくなって、元の作品の雰囲気ぶちこわしね」
「クロハ書記次長です。空買い上手な高木3(2018年から3期)」
※空買い=資金がないとき、証券会社から借りて株式を買う取引のこと。「信用買い」とも言う
「スシだけど、着眼点いいよね! 最後が『さん』で終わる作品は多いから、なんでもアリになりそうだけど。あと『さん』がないから呼び捨てになっちゃってるけど」
「キヤです。じゃあ、サザA3(1969年から放送中、一時期は週2回放送)
「クロハ書記次長です。A3て、紙の大きさですかね。けっこう大きいな。『さん→3』のムーブメントに乗っかっただけという気もしますが、時間もないし、キヤさん1位で」
かすかな拍手がおこった。
「でもあなたは非正規生徒で、会長選挙には出らないので、賞品はナシです」
キヤは、そんなことはどうでもいいとばかりに、誇らしげだった。
「今回、議題は25も出ればいいと思っていましたが、37も出ました。ご協力ありがとうございました。会議の最後に、議題それぞれについて、会長の裁定をいただきたいと思います」
「え、えー? どうしよう」
「早くやってよ」
「えー? えー」
「後がつかえてる」
「わかりました。①役員が言う通り対象外②個人的には、キラさんが復帰しても現行の8人を超えないので、加えてもいいと思う。継続審議③非正規生徒だからダメかな④同感⑤レサさんを外すのは反対⑥同感⑦個人の所感を述べたもの⑧迷惑な話だ。オレが独断専行すると怒るでしょ、みんな⑨辛い決定になったら、ほかの役員の誰かが、レサさんに通告してほしい⑩心中察します⑪経過報告了承⑫まったくもって時間の無駄、とか言ったりできない⑬思い出話、思った通りのことを口にした⑭了解⑮噴飯ものだが、あまり強く言えない⑯所感を述べた⑰そう言われると、それ以上言えない⑱素直なイジリ⑲社交辞令とわかっていても、ちょっとうれしかった⑳了解㉑それはオレもなんとなく感じている㉒所感を述べた㉓そういう指摘は謙虚に受け止めたい㉔了解㉕どれがいいだろう㉖そうだったの、って、知ってたけど㉗総監督のワムくんが人選した㉘どういったご用件で㉙そうですか㉚悲壮な覚悟のように思える㉛話をそらそうとしました㉜お怒りごもっとも㉝これはそう思っていることです㉞ノーコメント㉟養子ネタ2回目だな㊲応援演説はマヤさんにやってもらうほうがよくないか?」
「ありがとうございました。これをもちまして、本日の拡大執行部会議を終わりたいと思います。・・・あー、なんか疲れたな。スシくん、帰り、送ってって」
「クロハさんの家に?」
スシはナハをチラ見して、クロハ書記次長の視線をそちらに誘導した。
「も、もちろんそうだよ」
キラが生徒会室に施錠して、全員帰途に就いた。前日がパーティーだったので、クリスマス当日の集まりはなかったが、スシとクロハ書記次長とマヤ副会長の姿が、いつからか見えなくなった。




